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事業育成の実際32

●営業力と怖いもの知らず

しばらくは月末が近づくと引き落としのこととか支払いのことに注意深く対応しなくてはなりません。
一度事業に翳りが見えた時には慎重にならなければなりませんが、ただそれだけでは次の突破口が見えてきません。
私たちは現在はBtoBの仕事の方が多く、そのほとんどは実は飛び込み営業で開拓してきました。
今も新しいクライアントの開拓はメールや電話による飛び込み営業です。
私たちの事業内容はもちろん、私たちの目指しているものやコンセプト、顧客層、企業カルチャー、今後の展開などと共にこれまでの業績をまとめた案内資料を作っておきます。
また、営業先の企業との接点や今後どういう形で仕事を進めていくのかということもあらかじめ考えておく必要があります。
私たちの事業ではいわゆる会社案内は持たず、商品カタログ(生産者との取り組み、企業としての考え方のわかる記事を含む)と普段お客様にお渡ししているショップカード(商品写真と説明、イベント情報、季節メニューなどを含むもの)をお持ちし、さらに営業用のツールとして当社の業績や商品の方向性、今後の事業展開がわかる資料をお持ちしています。

●迎合するのではなく資料に基づいた意見を言う

グラフィックデザイナーだった時にもいわゆるBtoBの仕事を多くしてきました、
相手が長く続く企業であればあるほど、どこかに思想や思考に膠着した部分があります。かつて成功体験を勝ち取った価値観が深く残り、その指導を受けた現場の人間が同じ価値観に囚われていることが多くあります。
確かに時代が変わっても変えてはいけない価値観もありますが、それは各時代におけるユーザーに対する姿勢に関わる部分であって、ユーザーそのものは変化していることに気づく必要があります。
例えば、私たちが商品を販売している駅ナカではかつては男性サリーマンが主たるユーザーで、仕事場から自宅へ帰る途中、あるいは仕事場から得意先に行く途中に家族への手土産、または得意先に対する手土産として商品を購入していた時代が長くありました。
しかし、コロナ禍ではリモート化が進み「自宅での業務」が増え、また企業の交際費は削減され「手土産」を得意先に持っていくことがなくなりました。
現在では新型コロナ感染症は第5種に引き下げられ、一見すると以前のような状況に戻っているようにも見えますが、円安と物価の上昇により今まで以上にユーザーの財布の紐は硬く閉じられています。
飲食店に活気が戻っていると言われますが、そのほとんどはインバウンド需要で、日本人が多く行く居酒屋などは客足は戻ってきていません。以前のように職場の仲間で集まってワイワイと盛り上がるような飲食は減り、少人数で短時間のみの利用が増えています。20時を超えると居酒屋街の人影はまばらになるのです、

私たちの扱っているような嗜好食品も仲間と分け合うよりも、自分の家族やごく親しい友人と楽しんだり、自分へのご褒美として楽しむことが多くなっています。
客単価は下がり、自分で楽しむのに必要な商品価格としては300円前後が相場となってきています。
ただし「安かろう、悪かろう」ではなく、お金はかけられないけれども「安全で質の高いもの」を選ぶ傾向があります。

クライアントと話をする時に、まず、この顧客の変化がわかる資料をお持ちしています。売り場ごと、曜日ごと、時間ごとの売上推移グラフを作成。出来ればここに顧客の性別や年齢の情報が欲しいのですが、売り場に置かれている清算機によって情報を入力できるタイプとそうではないタイプがあります。
最近ではレジ入力の際にこれらの情報を打ち込んでマーケットを解析するのに役立てることが多くなっています。
それでも過去の経験に引きずられて以前の顧客層が戻ってくるのではないかと期待しても変化したマーケットは元に戻ることはありません。
もし以前のマーケットに近づくことがあるとすれば、社会の状況が過去の状況に似てゆくことから次のニーズが過去のニーズによく似た形になることだといえます。
かつてバラックの闇市から始まり、公設市場が出来、商店街へと発展し、スーパーマーケットが出現し、ショッピングモールとなって、ついには百貨店が出来上がってゆく過程のように、
今はそれを逆回転し、百貨店は分解し、専門店が集まり、モールとなって、専門店はさらにユーザーと密着し、市場の集合体となり細分化されるということが現実に起こり始めています。
市場の変化をよく観察すればわかることですが、目の前の現場しか見ないなら全体を見誤ることになりかねません。

●絶対的なマイナスからプラスに転ずる

経営状況がどん底に落ちると、人はその状況を打破するためにもがき始めます。
頭をフル回転し、そこから抜け出す方法を考え続けます。
もちろんどん底に落ちる前にさまざまな手を打ち続けることが大切です。
順調な時にもいずれは窮地に陥るという前提で、そこから再起するための種を撒き続けなくてはなりません。
その種の中から、実際に最悪の状況になった時に芽を出すものが現れます。
実は私たちの場合も今回、窮地の最中に幾つかの新しい芽が伸び始めました。これまでのマーケットよりも一つ上のマーケットからの引き合いがこの数ヶ月で増え始めたのです。

家を売ってでもチャンスを手に入れるようなギャンブラーのような性格ではありませんから、そのチャンスに飛びついて全財産を注ぎ込むようなことはできません。
でも目の前にあるチャンスに対して気兼ねして手を出さない小心者でもありません。つまり、いかにリスクを軽減しながらチャンスに近づくことが出来るかを頭をフル回転させながら考えているということです。
大抵チャンスを手に入れるためには投資が必要になります。
例えば店舗展開の場合、
まずは不動産の取得費用。
続いて設備投資の費用。
さらに運転資金(人件費を含む)。
それらの資金を投下するためには投下資金が回収できる、あるいは投下するのに必要な債務を返済できることを証明できる事業計画書が必要になります。
店舗での売上を確保するための顧客誘引のための広報宣伝計画。
マーケットを調査し、地域ユーザーのニーズを性格に把握すること。
リピーターを確保するためのイベントや販売方法の立案。

今後新しい店舗を増やすにはそれらの努力と投資を続けなくてはなりません。
特に路面店などの固定店舗を作る場合はマーケットは注意深く調べ、店舗と地域マーケットの整合性にズレがないようにしなくてはなりません。
固定店舗はマーケットにズレが生じていても簡単には移動できないからです。

私たちの事業は成長していますが、マーケットそのものは成長しているとは言い切れない部分があります。
前述したようにかつての集中マーケットは空洞化をしています。
大型ショッピングモールや百貨店は集客力を失いつつあります。
これらのモールや量販店を見てユーザーは何を感じているでしょうか?
大型量販店は現在どんどん専門店街化してきています。モールや量販店は確実に集客できる企業やブランドを誘致しようとします。その結果どの量販店、モールに行っても同じブランドが顔を揃えるということが起こっています。
私たちが催事出店をしている駅ナカに関しても管理会社は確実に売り上げを確保できる大手の業者を優先する傾向があります。
都市部では知名度の高い大手の業者ばかりが出店を繰り返しています。
しかし現在ではユーザーの購買意欲は低下しており、大手といえども売り上げを維持することは難しくなりつつあります。
また、どのマーケットにおいても同じ業者が出店をしていて、エリアや施設での差別化が困難になってきています。
まだ先入観の少ない地方都市やベッドタウンでの出店方が私たちのような新興企業には知名度だけでなく純粋に評価されやすくリピーターも確保しやすいようです。

●大手の死角を狙い再生の火種を植える

ベッドタウンで小型店舗を開設するのは、モールや商業施設での出店によって売り上げを維持してきた大手の業者には難しいかもしれません。
その巨体を支えるには「売上の規模」を確保しなくてはならないからです。
私たち小規模な事業者にとっては「小型店舗」は開設資金や維持費を縮小でき、適正な規模での出店となります。
ただ適正なサイズの店舗物件は現在では探すことは困難です。
それには、小型物件に強い不動産業者や情報を手に入れるルートが必要になります。ただ、現在は不動産が意味なく高騰し、それとともに空き店舗の数は増え、さらにいえば、私たちに必要な立地が市街地であるならいわゆる「住居物件」を改装することで開業することも可能であるということです。
ただし、マーケットを見誤ると赤字を計上することになり、出店場所に関しては慎重に検討しなくてはなりません。
小型店舗といえども最低限の設備、運営する人員、光熱費などのランニングコストが必要です。また、経営が軌道に乗るまで集客のためのイベントや地域への認知度を浸透させるための広報宣伝活動は必要になります。特にネットでの情報発信をこまめに行わなくてはなりません。
情報発信の規模としては大手が有利ですが、地域の顧客に対する細やかな対応は小規模店舗でも可能であり、マーケットをピンポイントに狙い訴求することが出来れば集客が望めます。競合相手は大手ではなく地域の同規模の同業者ということになります。大手とは「共闘」という形を作っていくことが他者との差別化には有利に働くと考えられます。

●規模の拡大をどのように行うか?

悩ましいのは私たちの事業への引き合いが増えるにつれ、私たちの事業規模を拡大しなくてはならないことです。
「卵が先かニワトリが先か?」とはよく言われることですが、現状の生産力で賄いきれない引き合いがきた時に「取引額」が確約できるものであれば投資が可能ですが、多くの場合は私たちの生産量に合わせて取引が成立するのが現実です。
つまり、まだ成立していない成果に対して先行投資をしなくてはならないことになり、無理をすれば事業そのものが崩壊する可能性もあります。
事業が拡大する時にはリスクはつきものですが、そのバランスを見誤らないことが必要です。最小限のリスクで最大限の成果を出すことが求められます。
「架空の取引」にどれほどの実現性があるのかを証明しなくてはなりません。
それは私たちの商品に対してどれだけのニーズがあるのかということの証明でもあります。
大きなリスクを乗り越えるのは実はとても地道な顧客へのアプローチとリピーターによるファンコミュニティーの育成だと考えています。
私たちは今後自分たちに最もマッチしたマーケットを見つけ、そこに根を張るような拠点作るつもりでいます。一つのエリアに2〜3ヶ所の拠点を作ることでそのマーケットでの知名度は飛躍的に上がります。
まずはそれらの拠点を支えるファンコミュニティーとマーケットを自分たちで作り上げてゆくことから手がけてゆきます。


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