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事業育成の実際40

●小さな一歩

カフェを始めたのが2011年。
新型コロナウイルスが蔓延した2019年から本格的に菓子の製造販売を始めました。最初は駅ナカでの催事出店販売という業態。
カフェの営業は純粋にBtoCのお客様と直接対応する業態でしたが、店舗の開業場所の商圏(マーケット)のニーズと私たちが提供する商品のブランドコンセプトが合わず苦戦を強いられました。
駅ナカでは私たちのブランドに合致した商圏を選ぶことが出来、売り上げを伸ばすことができました。
しかしコロナが終息した昨年から売上が減少し始め、今では当初の売上の70%まで落ち込んでいます。
それでも2019年〜2022年にかけては毎年前年比200%近く売り上げを伸ばし続け、菓子製造販売を始めた当初の年商130万円だった売上は現在では2000万円を超えるまでに成長しました。取引先が大手上場企業が多かったこともあり企業としての信頼度を上げるために2022年12月に法人化を果たしました。

●スキルが追いつかないジレンマ

法人化に至るまで経営について様々な方法で学習してきました。
私はすでに60歳を過ぎていましたが学習意欲は持ち合わせています。ただし、新しいスキルを身につけるには年齢の壁はやはりあります。
事業を始めた時期は一般の方々よりも早かったと思います。
28歳で独立し、自営業者としてデザイン事務所を開設しました。
デザインの中でもCIやVIなど企業イメージの構築やブランディングに近い分野を手掛けていたことは幸運だったかも知れません。経営そのものではありませんが、経営に近い部分でのデザインやブランドを立ち上げる仕事を幾つか経験することができました。2005年に45歳でいったんデザイン業界を離れるまでには企画(プランニング)について学び、セールスプロモーション、イベントプランニング、商品開発など様々なプランニングを経験し、さらに幸運なことには代理店は通していましたが、その多くが上場企業との業務だったことです。
しかし、この頃にBtoBの仕事の難しさも経験しバブルの華やかさもバブル崩壊後の苦しさも両方経験しました。
プランニングを手掛け始めてからコンサルティングにも興味を持ちましたが、コンサルティング会社に仕事を発注したりコンサルティングを受ける側になった時にその裏側を垣間見て多くの疑問を感じたのも事実です。
企業をサポートして並走する仕事には今も魅力を感じています。でもそれはあくまでも「サポート」であって上から目線の「コンサルティング」ではないと考えています。そしてもっと理想的なのは「サポート」よりも「共に学習する」共創型の並走アシストだと考えています。なぜなら実際に自分で事業を始めて何か問題が起きた時に「誰かに頼る」のではなく「自らが考え、学習する」ことが大切だと知ったからです。問題はそれぞれの業種や業態、環境によって状況が異なります。
私も様々な人たちのアドバイスを受けてきましたが的確にアドバイスが出来る方はごく一部でした。
ほとんどのコンサルティング会社のアドバイザーは自らが経験したことではなく本で聞き齧った事やマニュアルに書かれている内容、上司のアドバイスで自ら経験して導き出した答えに照らし合わせて語っているわけではありません。
コンサルティング会社に就職し、2〜3年働いたからといって自らが会社を経営し事業をしていたわけではありません。特にリスクヘッジに関して、自らのアドバイスが間違っていて起こしたリスクに対して責任を取ろうとはしません。
並走型のサポートであってもアドバイスが裏目に出ることはあるでしょう。それでも自らの経験を数多く経験していると様々な方法論を多く持っていて、それを実現するための人脈も持っています。
サポートした内容を全て自らの手柄にしようとするのが目的ではなく、サポートしている相手が本当に問題を解決するためには外部に相談し、場合によっては自らより能力のある人たちと協力して動ける人間が信頼できるサポーターだと考えていますし、もしも私が誰かから相談を受けたならそのように動きたいと考えています。
スキルというものは自分一人で身につけるものではありませんし、誰かのスキルの方が高ければ素直にその人のスキルでサポートしてもらうことも必要だと考えています。それでもそのサポートをする人をよく見て自らのスキルそのものも成長させる必要があります。

●自分だけでは解決できない

「どうすれば良いのかわからない」
「誰に相談すれば良いのかわからない」

事業が挫折しそうになった時ほとんどの経営者が陥るジレンマです。
自分の持っている知識だけでは解決できないことは沢山あります。特に経営者が陥る問題の多くは「資金繰り」に関することでしょう。
成長している企業は材料仕入れの焦付き。順調に売り上げを上げているように見えても借入額が膨れ上がり債務超過に陥りそうになることがります。
追加融資がなかなか通らなくて間に合いそうにない。
引き合いは来るのに利益が薄くなり資金をプールできない。
コンサルティング会社に相談したら法外な手数料だけを取られ事業は好転しない。
経営者誰もが一度は陥る状況です。

私の場合は事業を始めた当初は好景気で大きな問題は起こりにくい状況でした。
デザイン事業の場合は仕入れを極力減らし、自らが動けばかなり経費を切り詰めることができます。ただし他の業界に比べ取引契約書が存在せず、仕事が終わってみると支払いを値切られたり納期を短縮されたり様々な問題が起こりやすい状況でした。面倒でも契約書を作り、得意先の印鑑をもらうことが必要でした。
現在のように製菓業では仕入れと製造、販売において全てが契約で成り立っていますが、それでも得意先からの圧力は存在します。裏付けが明確ではない売り上げ目標や事業者の査定。それらが私たちの経営を圧迫し、得意先の顔色を伺いながら事業を進めなくてはならない現実があります。

最初に資金繰りが焦付きを起こした時、私たちにはまだそれほど信用もなく簡単には金融機関から融資を受けづらい状況にありました。どうすれば融資を受けられるのか?そのために何を準備すれば良いのか?
そして何よりもそれをどこに相談すれば良いのでしょうか?

●財務の強さが企業を育てる

商工会議所で福岡での展示会併設の商談会の話を聞いて「是非とも参加させてください」と言ったときに「お宅のような小さな会社が参加できるようなイベントではない」と断られたことがあり、とても悔しい思いをしたことがあります。
一体何をもって企業の信頼度が測られるのでしょうか?売上高でしょうか?資本額でしょうか?
商工会議所の担当者がそれに答えることはありませんでした。
「財務」の大切さは以前から感じていました。なぜなら周囲で成長している企業を見ていると、どこも「財務」に長けている企業だったからです。
専務が金融機関出身。重役が経理畑経験者。取締役が税務に精通。
そういう話を何度も聞いていました。
かといって私たちがいきなり財務の専門家になれるわけではありません。金融機関と対等に話をすることすら難しいのです。
毎日通る駅前のビルの窓にいつも気になっている看板がありました。
「よろず支援拠点」経営に関することならなんでもご相談ください。
なんだか怪しいコンサルティング会社のように思っていました。でもある日、ふとネット検索をかけてみると「中小企業庁直轄」と書かれています。国の機関?
もっと驚いたのは「何度相談しても無料です」と書かれていたことです。
相談内容に応じて専門のコーディネーターが対応いたします。とも書いています。
また「コーディネーター」の多くは「中小企業診断士」の資格を持っています。
本当ならこんなに求めていた機関はありませんでした。そして財務に行き詰まっていたある日、そのビルの「よろず支援拠点」のドアをノックしたのでした。
相談したいことは山のようにありましたが、とにかく「財務」を強くすることが最初の目的であり、目前の問題である財務の焦付きを解消することが可及の問題でした。私たちが最初に「よろず支援拠点」で相談を持ちかけたのは、それまで手がけていなかった「補助金」の申請についてでした。
本来補助金申請の窓口は「商工会議所」あるいは「商工会連合会」です。
多くの方がこの二つの機関を混同されていますが「商工会議所」は経済産業省の中小企業庁の管轄。「商工会連合会」は経済産業省の経済産業政策局管轄です。
「商工会議所」は各都道府県の「市」にそれれぞれ配置されており、「商工会」は「町村」に配置されています。「商工会」がもう少し広範囲に業務を拡大したものが「商工会連合会」です。
どちらの組織もよく似た機能を持っていますが背景となっている法律や役割に多少の違いがあり、「補助金」に関してはどちらの組織も窓口として機能しています。
補助金の性格上「中小企業庁」が関係している点で、その内容や情報といった部分においては「よろず支援拠点」でも詳細な内容を確認できますし申請書類の書き方にも精通している方が多くおられます。
現在は「補助金」申請に関しては「商工会議所」「よろず支援拠点」の両方に相談し、申請書を書き上げるようにしています。よろず支援拠点のコーディネーターの方の指導と商工会議所の職員の指導には微妙に差があるからです。
よろず支援拠点のコーディネーターは専門分野に特化して知識も豊富ですが、商工会議所の職員の方はどちらかというと申請内容の細かな部分のチェックに秀でています。指摘される部分も傾向が違っていますが、その両方の指導のもとに申請書を書くのが理想的ではないかと考えています。もちろん「税理士」の協力も不可欠になってきます。
経営を続けていると経営者を励まし元気づけるタイプの相談員数字を示して方法論を語るタイプの相談員に出会います。
確かに窮地に追い込まれて切羽詰まっている時には励ましも元気づけも必要ですが、実際に経営を続けるためには現状の分析と解決方法の提示がなければ問題は解決しません。
経営が行き詰まるとまず資金がショートします。
売上が上がらなければ次の仕入れに必要な資金が回らなくなります。企業は常に利益を出し続け、その利益で事業を回し続けなくてはなりません。必要に応じて利益の一部をストックし、経営状況によりそのストックで仕入れ資金を補填し事業が回り続けなくてはなりません。
商品を卸したり販売する際に中間マージンを引かれると十分な利益を確保できなくなることがあります。自社製品を作るノウハウや技術のない会社では製造会社から商品を仕入れ、小売りすることで利益を得ようとします。
かつて先進国の企業が後進国で商品を製造して大きなマージンを得ていたような時代はもう終わりを告げようとしています。
利益を確保するための企業努力にはいろいろな方法があります。
まずは生産効率を上げること。
100個の製品を作るのに1時間かかったとして、それを30分に集約できれば同じ時間で倍の200個を作ることができます。同じように1時間で100個の製品を作るのに20名の従業員が携わっていたものを同じ時間で10人で作ることが出来たとすれば人件費は半分になります。
次に原価率を下げること。
例えば100個の商品を作るために原材料費が100円かかっていたものが、同じ100個の商品の原材料費が50円で済んだなら1個あたりの利益は150%増えます。また、商品を入れる箱を貼り箱から折り箱に変えると1個あたりの価格は150円程度から60円程度まで下げることが出来ます。(ただし箱の最低生産ロットは貼り箱は1個から、折り箱は1000個程度からになります)500円の商品で貼り箱代を含むと商品そのものの価格を実質350円に設定しなくてはならず、折り箱であれば440円で設定ができ、その差額の90円は利益になります。

●財務で人を苦しめたり品質を貶めない

生産効率を上げようとすると資金を豊富に持つ企業であればオートメーション化やIT化を進めて人を使わず生産性を上げることが出来ます。しかし、オートメーション化にしてもIT化にしても莫大な資金投下が必要になります。
オートメーション化をせずに生産効率を上げるために人員を増やせば人件費は膨れ上がり利益を出せなくなります。逆に人員を減らせば一人当たりの労働負担が増えて離職率が増え、人員確保が難しくなります。
必要なのは一人当たりの生産効率を上げるために短期間で人の熟練度を上げてゆくことです。そのためには生産マニュアルを作り、人材育成のためのシステムを作り上げます。また熟練度によって生産性が上がった人員の能力を評価し、給与をそれに見合うように上げてゆくようにします。
もしも単純に人員を削減し、生産性を上げるためにサービス残業を増やしたり無理なノルマを課せば従業員にとって環境の悪い職場になってしまいます。
原価を下げるために安価な質の良くない原材料を使ったり、材料の仕入額を落とすために下請け会社に無理を言っても商品そのものの質を落とせば、いずれは販売力が低下し自分の首を絞める結果になるでしょう。
一つの方法は材料の大量仕入れによって、商品にかかる原材料費を下げること。そしてやはりオートメーション化を進めかかる人員を減らすこと。この二つが大手の企業で行ってきた「利益を確保する」方法でした。
しかし、その商品の品質に自信があり、価値があると考えるのならその付加価値を実際の価格に反映させることが出来れば、熟練した少人数の人員で高品質な商品を作り利益率を上げるのが最も良い方法だと考えます。
ユーザーにこの商品は
「この商品は確かに信頼できる」
「この商品には付加価値分を支払うだけの値打ちがある」
「この商品(会社)のことが好きだ」
「この商品を応援してゆきたい」

と考えてもらえることが前提になります。

●何かを解決するのにリスクがないわけがない

これまでの業態を別の業態に変えてゆくことは常にリスクを孕んでいます。
特に必要な設備を揃えたり、新たな販路を開拓したり新商品を開発するのには大きな資本が必要になります。補助金の申請をするにせよその費用の多くは借入となりますから、事業を成長させることは債務を膨らませることにつながります。
今後賃上げによって一旦景気は上向くでしょうが、これから2~3年は諸外国、特に欧米の景気は下がり、日本もその影響を受けるでしょう。
賃上げに伴って金利の上昇、インフレが始まり、大手銀行の貸し渋りも起こります。ようやく設備投資に動き始めた中小企業はそのための融資を受けることが困難になりしかも人件費の増大が経営を圧迫します。
インフレによる価格上昇に負けない商品価値の確保と、その商品を販売するマーケットの選定が重要になります。
コロナ禍が明け、ようやく再開発が進み出した地域と資金調達が出来ず開発が停滞し高齢化が進む地域の両極が生まれ、地域格差が大きくなってゆくでしょう。
その地域格差とマーケットの様相は連動し、商品を販売するマーケットの選定は今後ますます重要になります。
都心部の再開発も進みこれから二年間の間にそれらが完成すると都心部のマーケットも変化します。しかし、都心部の地域としての役割はこれまでとは大きく変わってゆきます。それらを見越した上でどのような業態をどの地域に持ってゆくかで企業の業績も左右されると考えています。
人々の生活基盤は「仕事場」から「家庭」に移りつつあります。その中で企業側がどんな提案をするかで業績を伸ばせるかどうかが決まってゆくでしょう。
いずれにせよそれに向けての投資が必要であり、3〜5年先までを見越してその債務を返済できる計画が必要となります。
企業の資金調達の方法は今後大きく変化し始める可能性があります。
個人レベルのクラウドファウンディングは企業にも拡大し、クラウドファウンディングだけでなく投資を受けながら事業の拡大を目指す企業は増えるでしょう。
投資を受けるということは投資した人や企業への責任が生じ、またその人や企業の意思や思惑の影響を受けやすくなります。だからこそファンコミュニティを作りその中から自分たちの考え方や方向性を理解した方々の投資を受けることで、自分たちのアイデンティティを守る必要があると考えています。


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