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事業育成の実際29

●チャンスとピンチが交互にやってくる理由

実は私たちの事業は今、危機的な状況にあります。
恥を忍んで書くことで、もしかするとみなさんのヒントになるかも知れません。
危機的な状況になるのは何もこれが初めてではありません。
その度に首の皮一枚繋がった状態から再生を繰り返してきました。
事業が拡大すると同様に危機の大きさも拡大します。

ほとんどの事業者が経験する「危機」のほとんどが「資金繰り」に関係することです。この「資金繰り」が破綻するとどんなに大きな会社であっても危機的な状況になります。
会社の業績には当然浮き沈みがありますが、一番大きな影響を与えるのはいわゆる「景気の動向」です。
職種によって毎年同じような業績の変動がある企業もあります。
例えばアパレル業界は「秋冬物」「春夏物」というように販売に力を入れる繁忙期が年に二回あります。
また私たちの製菓業界もバレンタイン、クリスマスといった繁忙期が存在します。
繁忙期は市場に商品を送り出しマーケットに向けて実際に販売し売り上げを確保する時期です。では繁忙期と繁忙期の間の期間はどのようになっているのでしょう?
繁忙期前は、繁忙期に売る商品を頑張って製造しなくてはなりません。
当社では生ケーキを扱っていませんからクリスマス前の忙しさは他社よりは少しマシかも知れません。クリスマス直前の生ケーキの製造現場は想像を絶する忙しさになります。12月18日〜20日あたりの忙しさは半端ないものがあります。まさしく戦争と言って良いでしょう。
ところが1月は洋菓子店では閑古鳥が鳴いています。
正月に洋菓子を食べるとしてもお歳暮でいただいたギフト商品になりますから、年末には商品はもう現場を離れ市場での流通になります。

資金が悲鳴を上げるのは商品を生産している時期の少し前になります。
「繁忙期」→「閑散期」→「仕入期」→「告知期」→「繁忙期」
この年間での推移の中で資金繰りが焦げ付きやすいのは
「閑散期」→「仕入期」

になります。
「閑散期」には売上は上がらないので入金額は少ないにも関わらず「仕入期」には次の繁忙期に備えて材料仕入額が大きくなると同時に、大量に生産するために人の手が必要になって人件費も膨れ上がります。
少ない金額でそれだけの仕入れと人件費を賄えなくなり「資金が焦げ付く」という状況になります。
同じような現象が成長期の企業にも現れます。成長期には売上が上がると同時に仕入れと人件費の経費は毎月のように上がってゆきます。
季節変動と企業成長はチャンスですが同時に資金の焦付きを起こしやすい状況でもあると言えます。
私たちも例外ではなくこの「資金の焦付き」を毎年起こしてきました。
その度に金融機関からの融資を受けて危機を回避してきましたが、年に2回の焦付きを解消するために、その度に融資による資金調達を続ければ前回の融資を返済する前に次の融資が重なり、いずれは債務超過を起こします。
正直、金融機関は融資をして稼いでいるので、その企業の限界まで融資をしようとします。そのことを知っていないと金融機関は必要な融資額よりも大きな融資を進めようとして気がついたら「債務超過」になっていたということもあります。
私たちの事業でも同様のことが起こっています。

●季節変動と不況の入り口の二つの危機

今回の危機的な状況は業態による季節変動と不況による消費者の買い控え、マーケットそのものの変化が重なって起こっていると言えます。
もちろん経営者の仕事はそれを予測し対応策を考えることですが、
情報番組やビジネス向けWeb放送ではインバウンド需要は大幅に増え、大手企業では給与が上がり一見景気が上向いているように見えます。
しかし、実際の市場の動きは違っています。

明らかに買い控えが始まり、特に男性客はほとんどお金を使わなくなりました。
若いビジネス客が居酒屋に出入りするようになりましたが、滞留時間は短く21時にはお店から客がいなくなります。
インバウンド客は爆買いをするのではなく、できるだけ安価な宿を選び、食事も牛丼や回転寿司など手頃な値段のものを選びます。私たちがかつてアジアの諸国に旅行していたのと同じ感覚です。
日本が世界で最も行きたい国になっていますが、これまで行きにくかった国が行きやすくなったということだと考えると「日本で何がしたいか?」という目的は変わっていると考えます。
建築資材や燃料の高騰、小麦粉、卵など食材の高騰。
食品産業は多くの打撃を受けています。
この不況は根が深く長引くと思われ、かつてのバブル崩壊後の空白の20年の入り口と同じ状態です。しばらくは今ある経営資産をうまく使い拡大するしかありません。もちろん商品の値上げも行なっています。市場により売れ行きは違いますが、全体に売上は約15%〜20% 落ちているようです。
しかし売上の落ちないマーケットも存在しており、そのマーケットをピンポイントに狙う販売計画を立てなくてはなりません。
そしてそういうマーケットには業者が集中して苛烈な競争が起こっています。
不況による赤字と季節変動による焦付きが重なって、私たちの事業も資金が回らなくなっています。
本来は今こそ国による救済が必要なのですが、出るはずの補助金は採択され請求も終わっていますがなかなか振り込まれる気配がありません。国は財源が尽き税金を上げる方向に動いていますがもしかすると中小企業庁での配分された予算を温存するために出金を遅らせている可能性もあります。しかしそのことが契機の後退に拍車をかけるでしょう。
繋ぎ融資の交渉を始めていますが簡単ではないと思われます。

●新商品開発の意味

この苦しい時期に新商品の開発を行いました。
目的は「新しい市場の開拓」「原価率を下げた商品の開発」「資材費を減少させる」「購買年齢層・客単価の低下への対応」などです。
もうすでに市場での販売を開始しました。
ありがたいことに販売は好調です。
現在百貨店での催事出店から販売を開始しています。
給与引き上げは大手企業から始まりますから百貨店を日常的に使っている顧客層、つまり比較的富裕層の顧客に向けて販売をしていることになります。
今後主なマーケットである駅ナカでの販売は周辺のマーケットの顧客層がどのような層であるか?が大切な販売の判断基準になります。
私たちの商品は本来これまでのターゲット層よりも若い年齢層に向けて販売をするために単品あたりの価格を300円程度に納め、売り場で目立ちインスタ映えをするカラフルなパッケージにしました。
現在百貨店での催事販売でデビューしましたが、驚いたことに大手メーカーを含め他のメーカーも同じコンセプト、ターゲットの商品を売り出していたことです。
これまでの高級路線から外れ、低価格帯のカラフルな商品が百貨店のあちこちに展示されています。
どのメーカーでも顧客層の購買パターンが変化していることに気づいていたようです。私たちは昨年末あたりから新商品の開発の必要性を感じていました。昨年春から顧客層の購買パターンが変わってきていることに気づいていたからです。

●投資のタイミングと回収のタイミング

顧客の購買行動の変化はもちろん景況感に大きく左右されていることはわかっていましたが、状況を改善するためには投資も必要になります。
今年に入ってからの景気の低迷は、TVで流れるニュースに逆行しているようでした。給与が上がったはずのビジネスピープルの財布は思った以上に固く閉ざされ、これまでのマーケットに対する考え方を全く変えなくてはならないような状況でした。円安は企業そのものの海外への身売りに始まり、不動産屋技術はどんどん海外に流出し、国が成長させるべき分野へは投資が進まず、私たち中小事業者には厳しい状況が続きます。
今回の景況感の波は緩やかで大きなものになると考えています。
つまりじわじわと長期難にわたって景気が低迷し、上昇するのにも時間を要するだろうということです。
私たちの事業が現在の落ち込みに耐えられたのなら、しばらくは緩やかな成長に持ち込まなくてはなりません。
これまでの高成長をしていたスタートアップも守りの時期に入るでしょう。

●再生への時間

今回の危機的状況も緊急融資という形でなんとか乗り切ることができそうです。
しかし、融資の種類でも金利が高いものになってしまったので、今後は返済計画を確実にしてゆくことが大切です。
私たちの事業体はまだ財務のシステムが不安定で脆弱です。
幸い、事業の見通しは良い方向へ向かっていますが、それを維持し安定させるためには更なる生産量の拡大が必要になります。
今回の危機で最も問題なのは今後金融機関からの融資が少なくとも半年間は受けることが難しくなることです。
今後の商品の需要が見込める時期に融資を受けられないことは辛いですが、逆に現在の体制での生産性の拡大をはかり、債務を減らしながら着実に現預金を増やしてゆくことが大事です。そのためにはこれまでよりも厳しい財務管理が必要になります。期首の経営計画の策定はもとより月初に財務ミーティングを行い、2ヶ月先までの収支予測を確実に立てることが必要です。

●経営の波を緩やかに平均化する方法

私たちはまず現在の焦付きの状態を解消しなくてはなりませんが、今回の危機を招いたのはまだまだ私たち経営陣がアマチュアの粋を脱していない体と言えます。
全体を安定させ、事業体としての体裁を整えるところから着手しなくてはなりません。これまでも何度も焦付きを経験しながら回避できない状況を改善するために必要なのは、事業売上の季節変動を解消し、変動に耐えうる企業体力をつけることだと考えています。
どんな業種であっても売上の季節変動は避けられず、それぞれの方法で対処しています。
まずは「季節変動の少ない業態の導入」が必要であると考えます。
「季節変動」の原因が「気候」によるものなのか?各企業の慣習によるものなのか?あるいは催事の時期の影響であるのか?などの原因から解決してゆく必要があります。

「気候による原因」が大きい場合。例えば今年は猛暑が続きユーザーが外出を控え購買が進まなかったり、あるいは台風が多くやはりユーザーの購買意欲を落とす原因となった、などが挙げられます。しかしこの傾向は今後も続くでしょうしすぐには解決しない問題です。
焦付きは業績が常に良ければ起こりませんし、業績が低迷していても仕入れや人件費を抑えることができれば起こりにくいものですが、業績が突然落ち込み、その後急激に回復する時に起こります。
業績が落ちている時にはその翌月や翌々月の入金額が減少しますが、さらにその翌月に売り上げが伸びることがわかっていて仕入れをしようとしても入金額が少ないので思うように仕入れをすることができません。
そのために金融機関の融資を頼ることになりますが、同じようなサイクルで売上の低下と減少が半年ごとに繰り返すと、その度に融資が必要になり前の融資の返済が終わらないうちに次の融資が必要になり、融資の返済が重なってゆきます。
そしていずれは債務額が膨らみ債務超過になることになります。

●問題解決の糸口

今回の資金繰りの危機はここに「持続化補助金」の先行投資、繋ぎ融資、売上の低迷、補助金の入金の遅れなどの幾つもの要素が絡んで起こりました。
また私たちの「催事」での出展がメインの業態も社会環境の影響を受けやすいというところにも問題があります。
今後の対策としては売上の底上げと平均化、特に売り上げが落ちる初春と夏場の売上底上げが必要となります。季節変動の少ない業態への移行が必要で、一つはネット販売の売上の拡大、もう一つはマージン率の影響を受けにくい直営店舗の確保と拡大が必要です。
ネット販売で良く大型ネットモールへの進出を図る方法を選びがちですが、ネットモールでは「送料」「割引率」「セールへの参入」などを全て自店舗側が負担することになります。つまりネットモールでよく目にする「送料無料」「半額セール」「サマーセール」などに商品を出品したとしても利益をほとんど自社負担の金額で失われてしまいます。
これまで培ってきた顧客に向けて定期的にメールマガジンを送ったり、セールの案内、新商品の案内、企業としての取り組み、イベントの紹介などを送り、ファンコミュニティーを作ってゆくことが大切です。

ファンコミュニティーに関してはこれまでも書いてきましたが、現在はまだ確実に実践できていないのが現実です。
これから毎月確実に情報を更新しながら情報発信しなくてはなりません。
自分たちでできる動画の発信も需要です。基本的にはスマホよりは高性能の動画カメラが必要になります。編集用ソフトは用途に応じて既存のもので十分だと考えています。
いずれにせよネットを通じての情報発信は専任のチームを作っていく必要があります。広報宣伝費は利益の10%~15%、あるいは売上の3%~5%しか計上できず、有料のネット広告などは多用は出来ませんが投下した資本に見合うだけの効果が期待できるのなら状況を見ながら導入を検討するのも良いかもしれません。

これまでも何度も財務的な問題に直面しましたが、今後はそれらの財務状況が健全化するように取り組んでゆきます。


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