見出し画像

事業育成の実際34

●デジタルとマインドの整合性

技術としてのデジタルはなくてはならないものになりつつあります。
今後はAIを使ったマーケットの分析が主流になり、それぞれのマーケットに応じた情報発信をAIが自動的に行う時代になるでしょう。
しかし、その状況に似た状況をずいぶん前に経験したことがあります。
それはかつて20年以上も前に巨大な集積した情報バンクをもとに広告代理店が広報宣伝計画を立て、膨大な量の情報をマーケットに流し特定の商品のブランドを力技で立て、企業側の論理でマーケットを作り上げていた時代。
問題があるのは「膨大な量の情報」は「マーケットの画一化」を引き起こすということです。
音楽業界で同じ傾向の曲ばかりがリリースされていた時代。どの酒造メーカーもドライなビールばかりを出し続けた時代。モノトーンのファッションばかりが流行した時代。情報量が多ければ多いほどマーケットの傾向も全てのメーカーが同じテイストの商品を製造する時代がこれまでずいぶん長い間続いてきました。
これまでは人が集まりトレンドを作り上げてきた時代を今度はAIが作り上げるのではないか?という危惧が生まれています。
メーカー側のシステムが「効率化」を追求し続ける限りその方向性は変わりそうにありません。
経済が低迷すると企業は効率化を進めるので市場に出回るサービスの質や商品が似通ってきてしまいます。
逆に経済が活性化するとサービスや商品は多様化してその中から次の時代を担うトレンドが生まれるものです。
しかし今回の経済の低迷はすでに多様化したライフスタイルの中で始まっています。多様化の中身に関してはかつてのようなライフスタイルがビジネスの方にウエイトがくるのではなく、プライベートの方のウエイトが重くなっていることに起因していると考えています。コロナ禍の中で仕事場にいる時間が短縮されプライベートな家庭内での滞留時間が長くなっていることがライフスタイルの変化を起こしているのではないでしょうか?
情報そのものを単純に数値化すると実際の行動やトレンドの傾向について理解するには有効ですが、その背景にある人間の心理の部分に関しては数値化しにくく、読み取りにくいものになってしまします。

●DXへの転換の多重性を理解する

デジタルトランスフォームが重視されていて、企業の活動を効率化するのに欠かせないものと捉えられていますが、DXを表面的に捉えて企業活動をすると前述したようにどの企業においても同じ傾向のサービスや商品が提供されてしまいます。
ライフスタイルは多様化しているのにサービスや商品は単純化されるという矛盾した状況になってしまいます。
ただ「多様化」という言葉を単なる「細分化」だと誤解すると間違った判断をしかねない状況になります。
例えば食品に関するニーズを分析した場合、
「健康志向」という言葉はその背後に「寿命の延長」「安全性」「環境への配慮」などの幾つもの要素を含んでいます。
そしてこの中の一つ、例えば「寿命の延長」という要素を取り上げてみても
「病気からの回避」「リハビリテーション」「運動」「アンチエイジング」などの要素が含まれており、
「病気からの回避」には「3大成人病」「治療方法の確立」「終の住処」など。
また食品から住居に視点を変えると「シェアハウス」「移住」「養護施設」などの別の要素が必要になってきます。
このように顧客ニーズというものは多重構造になっていて、単純にAIに「食品に対してのニーズを考えなさい」と指示を出したとしても膨大な量の情報を絞り込むことはできません。
つまり顧客ニーズを探るためには明確な情報の方向性を示してから行う必要があります。最初に提示する要素が一つではニーズそのものを絞り込むことはできないのです。
例えば「健康志向」に含まれる方向性を「移住」「海外」などのように選択範囲を狭めておく必要があります。さらに「予算」や「気候」などの要素を加えることによって正確な情報を得ることができます。
これは良くGoogle検索などで検索ワードを絞り込まずに検索すると正しい答えに辿り着かないのと同様の事象です。
これらの「要素」を考えるのは人間が最初に「目的」や「目標」をあらかじめ正しく把握することで可能になります。
人がAIを正しく使いこなすためにはまずは人が思考を整理しておく必要があります。いくらAIが発達したとしても人の方が思考を発達させなくてはうまく使いこなせないということです。

●思考の構成力

人が読書をあまりしなくなってきているという情報があります。習慣的に読書している人は全体の67%程度だという数字もあり、スマホやゲームなどで時間が取られる」が36・5%に上っています。
Twitter(X)など文章量が少ない断片的な情報の発信に慣れてしまうと、目的や目標に辿り着く思考の整理や構築が苦手になってしまいます。また同様に感情を論理的に制御することも困難になるかもしれません。
1日のうちどの程度理論的な思考や読書に時間を割いているでしょうか?
Amazonではパワーポイントでの単純なプレゼンテーションをやめ、文書による会議資料を提出して読み込んでからプレゼンテーションに臨むようにしているという情報がありますが、これも論理的思考を鍛えるための一つの手法であると言えます。
DXを上手く行えば業務の効率化は図ることができるかもしれません。しかし、人の能力は逆に衰える可能性があります。最終判断をする人の能力が劣化してしまうとその判断を誤ってしまうかもしれません。
またAIに頼ってしまうと、自分でその現象や状況を確認することを怠るようになる可能性があります。現場で起こっていることを目で確かめない。そのものに触れたこともないのにその性質を決めつけてしまいます。

●デジタルトランフォームではなくマインドトランスフォーム

過去の成功体験に囚われ続けるのはなでだろうと考えた時、その人たちは本当に自分の力で成功したのではないから、なのではないかと思うことがあります。
ピラミッド式の組織や巨大な組織の一部となった人たちは、自分たちの失敗を自分より下の部下や外部の企業の責任に転嫁することがあるのです。
現在のように変化の激しい時代ではクライアントと下請け企業の間でこの責任の転嫁が始まります。状況が変化しているのに以前と同じやり方を続けていても成果は出るはずがありません。
「今まで扱ったことのない商品を開発して販売するのならあなたに機会を与えましょう」
これは実際にクライアントの担当者から言われた言葉です。
でも先方の提案してきた商品はクライアントの持っているマーケットとはずれのある商品でした。
本来その企業は高級商品を扱うマーケットを持っていたのですが状況は変わり高級商品は売れなくなっています。担当者からの依頼は価格帯の安い商品を作りなさい、といものでした。
しかし、私たちのブランドは価格帯の安い商品を買うユーザー層を対象にしたブランドではありません。もしもそういう商品を私たちが販売を始めてしまったら私たちのブランドそのものが崩壊してしまいます。
クライアントのマーケットに必要なのは単に商品価格の安い商品なのでしょうか?
「価格帯は下げても良いけれども質は落とさないように。でも売上はこれまで以上に上げてほしい」
下請け会社は安い価格帯で大量に生産して売らなければなりません。そうすると商品の質は必然的に下がります。品質を保つためには巨額の投資をしてチェック機器やオートメーション化などが必要になり、下請けの財務状況を悪化させます。
品質を保とうとすれば耐えきれない下請けは倒産し、結果質の良くない商品群だけが残ってしまいます。必然的にさらに売上は下がりクライアント自身の首を絞めることになります。
大切なのは顧客が誰なのかを明確に知ることであり、その顧客が何を求めているかを理解することでしょう。
過去の成功体験は投げ捨てて、もう一度初心に戻ってマーケットを観察すればわかるはずです。
下請けに安い価格帯の商品開発を強要することではなく、その下請け会社の強みを理解し、適正なマーケットとマッチングさせることが必要です。
まずはバイヤーがこれまでの体験に囚われず純粋にマーケットそのものを見て分析するマインドを取り戻すことが必要なのではないでしょうか?

●行動し確認する

年功序列で能力主義ではなく挑戦する必要のない社会生活を送っていると、挑戦の仕方自体を忘れてしまいます。
自分たちが変化しなくてもデジタル化やグローバル化が現実として進み、海外からのユーザーを取り込まなくてはならず、人材の確保が難しくなって業務の効率化が必要になると環境は急激に変化し、私たちは次のステップに向けてチャレンジしなくてはならなくなります。
日本の企業の多くは入社すると能力主義ではなく年功序列で出世してゆくシステムを導入しており、大学を卒業して就職する企業を決める時多くの学生はこの安定した人生設計を行える企業を選ぶ傾向にあります。
ですから社会人の多くが新しい事業を起こしたり、別の業界に転職したり、自分の力で事業を大きくした経験を持っていません。逆に言えばそういう状況が自分の身に起こった時にそれに対処し解決する能力が乏しいと言って良いと思います。
新しい事業形態や起業、事業運営に対する知識や経験は今後短期間に社会情勢が変化し続ける社会の中で重要な能力につながります。
例えば一般の社会人の中でどれほどの数の人が決算書を読むことが出来るでしょうか?いや、それ以前に自社の決算書を見たことのある人がどれだけいるでしょうか?おぼろげに自社の特徴や強み、欠点を言えたとしても、それを実際の経営に置き換え、企業を成長させる、あるいは企業を再生させる具体的な事業計画やそれにかかるコストを計算することのできる人材はどれほどいるでしょうか?
またそれらの計画を実行したことによる発生するリスクとそれを防ぐ方法を予見し立案できるでしょうか?

これらは本来すべての経営者が持つべき能力ですが、現在の会社員の中で経営者の素養を持ち、あるいは身につけるために努力している人はどれほどいるでしょうか?
起業することも、転職することも、その人が能動的に起こさないと行動できないものです。また逆に言えばこれらの行動は自分自身が能力を身につけるチャンスでもあります。多くの日本人はこのチャンスを自ら捨てているとも言えます。

●すでに変化への対応と行動は始まっている

私はもともと「人と同じ」が嫌な天邪鬼な性格でした。
しかし、それだけでは世の中で学校生活や社会生活を送ることは難しく幼少の頃は本来の自分を押さえ込んで人に合わせる様にしていました。
年齢を重ねるにつれてそういう元来の性格は影を潜めてゆくように考えていましたが、実際に年齢を重ねるうちにそういう本来の性格は抑えられるのではなく顕著に自分自身の性格として形作られてきました。
ただ、世の中を生きてゆく「知恵」や「経験」は増えてゆき、その時の状況に対して「何が必要か?」をよく考え学習するようになりました。
世の中から逸脱して破綻しないのは「状況に順応する術」を身につけたからだと考えています。

「魚類の研究」→「コピーライター」→「デザイナー」→「プランナー」→「ブランディング」→「レザークラフト」→「飲食」→「菓子製造」→「企業経営」

一見とんでもなく脈絡のない経歴に見えますが、全体の骨格を支えているのは「デザイン」と「ブランディング」であって、この二つはどの事業においても有効であると考えています。
かつての日本の大企業を支えているのもこの二つではないかと考えています。
「HONDA」や「SONY」、「無印良品」などはこの二つで世界的大企業になったと考えています。
また世界的な大企業も「apple」や「アディダス」「スターバックスコーヒー」などもこの二つで成長を遂げた企業でしょう。

これからの変化の激しい世界情勢の中で生き抜くには、どの国や地域の基準であっても高く評価され続けなくてはなりません。
元々の日本では出世コースから外れてしまうであろう私のような性格は、意外とこれから変化する時代には合っているかも知れません。さらに日本的な品質の高さやブランドを洗練させる努力が加われば強い武器となります。
まだまだ私たちのブランドはそこまでの力を持っていませんが、この苦境の時代を別の側面から見ると実は大きなチャンスが隠されているに違いありません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?