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事業再生のこと−38

●広報宣伝の効果

グラフィックデザイナーをしていた時、自分たちの仕事の支払いが各クライアントの「広報宣伝費」から捻出されていることは分かっていましたが、実際のところ広報宣伝費がどこからどうやって捻出されているかはあまり分かっていませんでした。
ただ、広報宣伝の仕事が企業全体の売上に関係していることはわかります。
ではどのように関連しているのでしょうか?また、広報宣伝費は売上の何%位使えるのでしょうか?
つまりそれは、実業をしている私たちの売上の何%を広報宣伝費に割けば良いかということにつながっています。
そもそも、TVCMを連発したり駅や大型ビジョンに巨大広告を出すのは景気良く潤沢に業績を伸ばしている企業がすることであって、これからの時代はそれが難しくなってくるでしょう。
広報宣伝費は経常利益の約10%~15%と言われていますが、経常利益を確保出来なければその比率はわずか5%~10%内に止める必要があります。
現在国内の事業のほとんどは経常利益が薄くなり、広報宣伝にさける事業資金は余裕がなくなっていると考えられます。

私たちが製菓販売事業を始めた当初は売上額はとても低く、年商で200万円に満たない金額しかありませんでした。
200万円で利益が4万円しかない状況で何ができるのでしょう?
幸い私はグラフィックデザイナーでしたので、デザイン料金のことを考えずに済みます。また印刷費用はデジタル化が進んでどんどん価格が落ちていました。
皆さんはA4サイズの裏表オールカラーのチラシやリーフレットの価格をご存知でしょうか?
現在では1,000部のA4裏表のチラシ印刷が3,600円で出来てしまいます。
問題はこのチラシをどんな方法で配布するか?で随分と効果が違ってきます。
私たちは最もアナログな方法「ポスティング」という手法を選びました。

●零細企業のポスティング成功術

ただし無作為にポスティングをしていったわけではありません。
Google MapとGoogle earthで商圏を調べることから始めました。
まず、私たちのメインターゲット層である30〜40代のニューファミリー層が住む新興住宅地を探しました。
周辺地域で区画が綺麗に整然とコマ割りされているのが新興住宅地の特徴です。
大抵は主要駅から徒歩10分ほどの少し離れた地域にあります。
マップ上でそういう地域を見つけたなら、今度はGoogle earthを使って周辺地域の様子を探ります。例えば写っている駐車スペースに外車が停まっているなら少し富裕層だとわかりますし、三輪車や子供用の自転車が写っていれば年齢の低い子供のいる若い夫婦が住んでいると判断できます。
このようにして、ポスティングをするエリアをあらかじめ選定して行うことで無駄に配布することを防ぎ、効果的に行うことが出来ます。
一般的にポスティングの反応率は全国平均で0.75%と言われていますが、私たちの方法だと5%もの来客率を得ることが出来ています。
例えば来客した顧客の客単価が1,500円として、1,000枚を配布した場合、75,000円の売上が期待できます。
投資額3,600円で20倍の売上が期待できることになります。
私たちは毎月1,000枚のショップカードを毎月季節催事などに合わせてデザインを変更し、年間12,000枚以上を配布しています。
この方法だと年間広報宣伝予算は45,000円程度で済みます。しかも効果としては年間90万円の売上につなげることが出来ます。
毎月1,000枚を私たちはこのポスティングと販売催事、店頭での販売時に配布しており、現在では1,000枚では足りない状況になっています。
ポスティングはほぼ夫婦二人だけで1回のポスティングで100枚程度を催事前には3回程度周辺商圏エリアで撒いて効果を得ています。
地道で体力のいる方法ではありますが、確実な効果があるため催事に関しては今後も続けてゆくつもりです。

●財務の強化

私たちの弱点は経営が「どんぶり勘定」だったことです。
零細の事業主の問題のほとんどがこの財務の「どんぶり勘定」にあると言っても過言ではないと思います。
それなりに売上が上がっていれば細部にまで目を光らさなくても自分たちが食べて行ける程度の利益は残るからです。
しかし個人事業の間はお金の動きに公私の区別がなく、利益そのものが自分たちの収入ということになってしまいます。銀行通帳から入ったり出ていったりする金額は仕事に関するものもプライベートで使っているものも同じ口座を使っていることが多いでしょう。
そのことに思い至ったのは私たちの周囲でしっかりと業績を伸ばしているいくつかの会社やお店を見たときに、その会社の経営者の方が会計の専門家であったり金融機関の出身であったりしていることに気づいたからです。
私はクリエイター出身で相方は給料をもらったことしかありません。
二人とも自分たちの収入がどのように生まれているかをきちんとは自覚できていませんでした。
仕入れ→加工・製造→商品→販売→売上
(売上)ー(経費)=利益

というお金の流れはほとんどの人が把握しています。
しかし、問題はこの(経費)≠(仕入)であることを自覚せずに経営を続けることです。
経費には(ランニングコスト)や(人件費)、(地代/家賃)などが含まれていることを自覚せずに経営している人が多いものです。
粗利益は営業利益とは違っていることを自覚しなくてはなりません。
●経常利益=通常行っている事業の中で経常的に得ている利益
●営業利益=売上総利益から販売費及び一般管理費(販管費)を差し引いた金額

当期純利益(純利益)=税引前当期純利益から法人税などを差し引いた金額のこと
注目するべきは営業利益でこの数字が安定して残っていかなくてはなりません。
営業利益を見直して、それがもしも赤字になっていると新しい事業への着手金や企業の固定資本が育たず企業は大きく育つことが出来ません。
場合によっては事業そのものが赤字体質に陥り廃業を余儀なくされることもあります。まずは営業利益が常に黒字化する必要があります。

●リスクヘッジの力が企業を維持する要

現在は世界的に見ても経済状況が不安定です。突然の災害だけでなく世界情勢によって材料費が高騰したり、材料が入って来なくなったり国の通貨の価値が不安定になったり、私たちが自分の力では防ぎきれない状況の変化が激しく襲いかかってきます。
それでも手をこまねいて見ているだけでは経営の危機が常に襲ってきます。
リスクの種類を見極め、それぞれの危機に対してどのように身を守るかという方法を知っておかなくてはなりません。
国からの補助金や助成金は苦しい企業経営の中ではありがたいものですが、事業が危機的な状況から脱するには企業体質そのものを変える必要があります。
常態的に赤字を生んでいる状況は企業の体制やシステム、運営の仕方に問題があるという事です。もちろん予期せぬ出来事で事業が危機に陥ることはあります。
店舗が浸水したり災害で壊された時に、もしも火災保険や地震保険に入っていたとしても、事業を再開するためには時間を必要とします。
一つの店舗だけに頼らない業態の模索、景気の動向に左右されにくい業態の模索、災害に強い業態の模索、場所にとらわれない業態の模索などが必要になります。

リスクを意識した業態であったとしても、大きな災害や世界的な不況から逃れることは難しいでしょう。私たちのような成長企業は、一旦成長を足踏みさせなくてはならなくなるかも知れません。
良く「勇気のある撤退」という言い方をしますが必ずしも「撤退」が最良の方法とは限りません。災害の後、同じ場所とは限りませんが復興が始まります。あるいは新天地を目指さなくてはならなくなるかも知れません。
巨大な不況にもいずれは終焉があります。しかし、それから先は以前のような好景気は無くなるかも知れません。
それでもどんな状況になっても人は生活をし暮らし続けます。そしてその中で経済は動き始めます。
ただ、再開した経済がどのように動いてどこが活性化し、どこが再生できないかを予測しなくてはなりません。

「未来を予測する力」はリスクヘッジで一番大切な力となります。
窮地に陥っている間は身をすくめて体力を温存し維持し続けるしかないかも知れません。しかし、次のチャンスは必ずやってきます。
苦境を乗り切るために補助金や助成金は必要ですが、それ以外にも自ら再生するための投資できる資本を保持しておかなくてはなりません。
場合によってはそれは銀行の貯蓄ではなく海外に投資した仮想通貨かも知れません。
日本のモノづくりは半導体の製造拠点となることで復活する可能性もあります。しかし、企業資産は銀行預金や株式だけではなくなる可能性も大いにあり得ます。いくつもの資産の分散と投資が必要になるでしょう。
投資についても有用なものと継続性が疑われるものがあり、賢く将来性を嗅ぎ分ける能力が必要となるでしょう。

●激動の時代を生き抜く

これまでの時代も十分に激動であったと言えます。
1ドル340円から一時70円まで円高が進んだ時にも日本の経済は危機的な状態になりました。インフレで物価は不動産を中心に上がり続け不動産投資に走った人々はその後の20年にわたる不況で憔悴しました。
現在1ドル100円だったものが140 円前後を推移しています。円安もまた庶民の生活や中小企業の業績に暗い影を落としています。インフレとは別の理由で資材は高騰し、新しい建造物を作ることが困難になり物価は高騰しているのに大企業は資産を内部留保し従業員の給与は低いままです。
唯一海外と取引している製造業の仕事は海外から見て安い人件費は魅力的で仕事量は増加しているのに、賃金の低さから海外からの労働力の流入が減り製造が追いつかなくなっています。
日本の魅力は何だろうと考えた時、サービス業におけるホスピタリティーの高さ
賃金が安くなっても妥協を許さない製品の品質の高さ、などではないでしょうか?
自分自身や個人を優先するのではなく、他人や協調性を優先するのはこれから海外との競争社会の中でマイナス面もある代わりに強い武器になる側面も持ち合わせています。
国が決めた産業の方向性だけが正しい選択肢であるとは限りません。協調性や統一性も使い方によっては武器になります。
そのことをどのような視点で捉えて新しい価値観を生み出すことがこれからも続く激動の時代を生き抜くヒントになるのではないかと考えています。


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