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事業育成の実際30

●ここからの再生

昨年晩夏に申請を出した補助金が本日振り込まれました。
補助金申請。
法人化手続き。
取引会社の法人契約書への修正。
金融機関の法人口座の開設。
法人クレジットカードの申請。
金融機関の融資の個人から法人への移譲。
新ブランドの商標登録。

補助金の申請からはほぼ1年。
それぞれの作業に追われながら法人の体裁を整えるのに8ヶ月。
整えきれず大きなミスを見逃して私たちの船出は過酷なものとなりました。

この窮地を脱する方法は教科書には書いていないし
誰かが教えてくれるわけではありません。
ただ苦しい間に希望を失わずに未来の自分たちの姿を思い描いて
多くのタネを撒き続けるしかない
のです。
「そんなことは無駄だ」と考えず、その時にできる最大限のことを続けるしかありません。その時のタネは思わぬところで芽を吹き始めるのです。
ただ発芽する時の苦しさは並大抵ではありません。
雛が小さな弱々しい嘴で卵の内側から叩き続けます。
それでも中には力尽きて生まれることのできない雛もいます。
しかし小さな穴を開けることが出来たのなら、その穴を少しずつ広げ、いずれは今いる世界とは違うステージに出てゆくことができます。

これまで個人事業主だった時代から年に二度資金の焦付きを起こしていました。
最初の二年間の焦付きは事業が急成長することによる焦付きでしたが、今年は様相が違っていました。
今回の焦付きは私たちが商品を販売しているマーケットそのものの変容に私たちではなく、私たちのクライアントが追いついていなかったことから始まった焦付きでした。以前販売力のあったマーケットは衰退し、同じ場所では以前の70%以下の売り上げしか見込めなくなっているのに以前の成功体験に基づいて販売を続けていることで赤字を積み上げることになっている、と言うことです。
コロナ禍の影響が今になってマーケットそのものを変容させ、以前良かったマーケットは干上がり、前は見向きもされなかったマーケットが活性化しているという事実を細やかにリサーチし、分析することでわかっていたことでしょう。
昨年からその傾向はありましたが今年は極端にそれが表れています。私たちも昨春よりマーケットに変化が現れていることに気づいてはいましたが、それでも都心部では前回の80%程度の売り上げは見込めるものと判断しました。その判断が甘かったことは明白です。

●金融機関の実情と顧客の格付け

私たちの事業は「資本金」がないところから始まっています。
つまり「融資」から始まった私たちの事業は財務的に脆弱であると言えます。事業が好調な成長期に企業の資産を増やすべきなのでしょうが、成長している時には先行投資が激しくなかなか資金を貯蓄に回せません。
ずっと成長していれば問題はないのかもしれませんが成長が止まるとやはり焦げ付きが始まります。
「事業が赤字であっても貯蓄をする」という体制作りが必要になります。
赤字なのにどうやって貯蓄をするのか?と思われるかもしれませんが、私たちの事業では売上の約1割をストックに回すことにしています。もちろん1割を超える金額をストックに回せるのに越したことはありません。
最初から使える金額は売上の9割しかない、と考えて支払いや仕入れに臨むということです。その9割の中でどのようにしてやりくりするかが経営者の手腕になります。しかしこの1割のストックは将来大きなセーフティーネットになります。
さらに言うならばこの1割を三つに分けて「引き出すことのできない資金」「引き出しにくいが必要であれば引き出せる資金」「常に予備資金として引き出せる資金」の三つに分けてストックしておくことが大切だと考えています。

今回資金の焦付きに関して引き落とし金が引き落とされないなどの状況がいくつか起こりました。引き落とし日から全て3日以内に振り込みを終えましたが、資金の焦付きで一番問題になるのがこのような約定金の滞りで、金融機関ではこのような情報を共有しているために債務者の格付けを行なっており、これを「債務者区分」と呼んでいます。
「正常」「要注意」「破綻懸念」「実質破綻」「破綻先」といった情報を共有しています。→「要注意」→「破綻懸念」などの格付けのランクが落ちると新規の融資が受けにくくなり、また金利も高くなってしまいます。
一度落ちた区分を元のランクに戻すには正常に債務返済をし、業績を回復してから5年かかると言われています。
ただし「要注意」「破綻懸念」であってもその後の業績を証明できるのであれば融資を受けることができない訳ではありません。ただし金利が高くなることは覚悟しておかなくてはなりません。

コロナ禍から始まる長期間の不況で金融機関は公的機関を中心に助成金、補助金、給付金などの歳出を続けてきました。対策費として再出した資本の源泉は税金ですから、長期にわたる不況下でもはや底をついています。
景気に回復の兆しが見え始めた時点でその財政を立て直すために全ての公的金融機関、民間の金融機関を含め増税、貸し渋り、利上げなどが一斉に始まるのはどの時代でも同じです。
景気が回復しきっていない時点で始まるこれらの動きは多くの中小事業者を倒産に追い込みます。

●金融機関の信頼を回復する

実は私たちの事業は現在の形になる前に同じように債務超過で融資が受けづらい状況でした。つまり「債務者区分」ではランクが下がっている状況でした。
そのような状況で金融機関の融資を受けるにはどうすれば良いのでしょう?
まず、必要になるのは「経営計画書」の作成でしょう。
私たちも最初に融資を受けるときに詳細な経営計画書を作成しました。
「経営計画書」に中でポイントとなるのは業績を好転させる要素や仕組みです。
机上の空論で「これから業績を伸ばして債務の返済が可能になります」と計画書に書くのは簡単です。しかしその「業績が伸びる」という裏付けこそが金融機関に対する説得材料となります。
その裏付けのために、
●現状の分析……特に企業経営での弱点が何であるかを正確に把握すること
●業績(売上)の波のパターンの把握……季節変動、経営環境の影響などを分析
●事業の弱点を補う施策……業績が下がる原因の排除、マーケットの分析、顧客を取り込む計画の立案
●上記の事業転換にかかる費用、実績を出すまでの期間
●施策の転換による事業回復を現実的な数値で試算

これらを「経営計画書」に盛り込まなくてはなりません。

幸運なことに私たちの事業では新規の事業展開とそれによって得られる実績についての資料が揃いつつあります。

●小さな実績を作る

私たちは現在の事業の形態を変えてゆく必要があり、次に展開するべき事業に対してすでに方針があり、実際に展開する方策を持ち合わせています。
とはいえ、新しい業態に参入するには常にリスクがあり、不確定な要素も数多くあります。それらのリスクに対してどのように対応するかという「リスクヘッジ」もあらかじめ用意しておかなくてはなりません。
目の前にある大きなチャンス、小さなチャンスに対してどのように対応するかということは今後の企業としての成長や強靭さを向上させるのに必要な経験でもあります。私たちはギャンブラーではありませんから自分の身の丈を超えたチャンスに飛びついて企業が崩壊するような無茶をするつもりはありません。
まずは身の丈にふさわしいチャンスを選んで着実に実績を出し、ステップを踏みながら徐々に大きなチャンスを物にできる実力をつけていく必要があります。
その企業体制を確立させることが金融機関の信頼を勝ち取り、その後の大きな展開に対しての投資を得られることにつながると考えています。
私たちが最初に手に入れなくてはならないのは「安定」です。
数年の安定から次の飛躍のきっかけが生まれると信じています。
私たちの事業は生まれたばかりですから、今後もいくつもの難題にぶつかる事でしょう。ここから数年は我慢の時代ですが、同時に次の展開を熟考しながらそこに挑むことの出来る準備をする期間でもあります。
ただ一本調子に成長するよりも私たちは強靭な経営体制を手に入れることができると信じています。

それでもどのタイミングで殻を破り次のステップに行くかは、経営者の力量による部分が多いと感じます。
しかし、ワンマンな経営者が常に決断するのではなく、今後まず組織の中で重要なのは「経営者」の素養を持った人材を育成し経営に参画してもらうことだと考えています。また専門分野の知識を持った人材を獲得し、組織の各部署を強化することが必要になると考えています。

今回はまだ弱小な私たちにとってはそれなりに反省するべきことの多い出来事でしたが、今後の私たちの成長のためには必要なことであったように感じています。
危機を乗り越えて、今私たちは新たな「経営計画書」を作り始めています。
今年の初旬に作った「経営計画書」とは随分中身の違った物になると思われます。
そこにはもっとリアリティのある将来の事業展開の実態を明記できるものと考えています。
今、私たちは二つ目のステップに向かって進み始めていると実感しています。


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