山田昌弘氏著「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか」を読了して

本稿では山田昌弘氏の著書について、筆者の考えを書いていきます。

まずは、山田昌弘氏の概要について。
1957年生まれ。東京大学文学部卒。東京大学大学院社会学研究科博士課程取得。中央大学文学部教授。専門は家族社会学。内閣府の男女共同参画会議・民間議員を務められています。
では山田氏の著書についてです。
統計データも交え、日本人の思考と価値観、経済状況、欧米と日本の価値観の違い、リスク回避などを丁寧に整理されていると思います。

最近ABEMA Primeに少子化問題について出演されていました。
https://youtu.be/7L6kua42eAM

なお、以下で山田氏については著者、わたくしについては筆者としています。

本書の要約

・日本人の思考・価値観
日本人は、将来の人生設計を早くから立てる人が一般的であるとしています。かくいう私もそのうちに入ります。そうでない方もいると思いますが、大多数がそうであるとしまして、特徴的だとするのが「交際を考えるときにも結婚・出産を考慮する」という考え方だそうです。
将来の子どもへの愛情からか、「できる限り自分と同程度の教育を与えたい」という欲求があるとのことです。※他国は愛情の方向性が違うだけで愛情がないというわけではない。
そして結婚を考えるようになったとき、世間体への意識から、結婚を考えている相方の年収、借金(奨学金含む)の有無、環境などを考慮し結婚のハードルとなるとのことです。

・経済状況
著者は経済が上向きにならないことから、上記のように将来の人生設計を早期に立てる日本人は、自分はまだ子どもを育てる状況になっていない、としていまは結婚できない、としています。
(筆者記:ここ30年、日本は1989年の日銀の金融引き締めに端を発する何十年ものデフレ経済が続く。その間、円の価値は一部を除き0%均衡が続き、先進国をはじめとする他国は経済学に基づいたマイルドインフレで推移させたため、日本は相対的な円高によるデフレに長年苦しめられる。平均年収は低下が続き、年収が上がる見通しが立たない。)

・欧米と日本の価値観の違い
日本が少子化対策でモデルとしたのが、スウェーデン、フランス、オランダであったとのことです。しかし文化の違いがあり、ここでも失敗の原因があったのでは、と著者は主張しています。
1.子どもが成人したら、日本では実家暮らしも普通であるが欧米では独立して生活することが一般的であること。
2.仕事は女性の自己実現であるという意識。
※日本社会全体の出生率というマクロな数字では、「大卒、大都市居住者、大企業正社員、公務員」というキャリア女性ではなく、「非大卒、地方在住、中小企業勤務、非正規雇用者」の女性が圧倒的に多い。
またアンケート「第6回結婚・出産に関する調査(2010)」(明治安田生活福祉研究所)「結婚後の家計は夫が支えるべきだ」は男女とも70%越え(男70.4、女72.3)、「子どもが小さいうちは母親が育児に専念すべき」(男55.4、女66.6)の結果が引用されている。
また著者は、1985の男女雇用機会均等法成立後、女学生に「結婚、出産後も働き続けたいか辞めたいか」アンケートを行い、成立当初こそ「働き続けたい」が多かったが、近年は半々になるという結果も引用している。(また中野円佳氏「育休世代のジレンマ」(2014)も参考。)
3.恋愛感情を重視する意識。
4.子育ては子が成人したら完了するという意識。
以上の点で、欧米人と日本人の文化、価値観の違いから失敗したのではないかとのことです。

著者は、本書の結論として、「親の愛情、世間体意識、そしてリスク回避意識の三者が結合して、少子化がもたらされていると考え、その状況に対して、欧米型の少子化対策、つまり、女性が働きに出られればよい、という形での支援は「無効」である。」としています。

著者は、非常に言いづらい内容にも真摯に回答しています。また統計を用い、世間的に賛同されているものにも本当にそれが少子化対策になるのかということに言及しています。
ただ女性が働き続けたいと思える環境が未発達であることも2.の結果に影響が出ていると個人的には考えます。
それでも全体を通し非常に勉強になりました。

筆者の考え

ここからは、本書を読了し、また当事者の一人である筆者の考えを書きます。また筆者は’88年生まれ、男性で、その時代を生きた人間の肌感覚です。

・原因
1.日本人男性の自信失墜
2.内向的な男女のマッチングは困難・仲人不在の時代変遷
3.趣味の多様化と、オタク文化への迫害
4.男性の、スクールカーストと異性恐怖
5.本書で書かれていない論点

1.日本人男性の自信失墜
これは、原因も解消も単純明快です。30年もできないままでしたが。
スマホが普及してマッチングアプリもでき、いつでもどこでも男女問わず異性とコミュニケーションをとることができます。自由恋愛の土台はできあがっているといえます。しかし世間的には原則男性からの能動性が主です。男性側が行動しなければなりません。性欲はあるのに、それができない男性が多いのです。なぜか。自信がないからだと考えます。
その自信の指針になるのが経済だと思います。ここ30年、年収は上がるどころか減っています。これが恐らく一番自信の無さに効いていると思います。また(良いか悪いかは別にして)女性の社会進出により男性より収入が高い女性も珍しくなく、男性には自己肯定がなかなか出来ない世の中でありましたので、まず男性が自信を取り戻すことからだと考えます。
要は経済がよくなり、収入、可処分所得が増えればいいです。それが男性の自信につながります。
そのためには、政府は余計なことはせず、減税して民間が使えるお金を増やし、規制緩和して民間が自由に経済活動をする。そうすれば、給料のいいところに優秀な人材が集まり、雇用競争が起こる。雇用競争が起これば秀逸な製品が優秀な人材の集まるところが開発されるので、給料を上げなければ人が来ず立ち行かなくなる。本来アベノミクスが目指し腰折れしたものを実現させればいいです。
著者の本の中でも上に挙げたように、日本人男性は、家庭の収入に責任をもつべきである人間が統計上多いです。今の経済はインフレとデフレのどちらへ振れるかといった、ある意味インフレになる境目のところなのですが、30年もデフレが続き平均年収は低下が続いて責任感ある日本人男性の自信は喪失状態にありました。
ひと昔前は、「総中流社会」なる、決して上流ではないかもしれないけれど、大部分の男性には、一定の男性のプライドが堅持されていました。そして、「頑張れば、去年より今年の方がいい暮らしができた。収入も上がった。来年も頑張れば(きっと)今年よりいい暮らしができるから、(家族のためにも)頑張ろう」という意識ができるのが男性の意欲のインフレターゲットのようなもの。経済がもたらす効果はこちらの方面でも高いと考えます。
基本的に子どもを出産する下地は、経済が上向きになれば出来上がると考えます。1970年代の団塊の世代といわれるベビーブームは、池田勇人が1960年に首相となり「10年で皆さんの所得を倍増させます」を公約にして8年で達成(するもご本人は志半ばでこの世を去りましたが)。そのさなかにベビーブームが到来しました。
現政府が少子化対策に行うべきことは日本のマクロ経済を上向きさせることが第一で、男性の背を少し押してあげる程度でいいです。むろん、保育所等育児環境も必要ですが、民間や地方団体が国民に押されて自然と行います。出生数が増えたあとの環境改善は、真面目に取り組まないと地方自治体も難儀しますので。国民の世論で必要なものは変えられます。

2.内向的な男女のマッチングは困難・仲人不在の時代変遷
内向的な人間は、結婚したいと思っていてもそもそも自分から結婚をするための行動を取らない、または取っても諦めるのも早い人が多いと思います。なぜなら自信がないから。
そして交際歴が無いまま年齢を重ねるとそれに比例して腰を上げるのも重くなっていきます。例えば、これまで就業の経験がない場合で、今から就職活動しようにも20歳と30歳のときで必要なエネルギーが全く違うと思います。また、30歳のときに、異性と知り合い、コミュニケーションを重ね、デートに行き、交際し、年月を経て結婚する、を一からしなければならない、という将来を見据える人であればいつ終わるのかわからない気の遠くなるようなゴールを目指すことになります。
さらに交際・結婚は、仕事と違い、生活するうえで必須ではなくなりました。日本は技術も発達し治安も安定しており、都市部なら男女とも一人でも問題なく生活できる基盤ができています。ここも大きいと思います。
外向的な人であれば、恋人がほしい、と思ったら行動に移されると思いますが、経験のない内向的な人は後押しがないとできません。
そういった人には積極的な地域のおばちゃんや、会社が社内恋愛で取り成したこともありました。ただ難儀であるのが、恋人ができない、また異性が怖いと思うことが格好悪いこと、不甲斐ないと思い、あまのじゃくになり外に強がりを発するのだと考えます。「今はほしくない」など。下にアンケートのデータ参照を載せていますが、回答者が正直に回答しているかは不明です。一時期私もほしいわけじゃないと思っていましたが、今から思い返せば自信のなさからくる「努力しても結果が結ぶかわからないし異性が怖い、拒絶されるのが怖いから、今はいいや」が正直なところだったと思います。

3.趣味の多様化と、オタク文化への迫害
クールジャパン。今ではこの言葉も自然になってきましたが、その背後には苦しい環境がありました。
近年はインターネット技術の進歩が目覚ましく、比例するように趣味・娯楽が増えました。
中には多数の人に好意的にみられるものもあれば否定的なものもあります。
アニメ・漫画・ゲーム・アイドル(最近はVtuberも)はその代表的なものです。20年前ほどになりますが、当時のアニメ・漫画・ゲームへの迫害は、今では考えられないものでした。まあ、サブカル好きな人間から見ても顔をしかめるような作品もあるのですが、ある種日本の表現の自由が守られているともいえます。
マンガ・アニメは、男であれば「ワンピース」「ブリーチ」は必修で、「鋼の錬金術師」あたりがボーダーライン。その下に割り込むものを発見しようものなら迫害対象です。
ゲームは、代表的なものであれば'96年にポケモン初代、’97年にFF7、’99にスマブラ初代、’01年にFF10が発売されました。また今のオンラインゲームのはしりが生まれ、’02年にFF11、ラグナロクオンライン(RO)がリリースされました。中学生にあがると、ゲームは「子どもがするもの」との認知があり、幼稚なものと思われ、これまた迫害対象です。
基本的にスクールカーストの上位の人間であっても、当時は好きであっても絶対に表には出せません。声優の杉田智和さんも学生時代を語っていたとき、スクールカーストの上位の人間にアニメ好きがおり、杉田さんがその作品を知っていることを知り秘密裡に交流していたとか。
誰にも相手にされずサブカルの世界へいったのか、サブカルの世界へいったから誰にも相手にされなかったかは人それぞれですが、当時はサブカル好きの人間は生きづらい世の中でした。インターネットも普及過程で、ケータイも友人同士、PCはまだまだ高価な時代でした。(そういえば今のショート動画って昔のFlashみたいで、なんかmixiもやってるみたいなんですね)
そんな中世の裁判にいつかけられるかわからない中、知られるとスクールカーストの上位から迫害を受けます。男女から「キモッ」「気色悪」という言葉責めからはじまり精神、肉体ともその学校にいる間いじめにあうわけです。誰も止めないし、止められないといじめを受けている側もわかっていますが、人間不信になりますし、異性からもそういう言葉責めを受けたり、近くを通るとあからさまにいやな顔をされ足早に去られたりします。この精神的苦痛を多感な時期に負うのです。もともと内向的な人が多いと思いますが、さらに内向的にいくわけです。克服できた人もいるでしょうが、絶対数でいえば少数でしょう。結婚適齢期を迎えている多くのオタクがこの苦痛を受けていたのではないでしょうか。
男性への「キモい」の破壊力は、女性への「ブス」と同等の破壊力があるのではないかと思います。

4.男性の、スクールカーストと異性恐怖
最近はマッチングアプリもあり、男性はお金と時間と行動力があれば、意図的にパートナーを欲する異性と会うことができます。
筆者がよく見聞きするマッチングアプリのコツとして紹介される内容は、男性はとにかく数を打つこと。また事前に紹介文と写真をどういったものにするかを把握するのも大前提。まあ写真はお見合いでもそうですよね。したことないけど。
とにかく少しでもいいなと思ったら色んな人に乱打。女性側(恐らくいいね!がたくさん送られてくるような工夫をしている人)は一日に何十何百といいね!が送られてくる膨大な中から選び、文字でコミュニケーションをいくつかしていく中で実際に会う約束をするとのことです。
実際にマッチングアプリで結婚された知り合いも「一日10人にいいね!を送る」を目標にしていたといっていました。
またマッチングアプリで結婚報告をした男性も、「アプリで50人と会った」という話も。
という話を聞いていて、たしかにアプリを手に入れ、女性にいいね!を送ることまではたしかに手軽です。ただし問題はそこから。実際に会う・交際する・結婚するのにどれだけの労力と時間、会ってきた人がいるかです。導入は手軽でも、手軽ゆえに活動している母数も非常に多く、難易度はかなり高い部類だと思います。うまくいかずコツを調べている間に自信のない人は諦めるのではないでしょうか。どちらかというとまだ街コンや相談所などの主催するコンパのほうが、母数が少なく最終的なハードルはまだ低いのではないかと。
私は、マッチングアプリこそ入れたことはありますが、異性にいいね!を送ることができないくらい異性に対して度胸がありません。勉強ができない、運動ができない人がいるように、恋愛するのにいいね!も送れず、送れたとしてもその先に待ち構える数ある段階で挫折するであろう人間もいる。恋愛偏差値なるものがあれば絶望的ですね。
お金がないという表面上の問題だけでなく、迫害がたしかに存在し、自己肯定が弱い人間が、さらに社会に出てもお金がない・稼ぐ能力がないことで自信の喪失につながっているというのが一つの大きな問題ではないかと考えます。

5.本書で書かれていない論点
また、本書にはある論点が書かれていませんでした。(他の著書で書かれているかもしれませんが)
なぜ筆者が上の1~4を問題点にしたのか、です。
「交際経験がない人がなぜ恋人を作らないか」です。
いろいろなところで日本男性の交際歴なしが20代で約40%、女性約30%とあがっています。
下は内閣府の各種アンケートです。

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/

また、下は内閣府の平成27年度の交際・結婚調査の解説ページです。

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h27/zentai-pdf/pdf/s3_1.pdf

77ページで、日本の「結婚、または同棲はしたほうがいい」以上の肯定的な回答が80%近くです。潜在的に80%近くが結婚または恋人がいたほうがいいと思っています。ただ現実はそうなっていませんし、上で原因を考えた人間の一人の筆者が言うことではないですが、人なんて千差万別なので一概にこれが原因、なんて解答はだせるはずはありません。
ちなみに結婚につながらないと考えられる「異性に興味がない」は約15%。
しかし、恋人がいたほうがいいと思う80%と、交際歴なし30~40%と、この乖離はどうしたものか。経済的に子どもが産めない、はわかりますが、大多数が恋人はいたほうがいいと思っていても、交際もできない。結婚、出産の前にこの差の問題ではないかと個人的には考えています。交際できない理由を「経済的に子どもを育てることができないから」という言い訳を隠れ蓑にして行動しないでいるのではないかと。
村社会で今は悪しき風習、といわれるようなものでも、現代で相方と巡り合えず苦い思いをしている人もいるなか、問題点の見方を変えると必ずしも悪いだけとはいえないかもしれません。


【参考】
岡田斗司夫氏と月刊AERAの編集部の人たちの対談。高収入女性の結婚について。

38:20~に実際の対談場面。なぜ高収入女性の未婚者が、男性のそれより多いのかが垣間見えます。高収入の女性が自身と同等以上の収入の男性を求める。本能的にそう考えるのはわかります。しかしリベラル思考が強い媒体のそういう編集をしている人たちだと思うのですが、そこは保守的なんだなと。
また下はその記事。


「若年層が恋愛をしないのはなぜか」考察されている、恋愛漫画を手掛けている漫画家・山田玲司氏が、オタクたちの心理をうまく代弁されていると、個人的に思っています。

~52:00ごろまで。






yahooニュースの荒川和久氏(独身研究家)のコラム

荒川氏のコラムは指摘が鋭いと個人的に思っています。私の考えと異にするものもあるかもしれませんが、大変参考になります。






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