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事業育成の実際31

●自分一人の決断

経営者は孤独だとよく言いますが、確かに最後の決断を誰かに委ねる事はできません。それでも現場で働く人たちの声は常に聞くべきだし、たとえ経営者の決断が現場の人たちにとって歓迎されないものであったとしても、最終的には会社にとっても従業員にとっても最善の決断であるのならば実行しなくてはなりません。
そこで働く人たちの信頼を得るには多くの時間が必要ですし、その時には苦しい決断であっても結果として良い結果が得られる方向に舵を取らなくてはなりません。

経営者は激しい波に揺らされます。
結果を得られるまでの数年間は数週間ごとに変化する状況に身を置かなくてはなりません。自分自身の決断が最良のものであったか?は結果を得られるのに数年かかりますし、結果を得られた後であっても油断はできません。

経営者に必要な素養には二つの時間の側面があります。
一つは目の前にある問題に対して素早く行動し素早く回避する瞬発力。
そしてもう一つは激しく変化する環境の向こう側にある対局を見極め実行する持久力。短期の計画と長期の計画を同時進行で進めるには強いメンタルと体力が必要になります。
今、まさしく私たちが置かれている状況は目の前の問題に瞬発力を持って直ぐに行動し解決しなくてはならない側面と、その先に見えている私たちの事業の向かうべき方向に対して環境を整える側面の二つを同時に考え、まとめ上げる能力が必要になっています。

●事業計画書の骨子

前述した瞬発力が必要な事業と持久力の必要な事業を事業計画書の中に盛り込む必要があります。
私たちは毎年期首に事業計画書を立案しています。しかしここ近年では半年ごとに事業計画書を更新する必要性に迫られています。つまりマーケットそのものが半年を待たず刻々と変化していると言う事です。
これからの経営はこれまで以上にスピードを要求されるということになります。
事業を加速させるためにも今後の資本投下が必要になります。
企業にとって「財務」はこれまで以上に大事になると思われます。
事業計画の中での「財務計画」に関して正しい分析と将来の展望に繋げる財務計画を記載しなくてはなりません。
●期首から期末に至る月次決済の予測と資金繰り計画書の提示
●商圏をもう一度分析し直し、商圏エリアをランクづけし、利益を望めない商圏は除外する。
●商圏分析をもとに年間の催事計画を策定し、催事以外の展開もスケジュールに盛り込む。
●策定した年間計画をもとに年間の売上額、利益額、債務の返済状況など全体としての財務状況の予測をまとめる。
●財務上問題が起こるであろう事象を緩和し回避するための方策
●負債に比べ流動資産(現金化しやすい商品、商材など)を拡大できる環境整備
●実際のクライアントと商品を販売する商圏を分析し年間の売上額を予測
●商品原価率をもう一度精査し損益分岐点の確認及び利益予想額を算出
●将来に向けて投資に回すことのできる資本とその用途の提示
●今後のより効率的な事業体制の構築
●予測できる今後のマーケットの変容とそれに対応する業態の提示

さらに
●あるべき将来の企業組織と事業そのものの方向性の提示
これら全てを事業計画書にまとめ上げ、実際に実行できる体制を作り上げ、実行に移します。
現在はこれらの作業ほぼ全てを一人で行っています。
従業員の中でこれらを学習していきたい、あるいはサポートしたいという人材がいれば一番良いのですが今のところそれに見合う人材は存在しません。
ただ、社会人よりも学生アルバイトの方が学習し身につけ実戦したいという気持ちが強いように思います。
インターンシップをはじめ生え抜きの社員を育てていく方が私たちが考えている組織を作り上げるのには早いのかもしれません。

●経営者のメンタル

事業を続けていると毎年のように窮地に追い込まれます。
あきらめてしまえばもちろん事業そのものがそこで終わってしまいます。
まだ小さな企業は常に廃業の危機にさらされ、それを乗り越えるか乗り越えないかは経営者の決断にかかっています。
経営者もただの人間だからどんな時でも強い意志を持ち続けることができるわけではありません。窮地に追い込まれた時にそれを乗り越えるための意志は何が支えるのでしょうか?
それはその事業を行なっている「理由」にあると思います。
経営者にとってその「事業」の先にあるものが何かによって乗り越える意志の強さが違っていると思います。
「お金持ちになりたい」
「出世したい」
「家族を養いたい」
「仲間が欲しい」
「実力を示したい」
「世の中に認められたい」
「他人を見返してやりたい」

様々な思いが経営者の中にはあります。
かつて「お金で苦労した」人にとって「お金持ちになりたい」ことは切実な願いかもしれません。でもなんとなく「お金持ちになったら楽しく暮らせるかな?」程度に考えているのなら事業を行うことへの執着がそれほど高いとは思えません。
かつて「上司に認められず実力を発揮出来なかった」経験がある人は「実力を示したいという気持ち」が強いかもしれません。
でも「事業」というものはもともと「自分」のためにするものではなく「お客様」という他人、あるいは「社会」や「世の中」のためにするものであって、「自分のため」にしている事業なら、大きく育てて売却する方が良いかもしれません。
苦しい決断を何度も繰り返しながらそれでも続けられるのは「自分の夢」が「誰かを幸せにするためにある」と感じられることが大切だと考えています。

●事業は大きくするものなのか?

経営を続けていると
「ここから事業を大きくしなくても良いのじゃないのか?」
と感じることがあります。
これ以上大きくしなければ自分たちは幸せを維持できるし、苦しい思いをしなくて済む、という事業の大きさというものがあります。
でも「現状維持」に落ちつこうとすればほとんどの事業は「縮小」に向かいます。
例えば夫婦で営む小さなカフェであったとしても事業規模を維持しようとしたとしても、いつか二人とも年老いてゆき子供がいたとしてもその子がその事業を継ぐかどうかはその子の気持ち次第です。
事業を大きくしなければならないと思うのは「お金持ちになりたい」という気持ちよりも「この事業の大きさのままでは次の世代に渡すことができない」という思いが大きいと感じています。
自分たちよりも次の事業を継いでゆく世代が安定して幸せであり続けるためにある一定の大きさを超えておく必要がある、と感じています。
ただ事業を大きくし、上場したとしても私たちが考える「人を幸せにする」事業を維持できるとは限りません。
「街の小さなお菓子屋さん」が提供できる「人の幸せ」と巨大な企業が提供できる「人の幸せ」は質が変わってきます。
自分たちがどこを目指して事業を起こしたのか?その先にある形は何を目指しているのか?を見失わないで事業を大きくすることが大切だと考えています。

●いつかは自分たちも間違うこともある

創業者が経営を続けていると企業の事業がその経営者の考え方に左右され始めます。創業者は自分なりの信念を持って事業を行おうとします。
創業当時、事業を拡大するのは創業者の能力に頼る部分がどうしても多くなります。特に「創業家」という一族による経営はそういう方向性が色濃く残ってしまいます。
幸い私たちには子供がいないので次の世代は外から呼び込むか、生え抜きで育てるしかありません。それでも創業者が力を持ちすぎるのは良くないと思っています。
時代が変わっても事業の「誰かを幸せにする」という本質は変わりません。
もしも創業者がしばらく見続けなくてはならないのはその本質だけであり、方法や事業の内容は変化しても仕方がないと考えています。
過去の事業内容に引きずられ変化できない企業はいずれ衰退すると思っています。
もちろん新しい経営者が助言を求めてきたり、指針を求めてくれば方向を示さなくてはならないこともあるかもしれません。でもそれの根幹にはやはり「誰かを幸せにする」という大きな方向性があって、経営者はそれだけを受け継いで方法論や技術、事業そのものに対する決断はそれぞれの世代でしてゆくべきです。
私たちは創業者としてやるべきこととしてはいけないことをきちんと分けて傍観者になるべきでしょう。

●再生の中で取り組むべきこと

小さな危機や壁にぶつかるたびに私たちは事業の内容を精査し、欠点を克服し、新しい試みに向かっていきます。
それらが正しいかどうか判断するには少し時間がかかります。
まだ私たちの事業は生まれたばかりですが、それでもやはり「誰かを幸せにする」という方向性は見失わないようにしています。
私たちは現在食品を主に扱っていますが、
「私らしい、暮らしをつくる」という大きなテーマを持っています。
それぞれの人々が暮らしてゆく中で誰かの真似ではなく、学校で教えられた価値観ではなく、「自分らしさ」を持ち続けて暮らせる世の中を作る手伝いがしたい、と考えています。
その暮らしの中にあるもの「衣」「食」「住」に及ぶ商品やサービスを提供してゆきたいと考えています。
その中には「やさしさ」や「暮らしやすさ」「丁寧さ」などの要素を込めて、私たちの企業そのものが体現できるようにしてゆきたいと考えています。
それが私たちの「企業文化」になるように、様々な「活動」に取り組んで、それを体現できるような「商品」や「サービス」を提供し、いつか私たちのお客様にその「思い」が伝わってその考え方に「共鳴」してもらえるコミュニティーを作ってゆくことができると良いな、と考えています。
ほんの少し、私たちがこの短い間にしてきたことからその芽吹きが始まっていると感じています。

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