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事業育成の実際39

●時代の変化の過程による経営の変化

一口に店舗といってもいろいろな形態があります。
これから私たちが取り組もうとしているのは一見すると時代錯誤なアナログで「地域密着型」の店舗経営です。
もちろん全てをアナログに戻すことは出来ません。
今起こっていることはまさしく「アナログな過去の資本主義」と、距離が意味を持たず、あるいは「国家という単位さえも意味をなさない未来の資本主義」との軋轢だと感じています。現在の国家間の戦争や対立でさえその一部であると考えます。
全ての情報や思想を共有するときに本当に価値のあるものにだけ人は投資をすることになるでしょう。
国家や地域はさらに細かく分断され、本当に価値があるのは個々の人格や思考であるということに気がつき始めるのでしょう。思想でさえも意味をなくすかも知れません。個々の人格の中の思想だけが有効で、何かに依存しなければ維持できない思想は失われるかも知れません。
私たちが事業者として行動を続けるには私たちが持つ価値観や思考が多くの人に受け入れられるものでなくてはなりません。それを合理的にそれぞれが形にして発信する必要があります。
そのような行動は何も未来に向けて必要なだけではなく、過去にもそのような考え方を実践した組織はあると考えています。「バウハウス」(※バウハウスは、1919年から1933年までの間に、ドイツのワイマールで始まった影響力のある芸術とデザインの運動です。 バウハウスは、個人の芸術性と大量生産・機能性を融合させ、あらゆる芸術的媒体を一つの統一的なアプローチで融合させることを目指しました。)はその一つでしょう。
常に新しい提案をしながら商品を作り、しかもその中に自分たちの思想を入れてゆく。ここから巣立ち生まれた企業やムーブメントが数う多くありました。
この時代も工業化の大量生産、大量消費の波が押し寄せていましたが、バウハウスは前衛的な側面とともに暮らしに密着したデザインそのもののあり方の提案をしていたと思います。
今また人の暮らしの中でのデザインや産業のあり方が求められる時代になっていると感じています。

●利上げとインフレ

急激な円安から一気に円高傾向が高まっています。
利上げと円高は何を生み出すのでしょうか?
円高になって利上げが加速すると企業は資金調達が難しくなります。これまで設備投資に向けて動いていた中小企業は設備投資がしにくくなるということです。
これまで海外で商品を生産していた企業は利益を出しにくくなります。円高になって海外からの輸入品は安くなります。これまで高騰していた建築資材はようやく沈静化し、インフラ整備や再開発はようやく進み始めるかも知れません。
インフレは進み物価の高騰は今後も続きますが、輸入材料の価格の低下によって国内で生産しているものに関しては原価率が下がり利益を出しやすくなります。
企業が得た利益を人件費などへ還元をすれば国内マーケットの状況は良くなるでしょう。
すでに借入をした債務に関してはインフレによって軽減されるかも知れませんが、新たに借り入れる資金に関しては借り入れづらくなるでしょう。
ただ日銀が現在の景気の状況を見誤ってしまうと逆に景気が落ち込むことになります。今しばらくは全体としての景況感が良くなるまで金利を上げずにいた方が良いと思われます。日銀総裁の年末から来年の「チャレンジング」な状況というのは、どの時点で金利を上げるべきかという見極めが難しいという意味に取れます。
そのタイミングによって景気を押し下げるか、押し上げるか?が決まるということでもあります。

●物価が上がるから景気が良くなるのか?悪くなるのか?

物価というのは相対的なもので通貨の価値と物の値段のバランスが問題になります。今後物価が下がることは考えにくいので、インフレによって給与が上がり通貨の価値が上がらなくては自分たちの持っているお金に見合った買い物が出来なくなります。
ただ、企業が大きければ大きいほど資本の内部留保は大きくなり、これが従業員の人件費に還元されなければ物の価格に見合った支払いはできなくなります。
少し長い目で見ればまだしばらくは商品の価格は上げておかなくてはなりません。
円高になり輸入材料による原価率が下がることで利益の幅は広がります。それによって企業の収益力が上がり、人件費に還元することでマーケットが活性化する良い循環が始まります。その時に金利が安定していれば企業の設備投資は増えると考えます。
しかし金利を急激に上げると金融機関から融資を受けにくくなり設備投資は進みにくくなります。今がその端境期にあるということです。
私たちの事業も現在転換期にあります。
円高になると国内需要は増え国内の消費者の購買意欲は高くなりますがインバウンド客にとっては日本は行きにくい場所になり、日本国内でのインバウンド需要は冷え込みます。
しかし、海外企業は商品を日本で売ることで利益を生みやすくなります。
つまり海外から安く材料を仕入れ賃金の安い海外で加工して日本国内で販売すれば利益を生みやすい状態となります。とはいえ、以前は世界の工場と言われた中国では賃金が上がり、さらにグローバルサウスと呼ばれるアフリカ諸国やベトナムでも賃金は上がってきています。つまり商品価格の原価である人件費は今後も下がることはほとんどなく、それを価格に転嫁すれば全ての商品の価格はさらに上がってゆくことになります。
問題はそれらの高価格帯の商品をどのマーケットのどの客層に販売するかということです。多くの海外企業が日本に進出して販路を拡大しようとするでしょう。

●三つ目のブランド

わたしたちの事業ではブランドを二つに分けています。
最初に起こしたブランドは30代〜40代のやや収入に余裕のある女性層をターゲットとしたブランド。
二つ目のブランドは20代後半〜30代のやや収入が多くはない女性層をターゲットにしたブランド。
昨年夏からユーザーの購買意欲が下がり、市場に出ている商品群や競合他社の商品が変化し始めました。そして私たちが出した二つ目のブランドのようにこれまでよりも価格帯を下げ、ターゲットのユーザー層も少し若い世代をターゲットにするようになってきました。少し前まで円安傾向が進み逆に仕入れ材料の物価が上がったために全ての食品産業で商品原価率の再調整が行われました。
これまでよりも原価率を下げるための努力をし、また購買しやすい価格帯に調整することで販売量を増やし、利益幅を大きくすることで利益の確保をしようとしたのです。
ただ以前のブランドと同じブランドとして出すには商品のグレードは下がってしまいます。そこで先発のブランドを守るために別ブランドとして出すという選択を行いました。多くの有名ブランドも同じ手法によって別ブランドを起こしています。
グレードの高い商品と低い商品を同じブランドで出すと、グレードの低い方のブランドに引きずられてグレードの高い方のブランドも格下げしてみられるからです。
この不況事を凌ぐための手法としてのブランドの分離が行われているのです。

今後円高になり日本製品の価格が上がり始めるとまた状況は変わります。
幸いなことに日本製品の品質の高さはこれまで多く来日していたインバウンド客によって評価されてきました。つまり円高になると高価だけれど品質の良い商品ということになります。
問題は価格に見合った「高品質」であるという裏付けが必要になるということです。「高価である」の背景に「安全性」や「材料の品質」「正しい加工方法」などの証明が必要になります。
虚飾のない信頼性のある情報発信によってそれらの商品価値を訴求しなければなりません。しかも粘り強くユーザーにその情報が届くよう努力を続ける必要があります。その信頼の上に成り立つ三つ目のブランドが今後必要になると考えています。
円高になり物価が上昇していてもその商品に対して絶対的な信頼のおけるアッパークラスのブランドが今後2年以内に多くのユーザーを取り込み人気を獲得する時代が来ると感じています。
これまでの二つのブランドに比べアッパークラスのブランドはユーザーに認知され支持されるまで時間を要しますが、一度支持、認知されると息の長いブランドとして人気を獲得することができます。

●状況変化の加速

2023年〜時代の変化は急速に加速しているように感じています。
「現状に対応」しているのでは追いつかないほどのスピードで状況は変化してゆきます。その年の春の状況は夏には全く違った状況になっていて、その場での成り行きを見て対応していても、実行した時にはもうすでに時代遅れになってしまいます。
なぜこんなに状況の変化の速度が早いのでしょうか?
「状況」を作り出しているのは「人」そのものです。
AIで次に起こる状況を予測していても「人」は予想通りに動いているとは限りませんし、「人」の持つ性質によって動き方が変わってしまいます。
AIは過去の情報を元に次に起こる状況を予測しようとしますが、ほんの少しの変化で人は動き方を変えてしまいます。ある程度の行動パターンはあるにしても、突然に気候の変化や環境の変化で容易に行動を変えてゆきます。
現在の状況を見ていると3ヶ月前の情報は3ヶ月後には役に立たなくなっています。
臨機応変にその場で変化に対応すれば良いというものでもありません。
「変化への対応」というのは実際にはとてもコストがかかるものです。3ヶ月ごとに状況に合わせて事業を変化させてゆくことは容易ではないし、それにかかるコストが経営を圧迫します。
3ヶ月ごとの小刻みな変化をもっとマクロな目で見ると、もう少し大きなうねりのような変化が見えてきます。そのうねりは小さな変化ほどイレギュラーな動きではなくある一定のパターンがあるように感じます。そのパターンを掴みながら小さな変化を均して慌てて対応することで事業本体に負担をかけない工夫が必要です。
小さな企業ほど小回りを利かせて短期間で対応しようとしますが、目の前で起こっていることよりも、その背後にある人の動きと、人を動かしている環境に対する人の心理の動きの方に注目することで大きなうねりのパターンが見えると考えています。さらにどんなに変化が激しくてもどの状況においてもそれほど変化をしない幹のようなものがあることに着目して、その流れに沿うように事業を展開するべきだと考えています。
現在はリスクを分散し、次の変化に備えて準備をする時期だと考えています。
これから起こる変化。
円安から円高へ。
デフレからインフレへ。
政権の変化。
増税。
実質賃金の低下から上昇へ。
現在の債務は軽減へ。
内需は拡大。
外需は縮小。

これらはまず3ヶ月を目安に小刻みな変化をします。
続いて6ヶ月を目安にやや大きな変化をします。
さらに3年を目安に世界規模での変化が起こります。
世界経済は現在減速し谷に向かっています。

現在、国内の景況感は底を迎えています。
来春、つまり3ヶ月後新しい期が始まると賃金の上昇によって一時的に景気は上向くでしょう。
しかし、産業が回復するには最低でも半年のスパンが必要で、来夏は気候変動も加わり、さらに世界経済の減速によって景況感は鈍化してまだまだ気を緩めるわけにはいきません。
秋にはようやく景況感は落ち着きますが、自社や自国の特性を活かした業務転換をした事業がようやく再生へと向かいます。
しかし、23年後半には他国、特に欧米の景況感は悪化し私たちも影響を受けるでしょう。インバウンドの数は増えたとしても海外からの資本の投下は減速すると思われます。
それでも内需は増える見込みがあります。
次の変化に対応すれば業績を上げるチャンスではありますが設備投資するにも金利は上がり金融機関からの融資は困難になると考えられます。
一方、現在の金利が低い状況での債務はインフレによって実質的には価値の低下によって軽減されます。
金銭的に苦しい時期の債務は軽減、景況感の良い時の債務は逆に膨れ上がり、資産を良い時期に増やしてもやがては資産価値は低下します。
債務と資産は反比例すると考えるのが良いでしょう。

●経営力の強さが事業を支える

以前にもお話ししたことがある「月次決済」と「資金繰表」などの経営の基本中の基本が経営や事業そのものを支える力となります。
私たちも、これらの製作に取り組み始めて半年が経ちます。
微調整を繰り返しながらようやく完成に近づきつつあります。
経営をしている人間にとっては売上が落ち込んでから翌月の仕入れ量を減らしたり、売上が上がるだろう時期の前には仕入れ量を増やすのは当たり前のことですが、勘に頼って仕入れをしていると在庫を増やしたり資金の焦付きに繋がります。潤沢な資金のストックを持った企業であればそれらのリスクを回避することは容易ですが、潤沢な資本を持たない中小企業では少しの焦付きでも倒産に追い込まれかねません。
資金繰表はまずどの時期に売上が上がり、どの時期に落ち込むかという経営の波を確認するために必要であり、落ち込む時期の資金の調達方法やリスクの分散方法をあらかじめ想定しておく指標として特に「予測表」を作ることが大切になります。
期首に資金繰表を作ったからといって安心せず、現在のように激しく景況感が変化する時には年に2〜3度の見直しが必要になります。
まずはこれまでの業績と照らし合わせて予測値を作っておき、状況の変化に合わせてこの予測値も順次更新してゆきます。
資金繰表における「仕入額」「売上額」などの数値が実際の経営の数値と合致していることを確認して、次の経営方針を作ってゆくことが重要です。
「経営力」のほとんどは「リスクヘッジ」であり、どのようにしてリスクを回避するかに長けている企業が生き残り、その中で「利益」を残し資本を拡大することによって初めて次の成長のための計画を立案、実行することが可能になります。
私たちの事業において重荷になっていた取引企業のマージン率20%を軽減するために事業の転換が必要となっています。
私たちは「直営店」に活路を見出そうとしていますが、直営店経営は反面リスクも大きくマーケットの影響を受けやすいという欠点もあります。
直営店に関しては今後データを蓄積してゆき、マーケットとの連動や複合的な経営の併用、地域的なピンポイントな広報宣伝や情報発信が必要だと考えています。
何よりも何度も言ってきた「ファンコミュニティ」の地域での活性化のために様々な手法を駆使しなくてはなりません。
業態の変換にはこれから数年を必要とし、これまで以上に大きな投資も必要になります。そのためにも資金繰表を作り金融機関との信頼関係を強化する必要がります。まずはすべての雛形を作る時期に来ていると感じています。 


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