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障害者が支援を外されるとき「格差と分断の社会地図 16歳からの日本のリアル」 要約・所感

おはようございます。本日も前回に引き続き石井光太さん著書の「格差と分断の社会地図 16歳からの日本のリアル」を取り上げたいと思います。

前回のnoteでは日本でも格差が広がってきていること、教育・職業の格差、国籍の格差についてまとめていきました。

今回は「障害者が支援を外されるとき 福祉の格差」をテーマにします。これは個人的にも仕事と関わりが深い部分なので深く刺さり学ぶ事が多い部分でしたので、個別に詳しくまとめておきます。


1.障害+虐待=問題行動

児童自立支援施設という名称は聞いたことがあるでしょうか。一昔前は少年院の前段階とされ、家庭で手のつけられない不良達が集められる施設というイメージがありました。

しかし、ここ20年ほどでそこ預けられる子どもたちのタイプが一変したと言います。みんな一様に大人しく、むしろ学校ではいじめの対象になりやすい心も言動も不安定な子が多いのです。実は子どもたちの大部分が障害を抱えているのです。

埼玉市にある国立武蔵野学院の場合、73.5%が発達障害などのある子どもだといいます。大半は障害故に親からの虐待や周囲からいじめを受けて社会生活が難しくなった子どもたちです。

当たり前ですが障害のある子がみな問題を起こすわけではありません。しかし、知っておかなければならないのは親によって子ども障害に対する捉え方が異なるということ。親が子どもの特性を正しく理解できれば、その子に寄り添いその子にあった支援を届けることができます。残念ながらすべての障害の子の親がそうできるわけではありません。

他言動の子をみれば親が一方的に言う事を聞かないわがままな子と決めつけたり、人との協調が難しい子に集団行動を強要したりします。発達障害がグレーゾーンであればむしろ親の理解と子どもの障害の溝は深まるばかり…

親は子どもが悪いと思い込んでいるので、大声で叱りつけたり、体罰を加えたりする。そんなことをしても障害がある子はパニックに陥って解決が遠のくだけ。行き着くのは虐待や育児放棄となります。

児童相談所の調査によると身体的障害があると虐待を受けるリスクが4.3倍も、知的障害だと13.3倍も高いそうです。日本では年間19万件の虐待の相談があるそうですが、その中に障害のある子が多分に含まれているのは想像に難しくありません。

そこで段頭の式が成り立ちます。

障害+虐待=問題行動

障害児は虐待を受けやすいだけでなく、上手く受け流すことができないので健常児よりも受ける精神的ダメージが大きい。故に虐待を受けた障害児3人に1人の割合で行動障害が出ると言います。

行動障害とは障害故に社会的にふさわしくない行動を取ってしまうことを指します。暴力を振う、大声でさけぶ、ものを壊すなどがその例として挙げられるますが、それが法に触れれば社会的には単なる犯罪者となってしまうのです。

2.刑務所という福祉施設

日本には60を超える刑務所の他、拘置所や少年刑務所などがあります。全国の受刑者はおよそ5万人であり、一人あたり約年間270万円もの費用がかかります。単純計算でも年間1350億の税金がそこに投入されているのです。

その膨大な受刑者のうち障害者がどれくらい含まれているでしょう。軽度障害等グレーゾーンを含めれば45%になるという調査もあります。

そもそも日本は先進国の中でも高福祉国であり、障害者を支援する様々な制度や設備が整えられています。当然ながら、大半の障害者は犯罪に手を染めることはありません。社会に生きづらさがあっても本人の努力と周りの人のサポートがあれば福祉のレールに乗り公的支援も受けられて自分のペースで成長することができるのです。

しかし、問題はそうしたレールに乗れなかった人たちが少なからずいる点です。彼らは親や周りの人たちの無理解から、障害+虐待=問題行動の悪循環に陥ってしまうのです。

受刑者の中には社会で生きるより刑務所のほうが快適だと考え、軽犯罪を繰り返しては何度も刑務所に入る累犯障害者と呼ばれる人たちがいます。

彼らは障害を自覚せず否定するので福祉に繋がりません。支援者のことを信用していないし、頼るつもりもない。刑務所を行き来することが最良だと思いこんで、他者のアドバイスを聞こうとしない。物心ついたときから一人で生き抜いてきて当たり前のように犯罪に手を染めてしまう。刑務所にいる大人の受刑者の更生にはこのような難しさがあるのです。

3.支援を拒むホームレス

社会のレールから外れて犯罪者になってしまう人がいる一方で、ホームレスとなる人たちも一定数います。全国民医連の調査によるとホームレスの34%が知的障害をもち、62%に何らかの障害があるのとが明らかになりました。

日本にはセーフティネットである生活保護制度があり、ホームレスを保護する団体の多くは生保が受けられるよう支援をしています。しかし、そこにも制度上の壁があるようです。

生保を受けるためには、自分自身が病気や障害などがあって働くことができないこと。そして、親族からの支援を受けられないことを証明しなければなりません。この後者の条件が受け入れられない人が多いといいます。

彼らの多くはそもそも家族とのトラブルがあってそこから逃げるように一人で生きていくことを選択した人たち。今更、兄弟や親に連絡をとって情けをかけられることに抵抗があるのは容易に想像がつきます。

また、知的障害がある人が公的支援を受けるための手続きをするのも簡単なことではありません。まず公的支援の存在すら知らないのが大半であり、説明をうけても理解が出来なかったりするのです。

そして意外と多いのが、国に迷惑を掛けたくないという理由だそうです。それまで社会の足手まといのように扱われた経験をしてきた人が少なくありません。そうしたことからこれ以上国のお荷物になりたくない思いから公的支援を拒みホームレスとして生きていくことを選択するのです。本当に必要な人に支援が行き届きにくいという実態がそこにあります。

本書では平凡に暮らしていては知ることがない日本社会にある格差の実態についてルポを通して触れることが出来ます。高校生にも分かる語り口でありながら、深刻な実情が刺さるように伝わってきます。

世に蔓延る自己責任論にも一理あります。どんな理由や背景があろうと犯罪をしてはいけません。ど正論だと思います。 

翻って自分について思えば、当たり前のように高校、大学と進学して就職。正社員として働き家族も養えている。これ全てが自分だけの実力でしょうか? 

仮に人一倍努力をして誰もが羨む成功を手にした人であっても、全て自分の力と言い切れる人のほうが少ないと思います。

自己責任と切り捨てて、見ないでいてはいけない実態が日本にもある。それを知るだけでも読んで見る価値のある本だと思います。

より詳しく知りたいと思った方は是非手にとって読んでみて下さい。



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