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事業育成の実際21

●専門性と現実のギャップ

私たちが事業を続けていく上で多くの専門分野の知見を持った人たちから様々な知恵をお借りしながら進めていくことになります。
私たちが組んでいる専門家の視点や目的と私たち経営者の視点や目的にはズレがあります。たとえば専門家の職業にもよるが税理士の場合は税務上の問題からの回避が最も大きな目的になります。
企業が成長できる利益や融資額を確保しながら、固定資産を増やし流動資産に対して固定資産の大きなバランスシートを実現してゆきます。ただし利益の企業内での保留は少なくします。税務上はそうやって企業を成長させることが有利に働くのです。
また、毎月の収益の変動を抑えてできる限り変動率が小さい方が安定した企業経営ができます。そのためには事業収益のバランスシートの適正値を取って、それに対して負荷のかからない程度の変動に抑え込む方が良いと言えます。
しかし、私たち経営者の視点は少し違っています。
私たちの視点では企業として安定させるために「規模の経済」を目指そうとします。つまり生産量や生産規模を拡大することで単位あたりのコストが下がるという考え方です。しかしこの理論はかつての大資本主義の時代の考え方であり、現在も有効であるとは言えません。
小規模、あるいは中規模であっても安定した利益率を確保し続けることが重要になってきています。
中小規模の企業では成長性が問題となりますが、専門家の理論では「成長」が必ずしも有効であるとは言えません。むしろ規模が縮小したとしても一定の利益を残し続けることが大切になります。しかしそれでは企業は成長することができません。
私たち経営者はこの矛盾を解決しながら企業を育てていく必要があります。

●規模の経済の形態は変化している

かつての「規模の経済」と呼ばれた組織の仕組みはいわゆる「ピラミッド型」の形態でした。しかし現在ではどうでしょう?
ピラミッド型の事業は中央に大規模な製造拠点を置き、オートメーション化による効率的な大規模生産を行い、そこから全国へと商品を流通させる手法が主流となります。
大量生産された商品は人工の集中する大都市圏へと送られ、集中して大量消費されます。しかし現在はどうなのでしょうか?
2023年が明けた春から様相が変わって来ています。
大企業は都市圏での消費が回復するものと見込んで都市部の再開発を進めています。大都市の中心部でかつてのような大規模なハコモノづくりが急ピッチで進んでいます。30年前に不動産バブルが起こった時にも同じような現象がありました。
人々はこぞって都市部のマンションを買い漁り猫も杓子もこぞって不動産に投資しました。しかしその後起こったのはバブルの崩壊という不動産価格の暴落を発端とする大不況時代の始まりでした。
現在はその頃とも少し様相が違っています。
その頃にはなかったものが存在しています。
つまり、インターネットを主軸とするデジタル社会の浸透です。
全ての人の手元に小型コンピューターであるスマートフォンがあります。
人々はどこにいても同じように情報を得ることができ、どこからでもモノを買うことができます。
しかもそれは小さなサークルの中でも完結できるのです。また逆にグローバルな大きなサークルの中でも可能となっています。

●インターネットの普及はマーケットのあり方を変えた

これまでのマーケットは市町村などの地域、居住区、ビジネス街、工業地帯などの地域の持つ特性、人口が集中する場所、交通の要所などを示していました。
コロナ禍が明け、人々の生活が元に戻れば人の動きも以前のように戻るのではないか?と誰もが考えていました。
しかし、リモートでの仕事が大幅に増え、不動産コストの高い都心部に本社を構えなくても本社機能を縮小して分散化することで企業やそこで働く人々の通勤などの移動コストが軽減され、企業側にもメリットがあることがわかると、人々の生活習慣や移動の時間帯や方法、仕事のやり方も元に戻ることはなくなりました。
つまり都市圏や郊外大型ショッピングモールに出かけて商品を購入する頻度が大幅に落ちているということです。
大都市圏の空洞化に抗うように都市圏の再開発が進んでいます。新しいショッピングモールやテナントビルが次々と立ち上がってゆく姿は壮観ですが、これらのビル群は人々のライフエリアの一部になり得るのでしょうか?
同時にかつての都市機能の中心部であったエリアは取り残されるように空洞化が進んでいます。

●マーケットは生活圏の近隣に移動

大都市圏の機能が変化し過渡期となっている現在、人々の生活様式は居住地の近辺で完結を始めています。
仕事の途中で休憩していた珈琲スタンドは都市圏から姿を消し、リモートで仕事をしている居住区の近隣に設営され始めました。
大型ショッピングモールは姿をひそめ、近隣のコンビニは多機能化し生鮮品の販売を始め小型のスーパーマーケット化し始めました。
人々の購買行動は居住地の近隣で完結できるようになり、その需要を狙って生活雑貨を扱う大型店舗が居住地域の近隣に出店をしています。
かつて、都市部のハブ駅周辺に百貨店が乱立しました。
「阪急」「阪神」「東急」「松坂屋」「伊勢丹」「高島屋」。
高度成長期の好景気に支えられ、人々は百貨店に集まり高級っブランドを買い漁りました。
長い期間の不況は百貨店を弱体化し、ここへ来て百貨店業界が息を吹き返しているのは「海外からの需要」でありインバウンド客の購買意欲の高さが主要な要素となっています。
かつての時代経済を回していたスパルタビジネスマンの時代は終わり、海外からの力が経済を回し始めています。
少し前の時代、百貨店が力を失うと住んでいる場所の近くにあるベッドタウンに「イオンモール」をはじめとする大型ショッピングモールが乱立しました。
一家に一台車を持つモータリゼーションを核に郊外型のモールに人々は集中し始めました。
ユニクロやSTEPなどがロードサイド店」を増やし続け、その後人々が集中する大型モールへの出展に舵を取りました。
そして現在起こっている変化にお気づきでしょうか?
人々の購買行動は「自分たちが住むベッドタウン内で全て行う」ようになり始めています。かつての大型ショッピングモールは人の集積場となりましたが、その場所で全てが完結するわけではありません。そしてかつてのモータリゼーションは弱体化し、一家に一台の車は小型化し、一週間に一度家族で出掛けていたショッピングモールは、2日、あるいは毎日買い出しに出かける場所へと変わりつつあります。
そしてモールに出かけなくても現在では生鮮品でさえコンビニで買うことのできる時代になりました。
「生活必需品」を買うための複合型生活品ショップとしての「コンビニエンスストア」「100円均一ショップ」そして生活用品全般を扱う「無印良品」衣類全般を扱う「ユニクロ」「Step」などがモールのほとんどを占めるようになりました。
モールには生活必需品が溢れ、それはまさしくかつての公設市場や商店街のような様相を見せ始めています。

●これから起こる変化

ベッドタウンがこれまでのような「貧困層の受け皿としての下町」ではなく「充実した暮らしをするための下町」を形造り始めています。
高度経済成長を支えた下町の町工場はこれからベッドタウン内でコンピュータ化された高度で生産性の高いコンパクトファクトリーとして蘇るかもしれません。
街中には市営バスではなく無人のトラムが縦横無尽に走り、各小型マーケットをつなぎ、人々や貨物を運びます。
そのような新しい「高度システムの下町」Advanced technology downtownが日本中の遠隔地に出現するかもしれません。
下町の工場が半導体を作り、隣接する畑は高度なアグリテック工場になり、地域の特異性のある製品を海外に向けて販売する。各下町には小型のスターバックス、ユニクロ、無印良品を併設する小型の集合マーケットがあり、車を使用しなくてもそこに向かうことができます。
まるで夢物語のような街がハブ駅ではなくそこから少し離れたベッドタウンから生まれ始めるかもしれません。それに向けて私たちも業態を変えながら次の戦略を練り始めます。

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