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事業育成の実際11

●地獄を見たことがありますか?

そこまで大袈裟ではないのかも知れません。
でも事業で失敗をすると全てを失ってしまうこともあります。
最初に事業を始める時には希望に満ち溢れています。
「失敗した自分」なんて想像もできません。
もちろん、不安でたまらない人もいることでしょう。
でも今まで「失敗」したことがないのだから、その想像にはリアリティーがありません。それでも「失敗」とはとてもリアルなものなのです。

●「失敗」はヒタヒタと忍び寄ってくる

起業しても、その事業で天地がひっくり返るような大事件が起こって失敗することは少ないものです。
最近では気候変動や感染症、紛争などイレギュラーな要素もずいぶん増えてきました。でもほとんどの場合国や自治体から手厚い援助を受けることができます。
そういう意味ではこの国の制度はよくできていると言えます。(それだけこの国は災害が多いと言うことでもあります)
しかし「失敗」には最初は気づかないものです。
もちろん予兆はあります。
仕入や人件費がどんどん増大してゆく。でもそれと同時に売上もどんどん上がってゆく。売上と正比例して経費が上がるのは当たり前だろうと安易に構えていると痛い目に遭います。
毎月平均的に売上が上がり、一定の利益を確保できる状態が安定的に続くのであれば経営そのものが破綻することはほとんどないでしょう。
でも売上に浮き沈みがあり、特にある一定期間急激に売上が上がると一見すると状況はとても良い方向に動いているように見えますが、その売り上げを支えているのは「仕入れ」と「人件費」であることを忘れてはなりません。

売上が急激に上がる時期について予め予測がついているのなら、その時期だけの短期のアルバイトやその時期までにストックした予備費用などで乗り切ることができますが、あまりに順調な売上が上がると経営者はうろたえると同時にその状況がしばらく続くような錯覚に陥ります。

●勝って兜の緒を絞めよ

戦国武将のこの言葉は事業においても言えることです。
状況が好転すると人は「調子に乗りすぎる」か「狼狽える」のどちらかに転びます。
良く商品が何らかの状況でバズったりすると急激に売上が伸びます。
メディアで取り上げられたり、有名人が贔屓にしていると言ってくれたりすると瞬間的に認知度が上がって爆発的に売れたりします。
その時に量産体制を拡大しようと無理な投資をして設備を購入したり、あるいは無理な製造スケジュールを立てて品質を落としたり、あるいは急激に人員を増やして対応しようとしたりすると、それらにかかる経費がその後で大きくのしかかってきます。
要はその売上の拡大が一時的なものか?恒久的に続くものかを見極めなくてはならないと言うことです。
いわゆるネット上の「バズリ」は一時的な現象だと考えた方が良いでしょう。
急激な変化は急激に収まるものです。
そこに多額の資本を投入してしまうと、その資本を回収できなくなり多額の負債を抱え込むことになります。

●3ヶ月先を予測し、投資と回収、貯蓄をする

負債を回収できず、次の仕入れに資金が回らなくなり、商品を作れなくなる。結果負債を返済できなくなる。
これが黒字倒産の仕組みです。

そうならないための手段は常に考えておかなくてはなりません。
例えばアパレル業界で考えましょう。
良く、アパレル業界では「春夏物」「秋冬物」といった言い方をします。
つまりアパレル業界ではこの二つの入れ替えの波が1年に二度必ずあると言うことです。またどの業界でも言えることは「ボーナス商戦」という言葉です。
つまりやはり夏のボーナスと冬のボーナス時には人はものを買うと言うことです。
あとは祭事。正月、バレンタイン、ホワイトデー、入学、就職、ゴールデンウイーク、お中元、クリスマス、ハロウィン、お歳暮等。
では物が売れなくなる時期はいつでしょう?
それは人々がお金を使いすぎて節約をする時期。
正月休みの帰省が終わって帰ってきた1月後半。
ゴールデンウイークに家族で旅行に行った5月後半。
梅雨で雨が続き購買に出れない6月。
夏休みの帰省が終わってまだ暑くて外に出たくない8月後半。
台風で早く家に帰りたい9月。
元々2月や8月は物が売れなくなる季節でしたが、バーゲンやバレンタインなど購買欲をそそる企画で何とか売り上げを押し上げる努力をしているのです。
問題はその狭間の時期。特に商戦が始まる直前です。
企業は商戦に備えて製品を製造するために大量の仕入れを行います。
この時に資本のストックを持っていないといわゆる「焦付き」を起こすのです。
大きな商戦がある場合はその3ヶ月前までには資本をストックし、生産を始めなくてはなりません。
比較的業績が伸びる
(3月後半〜4月前半)(7月後半〜8月前半)(10月〜11月)(12月)を資本のストック期として
業績が低迷する
(1月)(2月後半〜3月前半)(6月後半〜7月前半)(8月後半〜9月)を資本の放出期とします。

一般商戦ではこのような波があると言えますが、例えばリクルート商戦やブライダル、イースターなどのインバウンド需要などがこれらに加わってきます。

基本論として3ヶ月を一区切りとして1年を4つのクールに分けた時に、どの時点で資本をストックし、どのタイミングで資本の流出があるかをあらかじめ予測した年間を通した財務スケジュールを組んでおくことが必要だということです。
資本が足りなくなると予測できた場合には、さらにその3ヶ月前から金融機関との融資の折衝が必要になります。

●地獄を見ないために必要なのは財務によるリスクヘッジ能力

資金の焦付きを起こさないためには
いつ、どのようにして資金が焦付きを起こすかを予測しなくてはなりません。
そのために必要なのは財務状況を予測することです。
年初にその年の経営計画を立て、いつ、どのマーケットで販売し、どの程度の売上が見込めるか?をこれまでの実績を参考にしながら予測します。
新しいマーケットに進出する場合は必ずリスクがあり売上予測が困難になります。
このような場合は比較的予測がしやすく、売上が確保できるマーケットと組み合わせることでリスクを軽減しておきます。

もちろん売上が確保できるマーケットでの販売頻度を増やしておき、確実に利益を残して資本をストックしておくことも大切です。
しかし、単純にストックするのではなく
「通常の仕入れのためのストック」
「仕入れ、ランニングコストの状況に応じて出し入れのできるストック」
「緊急時にのみ使用するストック」
「出さずに常に固定させるストック」

のようにストックの中身を区分けしておくことが大事です。
マーケットの状況を把握するためには「月次決済」をすることをお勧めします。
また、財務状況を経営者が把握するために「財務諸表」の数値をグラフ化しておくと良いでしょう。
このような地道な作業が全て「地獄を見ない」ためのリスクヘッジの方法であると言えます。

●金融機関の判断基準と事業体の状況判断は違っている

最後に大切なリスクヘッジとして金融機関とのパイプを作る作業があります。
都市銀行、地方銀行、信用金庫、政策金融公庫などの金融機関とは常にパイプを作っておくことが大切です。
現在では資金調達の方法として「投資を受ける」「クラウドファンディング」などの選択肢も増えてきました。
でもまだ多くの中小事業者は金融機関からの「融資」を頼っている場合がほとんどでしょう。
「実業」で事業を拡大するときに必要な「運転資金」「設備投資」「技術開発費」などを融資で受ける場合、ほとんどの金融機関は「運転資金」としての融資を勧めます。なぜなら、それが一番お金の動きがわかりやすいからです。また、そのことから行内で稟議が通りやすくなると言う側面もあります。
中小企業が都市銀行などに融資の申し込みに行くと大抵経験の少ない若い担当者が付きます。小口融資を経験させて実績を積ませるのが目的だと思われますが、中小事業者が大きくなる場合に必要な融資にマッチしているとは限らないのです。
運転資金で融資を受けたものを設備投資に使用することはできません。
生産力を上げるのに必要なのは仕入れなどの運転資金ではなく、人件費や設備などであるはずなのに、いくら運転資金を融資してもらっても生産性は上がってゆきません。
このように「金融機関が融資したい商品」と「中小企業が受けたい融資」では見ている側面が違うのです。融資の目的がずれれば業績は良くなるどころか悪化する場合もあります。
金融機関は「お金を貸す」ことによる利息で収益を上げているので、できる限り融資額を増やそうとします。もちろん企業にとって手持ち資金を増やすことは大切ですが、事業を拡大できなければ業績を伸ばすことはできません。
「企業が倒産しない程度に最大限貸せるだけ貸す」ことができた方が金融機関としてはより業績を上げられるわけです。
「融資される側には融資の目的が明瞭にある」という事を金融機関側に伝えて、目的が合致しない融資である場合は見送る必要もあるのではないか、あるいは融資額を「必要以上に増やさない」努力も必要だと考えます。

●補助金をもっと利用する

この国には「補助金」「助成金」などの資金調達の方法があります。
ただし、これらのお金にはさまざまな制約があり、自分の思い通りにはならない部分も多くあります。
まず、「目的の資金額を満額調達はできない」ということ。
ほとんどの場合は1/2〜2/3程度の補助率になること。
また、補助を受けられる時期が目的の事業が「終わってから」であること。
さらに「事業を実行する資金は先に用意しておかなくてはならない」ということ。
つまり、やりたいと思っている事業の全てが終わってからしか補助を受けられないという事です。
また国や自治体が決めた補助の対象となる要件に当てはまらなくなった場合は資金の返還を求められることがあるという事です。
あまり助けになってないのではないか?という意見も多くあるのは確かです。
なぜなら、補助金を受けるためには企業体力が必要であるという矛盾。元々企業体力がないので補助を受けたいというのが企業側の本音でしょう。
これは災害時などの特別貸付なども同じことで、一定期間が過ぎれば事業を行う体力があっても無くても返済をしなくてはならなくなります。
事業の回復に1年程度の期間では難しいということを施策者側が体験として持っていないことが原因だと思います。
それでも、多少の能力や資金調達の手立てがある企業であれば「補助金」は事業を拡大するための方法の一つであると言えます。
現実に私たちも三度の補助金の採択を活かし事業を拡大してきました。
そしてそのためには「事業計画書」の作成が大切であると言えます。

●破綻させない努力は突然始めるものではない

事業計画書は何も夢のような計画を描くものではなく、現実を直視し誤った選択をしないための指針なのです。
私たちが向かう目標を明らかにし、その目標を達成するための具体的な方法を示し、その過程に潜んでいる障害やリスクを予測し、それを回避するための方法を準備しておく。
最初に事業を始め、成長拡大させるための数年間は常に大きなリスクが潜んでいます。経営者にはさまざまなタイプがいますが、リスクをものともせず攻め続けるほどリスクは大きくなります。そして事業を始めたばかりの経営者は経験値が低く、このリスクを回避する手段を多くは持っていません。
事業を始めるにあたってまず大切なのは経営者の経験値を補うだけの人的ネットワークを構築できるかどうかにかかっています。
ワンマン経営で自分の直感だけで経営をすれば大きなリスクで簡単に事業が破綻してしまいます。事業を破綻させないためには自分の力を過信せず、外部の経営に必要な知見を持った人的な繋がりが重要だということです。
特に最初に必要なのは「財務管理に関するマンパワー」であり、続いて「生産管理に関するマンパワー」。そして三つ目が「セールスプロモーションに関するマンパワー」です。
それらのマンパワーが社内、社外両方に必要であると考えます。
それらの人的なネットワークそのものが事業を健全にリスクから守り成長させる原動力となるでしょう。


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