見出し画像

事業育成の実際10

●なぜマーケットのことを書くのか?

大手の百貨店が店を閉じたり、イオングループがモールのマーケットに出店する店舗を誘致するのが困難になったり。
それは全て「マーケットのズレ」が問題になっています。
大きな問題は「少子高齢化」に関係することが多く、マーケットを個性しているユーザーの年齢層が上昇し、本来のメインターゲット層よりも上の年齢層が増えていることがあります。
このズレにはさまざまな要素が絡んでいます。
店舗を構えると最初はその周辺の商圏を対象に商売を始めることになります。
しかし、マーケットには大きく二つの意味があります。
つまり「店舗を構えた周辺」のようなエリアとしてのマーケット。
そしてもう一つは地域性ではなくユーザーの嗜好性や指向性をとらえた「マインドとしてのマーケット」です。

私たちの事業は最初「カフェ」の営業という前者の「エリアマーケット」に対するアプローチをする事業形態でした。
店舗は簡単には動かすことが出来ませんから店舗の周辺エリアに住むユーザーが対象の顧客となります。
しかし、私たちが起こした間違いはこの「エリアマーケット」に対して、「マインドマーケット」へのアプローチの仕方を適用してしまったことです。

●エリアマーケットとマインドマーケットのアプローチのズレ

私たちがお店を開いたエリアは最寄駅から遠く、近隣に駐車場もありませんでした。お客様は徒歩でこれる距離に住んでいる方ばかり。
そして市街地といっても高齢者の住む旧市街地でした。
同じ地域で成功しているカフェのことが念頭にありました。
そこは駅から離れているにもかかわらず沢山のお客様で賑わっていました。
しかし、見誤っていたのは、そのカフェのお客様の多くは「観光」が目的で来られていたことです。
私たちの店舗の近隣には観光スポットはありません。
つまり周辺の居住者のみが顧客層ということになります。
私たちが提供しようとしていたのは健康を考えた食事の提供と、私たちの店にしかない手をかけた食材の提供でした。
周囲の店舗にはないテリーヌを作ったり、ローストポークサンドなどを提供しました。しかし旧市街地に住む高齢者の目には物珍しいだけで「なんだか良くわからない」サービスの提供に映っていたのだと思います。

最初の数ヶ月はプレスリリースの効果もあって他府県からの来訪者も多く賑わっていましたが、少しずつ周辺エリアのマーケットのお客様だけになり始めると「マーケット」と「サービス」のズレが露呈し始め、売上は減少し赤字が続くようになりました。

私たちのメインターゲットである顧客層は「30代半ば〜40代半ばの文化度の高いややリッチ層」として、そいった人たちが好んだり興味がある商品の提供を心がけていました。
しかし、実際には店舗周辺のマーケットにはそういった人たちはほとんど住んでおらず(現在はマーケットは良くなってきている)、私たちのサービスや商品は空振りに終わっていました。

●マインドマーケットへの転換

店舗は簡単には移転出来ません。
私たちに合ったマーケットの地域に移転するにはコストもかかりリスクが大きすぎます。
私たちが考えたのは、お店を移転するのではなく私たちに合ったマーケットを探して「その場所に出向く」ということでした。
つまり「エリアマーケット」を捨てて「マインドマーケット」に移行しようということです。
私たちのマインドマーケットの顧客層はどこにいるのだろう?
まず都心部のビジネスパーソンが沢山いる地域。そして文化度の高いニューリッチ層、30代半ば〜40代半ばの世代が多く住むニュータウン。
どうやってその商圏に出向くかを考えていたときに思いついたのが、鉄道沿線のハブ駅周辺にはまさしくそういった顧客層が多く存在するのではないか?ということです。
さらに、駅周辺で販売を行えば多くの人の認知を得ることも出来ます。

●マインドマーケットへのチャレンジ

「マインドマーケット」としての可能性を「駅ナカ」に見出した私たちはさっそく駅ナカ出店の実行のために行動を起こします。
まず、駅ナカで出店するにはどの程度の生産能力が必要なのか?
現在の設備でそれが可能なのか?人員の確保はできるのか?
ほとんどの鉄道会社の駅ナカでは14日間の出店を要求されます。
食品工場並みのセントラルキッチンを持つ大手なら可能でしょうが、カフェの厨房設備しか持たない私たちにはハードルが高すぎました。

その後「小規模事業者持続化補助金」の申請をし、採択されました。
私たちの計画は「設備投資」でした。これにより私たちは厨房設備を増強することが出来ました。そして小規模であれば駅ナカでの出店が可能になったのです。
比較的近隣で催事出店期間が短いK鉄道の駅ナカ催事の管理子会社に声をかけます。そして「一緒にやってみましょう」とチャンスをいただきました。
最初の出店時の準備は大変でした。
従業員わずか三名で必要とされる商品を製造しました。

出店当日を迎え、私たちは出店現場と向かいました。
催事場を飾り付け、商品を並べる。
ただそれだけのことなのに勝手がわからず、とても手間取りました。
そして開店してすぐにお客様が来店して下さいました。それが私たちのチャレンジの始まりでした。
わずか1週間の間に私たちの商品は口コミによって思った以上の売上げを上げ始めました。4日目からは商品を切らさないために早朝から厨房で作り、午後には梱包して補充する。それでも閉店時には売り切れてしまうという毎日でした。

こうして私たちの「マインドマーケット」を駅ナカで見出したのでした。
この1週間で私たちはこれまでの1ヶ月の4倍の売上を手にしたのでした。

●マインドマーケットからファンコミュニティへ

今では私たちの商品や取り組みのことを多くのお客様に認知していただけるようになりました。
冒頭の大手百貨店やショッピングモールのマーケットのズレは、それらの企業がどちらを向いて何を目標に事業をしているのかをお客様に伝えられていないことが原因だと考えています。
かつての百貨店もモールも「何でも手に入る」総合マーケットを目指していました。
しかし、人の暮らしの「どの部分に貢献するのか」はぼんやりと、ただ、客層の階層によって使い分けられていただけのように思われます。
大型モールであってもその「モールの性格や方向性」を示す必要が求められています。なぜなら人は多くの選択肢の中から「自分のマインドに合うもの」を探すようになってきているからです。
そういう傾向から考えると、百貨店やショッピングモールという業態自体が時代にそぐわないものになりつつあるのかも知れません。

●マインドテーマにあったマーケットの創出

ネイチャーマインドストアやテックマーケットなど顧客のマインドテーマに特化した商業施設あるいはweb上のマーケットの創出が必要になっているのだと思います。ただし、それらのマーケットに働きかけるのは直接的な方法ではなく、そのマインドにアクセスしアプローチしてくる顧客を「自ら選択し、吟味する」という行程を経てマーケットに近づけてゆく努力が必要です。
これまでのマーケッターの常識ではない方法論を取り入れ、時間をかけたマーケットの構築が必要です。
コンテンツ・マーケティングの手法をとりながら、それぞれのコンテンツが実態を持っていて、しかも説得力のある完成度の高い作り込みが必要になってくるでしょう。それらを製作できる優れたディレクターと製作者の能力が必要になってきます。これまで「自称」インフルエンサーやYouTuberだけではなく構成能力や取材能力、コンセプトワーカーの力が必要になるでしょう。
ただ、そういった展開が可能なのであれば、大手の企業だけではなく小さな事業体にもチャンスはあると言えます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?