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事業育成の実際19

●変化への対応

この3年〜4年ほど目まぐるしく環境と社会が変化した期間はないでしょう。
ウイルス感染症の蔓延。医療が進んでもパンデミックを抑えることは不可能でした。
そして地域紛争。この二つは別の出来事のように考えられがちですが、実は深く関わっているのではないでしょうか?
産業構造が大きく変わり、経済力が脆弱な国はコロナの蔓延によって深刻な打撃を受けました。政治が独裁的で技術開発力を持たない国々は「搾取」に走るのはこれまでの戦争と変わりありません。
違っている点は以前は「資源」の搾取のための戦争であったのが、現在は「技術力」の搾取のための戦争となっていることでしょう。ロシアにとってのウクライナや中国にとっての台湾はまさしく「技術力」を搾取する対象となっているのではないでしょうか?
さらに「地球温暖化」という環境そのものの変化。むしろ、それが最初だったのかも知れません。温暖化によって未知のウイルスが活性化し人の住む街に流出したのが最初のきっかけだったのかも知れません。
この三つの大きな変化は次の変化をもたらしつつあります。
「地球温暖化」が人の社会に及ぼす影響は気温の変化だけではないという「危機感」はテスラなどのEV車の隆盛を産み、世界の事業構造を変えつつあります。
「ウイルス感染症」はもう終わったのではなく、人の往来が世界を跨いで行われる限り第二、第三のウイルス感染症は再び起こるでしょう。人はリモートで会話をし、都心部は空洞化し始めています。中央集権は力を失いそれに代わる新しい組織のあり方が模索されています。
「資源」そのものよりも「技術」が国力を左右し、特にデジタルを中心とした「技術大国」が出現するでしょう。国の面積はかえって効率化を阻み、小さな強国を生み出すかも知れません。
「食糧危機」は大豆タンパクや昆虫食などに注目を集めているように見えますが、人の味覚に対する執着は激しく、食料を得る手段として「家畜」「魚」も「野菜」と同じように「栽培」「養殖」の技術が台頭するかも知れません。
●これまでの食品事業は前述の「栽培」「養殖」の事業と深く結びつき「自社生産」を行う事業者が増えてゆくでしょう。また居住地、農作地、捕獲地といった区別はなくなり、都会での生産、生産地での事業化、収穫地の居住地化が始まるかも知れません。

●小さな事業者はどこへ向かう?

私たちのような小さな事業者には大きな資本を持っていないので簡単には移動できないし、変化に対して簡単には対応できません。ではこれらの変化に対してどのように対応すれば良いのでしょうか?
一つ考えられる方法があります。
それは「それぞれの特徴を活かした連携」という方法です。
例えば私たちのような食品を扱う職種で前述のように大資本を持っているのならば自社農園を作り、自分たちで材料を製造することも可能かも知れません。
しかし、私たちのように小規模事業者には自分たちの事業に専念するのが精一杯でしょう。
どの小規模事業においても同じことが言えるかも知れません。
しかし、それぞれが特化した事業に秀でていればその事業同士を結びつけることで大きな事業に発展させることができるかも知れません。
それぞれが得意とする分野をさらに特化させ成長させることで、お互いに結びつくことで何ができるのかを考えてゆけば、個別には小さな事業者であっても集合体としての強みを活かすことができるかも知れません。
自分たちに出来なくて、必要な技能を持った事業体との結びつきを探す。
それがこれからの小規模事業者の生き残りの道かも知れません。
そしてそれは地域を超えて他国も含めた広範囲での結びつきで考えてゆくべきなのでしょう。

●自分たちの特徴を伸ばし特化させる

私たちの会社の特徴は何でしょうか?
あるいはこれから自社のどの部分を強化し成長させるのでしょうか?
「企業」の持つ方向性が着目されています。
「社会にとって良いことをしているか?」
「人間の住む世界を持続させる方向に進んでいるか?」
「人の暮らしを豊かにする活動をしているか?」
「性別、人種、住む地域、宗教などで差別していないか?」

それらの基本的な企業としてのパーパスを維持し、その上で緩やかに発展してゆくことのできる組織を作り上げること。
そしてもちろんその中で顧客に愛され支持される商品と企業価値を生み出すこと。
それが要求されています。

ほんの少し前までは「勝ったものが正しい」という価値観が世界中にありました。勝つために馬車馬のように働き、弱いものから搾取し、のし上がって市場を独占する。それを誰もが目指し、それが「成功」であると考えられていました。
しかしその結果「地球温暖化」や「新型ウイルスの蔓延」が引き起こされ、すべての人類に平等に「死の恐怖」を与えました。かつての勝者も敗者も区別なくこの恐怖は襲いかかります。

これまでのような企業経営では評価されず、支持されません。
私たちはまず「中央集権化」ではない別の組織形態を模索しています。

●地域拠点型サテライトネットワーク

少し前まで、地方での埋もれた財産を使って地域の特性を活かした地域活性化を行うことが地域を盛り上げることになるといった風潮がありました。
「地域の名産」をブランド化すること=「地域活性化」だと考えられていました。
しかし私たちの考え方は少し違います。
これまでの「地域活性化」は「地域の中での活性化」が主流ですが、かつて日本が諸外国に向けて技術を提供し技術そのものを輸出することで発展したように、地方でも同じ手法が有効であると考えています。
つまり、地域の特性や産出する物産、技術そのものを「地域内」で売るのではなく「地域外」へ出し「地域外」で売る必要があります。地域内の小さなマーケットを対象にするのではなく、地域外に広がる大きなマーケットで販売し、得られた収益を「地域内」に還元する。
私たちはそのために1カ所ではなく地域ごとに拠点を置き、その周辺地域の資源や産物を加工して付加価値を加え、他の地域で売り収益を拠点のある地域に還元する。そういったビジネスモデルを作り上げたいと考えています。
幸い食品の材料となる農産物は地域ごとに特色があり、その地域ごとにオリジナルな商品の開発が比較的容易です。
もちろん問題もあって、中央集権型でないので各拠点ごとに製品の開発や販売のルートの確保などをしなくてはなりません。各拠点にはエリアマネージャーを置き、その人たちには「経営」に関するノウハウを覚えていただかなければなりません。
各拠点ごとに特色を出さなくてはなりませんが、それは「各拠点がてんでバラバラに好き勝手なことをして良い、ということではありません。
フランチャイズに似ているようですが各拠点は自分たちで新しいノウハウも蓄積してゆきます。それはすべての拠点での共有のノウハウとして、最終的には全体に還元できるネットワークを作り上げる必要があります。

●事業と地域活性を企業文化でつなぐ

これからの社会の方向性の中で地域活性化は大きな命題となってます。
しかし、これまでの地域活性化は地域の中でのムーブメントでしかありませんでした。地域の食材、郷土料理、名産、名物といった枠から出ず、事業としての成長性があまり期待できませんでした。
もう少し「地域」という存在を包括的に見て、そしてマーケットを大きく捉えなくては成長産業として育てることは難しいと考えます。
一点集中型の中央集権型社会では地域が首都圏や大都市圏の生産性や消費能力を超えることは出来ません。
しかし地域を小さな点で捉えるのではなく、幾つもの点を繋いだ面で捉えることが出来れば、その面から生み出される力は中央集権型の経済力を超えることができるかも知れません。
そのためにはたくさんの小さな点を作り上げてゆくことが必要です。
それに最も近い形態を持っている企業は「スターバックス」かも知れません。
日本で生まれたコーヒーやカフェのチェーンストアは多くありますが、地域と根差し、地域ごとの強さを活かした経営をしているところはそれほど多くありません。
最初のスタート地点で最低5店舗の直営店が必要になるでしょう。
スターバックスにはフランチャイズ店もありますが、直営店のサービスの質にはとてもかないません。同じマニュアルやシステムを使っているにも関わらず、どうしてそういう格差が生まれるのでしょうか?
それは、「スターバックス」という企業文化や方向性を正しく理解しているか、という部分にあるような気がします。
マニュアル通りにコーヒーを入れているのに、入れたコーヒーの味が違っていたり温度が低すぎることがフランチャイズ店ではよくあります。
スタッフに「温度が低いですよ」というと「マニュアル通りに入れています」という答えが返ってきたことがあります。
このスタッフの間違いは「マニュアル通りに仕事をこなす」ことが目的ではなく「お客様に対してどのようなサービスを提供するべきか?」を目的にしなくてはならないということを理解していないことだと思います。
「スターバックス」という企業の目指している方向性やその意味を深く社員が理解していることでどのような地域であっても質を落とさず商品やサービスを提供することができるのでしょう。
私たちがしなくてはならないことは私たちの企業が持つ「文化的価値」を認めてもらいそれに対して賛同してもらえるユーザーを多く獲得してゆくことだと考えています。
根気よく自社の企業文化と社会に対する姿勢を説き続け、それぞれの地域で正しく実践し続ける。それが現在の「スターバックス」の地位を築き上げたといえます。
もちろんそれには膨大な時間と投資も必要になりますが、そうやって築いたユーザーとの信頼関係は簡単には崩れることはないでしょう。
そしてその信頼関係は時代の変化や環境の変化に対して最も強い武器だともいえます。


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