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事業育成の実際35

●不況に備えるために

昨年夏前から始まった二つ目のマーケットの変容。
一つ目は人類がこれまでほとんど経験をしたことのない全世界に蔓延した新型コロナウイルスの影響による外的要因による市場の冷え込み。
政府はそれまで蓄えた資金を市場に放出して企業や社会を支えました。
しかしこの資金の放出にはそこから再生するための未来を見越した放出ではなくいわゆる「バラマキ」と言われる再生ベクトルを持たない放出でした。
また小規模事業者の育成を目的にしたものではなく、単に市場に頼り切った業種を延命させるための放出だったとも言えます。それでも賢明な中小事業の経営者は業態を変え、生き残り成長する道を模索しました。

手厚い投資を受けることが出来た巨大企業の従業員は、それでもなお急激な環境の変化の中で様々なワークスタイルあるいはライフスタイルを変えつつ、これから数年にわたり変化し続ける社会を予測し、成長のきっかけを見出そうと懸命になっています。
このような不況の時期は反面次のチャンスがやってくる端境期であるとも言えますが、ただし次のチャンスはこれまで繰り返してきた単純な資本主義の再生ではないと考えています。大量に生産し消費する時代ではなくなれば大企業の成長は難しくなります。巨大化した企業は自分たちの事業を維持するために、以前のように大量に生産し大量に市場に供給し続ける必要があります。
しかし、顧客のニーズはさらに細分化し、複数のベクトルでライフスタイルを確立しはじめています。それらすべてに対応する生産を確保することは難しいでしょう。その上マーケットは縮小し、外部のマーケットに進出しなければ企業を支えられなくなります。膨大な数と地域のマーケットに対応した販売戦略が必要な時代になってきているのです。

●クライアントの要求に応え続けると事業者は潰れる

何をどの顧客に対してどの様に売れば良いのか?
多くの巨大企業はその答えを求めて迷走しています。
「今、うちにはこの商材がないから作ってくれれば取引を考えても良い」という言葉は実際にクライアントが発した言葉ですが、「無い商材だから」という言葉はクライアント自身が「何を売れば良いか?」をわかっていない証明になります。
どの様な時代であれお客様のニーズはあり、成長するブランドと衰退するブランドがあります。
私はブランディングという仕事をしてきましたが、商品がブランドになるのは顧客のニーズとその商品がマッチできた時だけです。それはたまたまではなく、商品開発においてどの顧客層を選んで、その顧客層のどの様なニーズに応える商品にするかを考えて商品開発をした場合に初めて「ブランド」と呼べる商品群になってゆきます。「無い商材だから」という言葉は「どの顧客に向けた?」の意味は含まれていません。
百貨店という場所はもともと「上質のものを探す」場所であったと思いますが、最近は「なりふり構わず」とにかく売り上げを上げてくれる商材を探している様に見えます。「良い品質の商品」が「百貨店というブランド」を育てることから大きくズレ始めている様に思えます。
自社のブランドを他社がコントロールしようとすることはどちらの事業者の首も絞めることになります。さらにブランドを立ち上げ作り上げてゆくには気の遠くなる様な時間が必要ですが、崩れるのは一瞬です。

●BtoBの時代ではなくなった

発注者と下請けという関係には法律で守られているはずなのに明らかな力関係があります。日本が高度経済成長を遂げる過程では下請けにもある程度の成長が見込まれたからBtoBの関係はウインウインの関係として成立していました。
しかし景気が低迷した状況が続くと原価率を下げるために発注者は下請けに圧力をかけ支払額を減らすために効率化や人件費の削減を求め始めますた。その時点でお互いの関係はウインウインではなくなっているのです。
私たちの事業にも同じことが起こっています。
小さな下請け企業はクライアントからの圧力に屈し続けるとクライアントと同様ブランド力を失ってしまい、次第にマーケットそのものが荒れてしまいます。
それを防ぐのには「クライアントからの脱却」が必要だという結論に達してしまいます。クライアントの中にもその変化に気づいている人たちがいるにも関わらず、自身の出世や企業の利益確保のために意にそぐわない動きしかできなくなってきているように見えます。
本来、バイヤーの仕事は商材を作る業者の力を引き出し、最適なマーケットで販売力を引き上げることだと考えます。売り場そのものが「最適なマーケット」ではなくなってしまえば、どんなに魅力的な商材を作ったとしても販売力は低下してしまいます。
私たちは「自社商品の魅力」について熟知していますし、さらにその魅力を引き上げる努力もしています。そしてそれ以前に私たちの商品をどんなマーケットのどんなユーザーに届けるべきかを考えた上で、そういうユーザーが存在するマーケットで販売することが最適であり、また自社のブランド力を引き上げることにつながると考えています。
それはまさしくBtoCの考え方であり、本来どのマーケットもその中心には顧客がいるはずでしたが、景気の低迷はそれを見失わせ、どうすれば顧客を引き込むことが分からなくなった売り場では本来パートナーである下請けに無理を言って独占禁止法に抵触するような要求をする様になってきます。

●BtoCへの回帰

「一人のユーザーに一つの商品」。本来BtoCの取引で最良の形態です。しかし、コストや手間の面を考えると非常に難しい方法でもあります。
それに近いことを行なっているのはバッグメーカーの「エルメス」でしょうか。
顧客一人一人の要望を聞き、それぞれの顧客が望む商品を一つづつ手作りで仕上げ、お渡しする。唯一無二の商品は驚くほどの高額であるにも関わらず顧客に受け入れられ、一度購入したユーザーはリピーターになってゆきます。
リピーターを確保できる要素は商品の品質はもちろんですが、その企業姿勢に共感するファンコミュニティーの存在が大きのではないかと考えます。
見せかけの所得は増えていても実質所得が減っている事実は生活全般の収支をコントロールしている家計を担っている人が実感しているかもしれません。
家族の中の働き手は「所得額」が増えているのに生活が苦しいという事実を不思議に思っているでしょう。これは日本と他の国の間に違った時間の流れがあって、この国は他の国よりもわざと2年ほど遅れた時間の中を泳いでいる様に感じます。
なぜなら、他の国に追いつくことは国の破綻につながると考えているからでしょう。もう少し正確に言えばこの国が作り上げてきた利権の構造が破綻するということでしょうか?
大企業がマーケットをコントロールし自分たちの都合の良いようにマーケットそのものを変えようとする。それがこの30年近く続いてきた利権による支配の構造だと感じています。労働階級の人々を利権の中に閉じ込め、利権を持つ大企業に追従することが自分たちの利益を守ることになると信じ込まされてきた。ロシアでも中国でも、さらにはアメリカでも西欧諸国でも同じことが起きています。
でも本当はここの企業や人が等しく力を持つことでチャンスはもっと大きく育つことを知り、実行できる時代が近づいています。
「もっと自由を!」と叫んでいる人々の多くは何かに依存し、それによって自由を得られると信じていますが、その依存しているものに自由を束縛されていることに気がついていません。
しかし情報が溢れ交錯している中で正しい情報を皆が同様に獲得できることができれば本来の意味での自由を手にすることができるでしょう。
私たちがお互いのために仕事をすることができれば利益を共有することができます。大きなマーケットも小さなマーケットの集まりで、その小さなマーケットがそれぞれ独自性や個性、ベクトルを持ったものだとすれば、私たちはその中のいくつかの小さなマーケットを手に入れれば良い、と考えています。
その小さなマーケットの中に固有の強いファンコミュニティーを築き上げることがまさしく「エルメス」のような強靭なブランドを立ち上げるために必要なことだと感じています。

●大勢の中から核となるコミュニティーを作る

人にブランドの情報を伝える方法は様々です。
しかし情報の枝葉が全て一つの幹から生まれていなくては「ブランド」としての成長の方向を見失ってしまいます。どのようなカテゴリーであろうとどの様な媒体であろうと同じ幹から生じる大きな同じベクトルを持つものでなくてはなりません。
そのベクトルに沿って同じ方向を支持するお客様が全体としての幹を支えてくれているのです。
私たちのようなごく普通の家庭で育ち、人脈もそれほどない人間が新たに周囲にコミュニティーを作るにはどうすれば良いのでしょうか?
その方法として必要な要素は「体験」であると考えています。
もちろん「体験」に先立ってまずは「企業カルチャー」を確立し、自分たちの企業カルチャーについて多くの情報を発信することは大切だと考えます。インターネットだけでなくあらゆる媒体で自分たちの考え方、活動について発信をした上で、それに賛同してくれるユーザーと共に、私たちの活動の一部をユーザーと共有できる「体験」をしていただくことで、ユーザーの共感を確かなものにすることによって、そのユーザー自身が情報発信の核となっていただけると考えています。
そのようにして出来上がってゆくコミュニティーは強固なものになって、やがて私たちの事業をしっかりと支えてくれると考えています。

●次のステップへ

私たちは「駅ナカ」での催事出店、百貨店での催事出店で鍛えられ、育てられてきましたが、この業態から少しづつ卒業してゆきたいと考えています。
とはいえ、BtoBの業務も私たちの交渉力を強く育て、その大きなマーケットの中で動くことの重要性を学び、また変動はあるもののタイミングや状況を見誤らなければ大きな収益を得られるマーケットには違いありません。
しかし、BtoCの重要性を考えるのなら今後はお客様と直接やり取りのできる直営店舗を増やしてゆく必要があると考えています。
ただ直営店の経営にはこれまでよりも大きな投資が必要になり、また立地に左右される外部からの要因が大きくなります。それなりのリスクを考えなくてはならないということです。
その商圏で売上を継続的に上げられるかどうかは自己責任で自力でマーケットに入り込まなくてはなりません。それでも今のようにマーケットが短期間に変化していく時代では店舗の舵取りは難しいと思います。しかし、この荒波を乗り越えること自体が自社の体質を強化するチャンスであるとも考えます。
直営店を増やすことは必然的に自社を大きくすることでもあり、固定資産を増やすことにも繋がります。
これは私たちが二つ目のターニングポイントを迎えていることを示しています。
チャレンジではありますがギャンブラーではなく、外堀を埋めるように環境を整え新たな武器を手に入れる明日へ踏み出そうと思います。


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