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事業育成の実際33

●忍耐と瞬発力

これほど経営環境が目まぐるしく変化する5年間はなかったと思います。
特に昨年2019年から2023年にかけて、コロナ禍が始まり落ち着きを取り戻して人の流れが再開するまでの間、最初は急激な経済の悪化が始まりそれが一年間ではなく数年続くと分かった時点で企業は守りに入りましたが、経済状況の悪化はそれ以上に進み、多くの企業が助成金や補助金を頼りに経営を続けてきました。
この時点で体力のない中小事業者は次々と倒産し、不況が長期化するにつれ国からの助成や金融機関の支援は薄らぎ、逆に国家や金融機関は自分たちの経営の存続のための資金をプールするために金利は上がり、税金は膨れ上がりはじめました。
福祉は薄くなり国は資産を増やす方法として海外を含めた投資を推し勧めています。
以前の不況は自助努力である程度乗り越えることが出来ましたが、現在のように世界中の経済が連携している時代では自分たちの努力では乗り越えられない壁があります。
国としての経済を見ればこれから数年は苦難の時代が続くことが予想されます。
よく言われる「晴れた日に傘を差し出し、雨の日に取り上げる」状況もすぐには改善しないでしょう。
苦境に陥った時には「国や金融機関は当てにいてはいけない」の言葉通り、自分たちの知恵が頼りになってきます。
もちろん、国や金融機関も「経営体」である限り経営を続けなくてはならないので「利益を産む」マーケットに対しては投資を続けることでしょう。
それが「先端技術」や「AI」などのテクノロジーや避けて通れない「カーボンニュートラル」「食料問題」などの技術投資が主体になり、生活消耗品や消費資材、一般食品へは視線を向けていません。
現在必要とされているのは資本力はもとより、この苦境を乗り越えるための「知力の瞬発力と持続力」であると考えています。

●マーケットに立ち返る

これまで大企業が推し進めてきた大量に投資し、マーケットをコントロールし、大量消費を促す時代は終焉を迎えつつあります。
ニーズもマーケットも細分化し、大きく言えば
「時代遅れの大量消費型の古いマーケット」
「過去の栄光を再現しようとする大資本がコントロールしようとするマーケット」
「自分らしさや暮らしやすさを生活様式に求める新しいマーケット」
の三つに分化しているように感じます。

今、かつて繁栄を極めた百貨店が変貌しようとしています。
多くの百貨店は閉店に追い込まれ、残った店舗も業態を変えつつあります。
「大量消費型のマーケット」ではなく「大資本型のマーケット」でもなく、三つ目の「新しいマーケット」にどうすれば転換出来るか試行錯誤をしているように見えます。
これまでのような都市への中央集中型の大型店舗での展開ではなく、地域の特性を活かした地域密着型、さらにバイヤーが中心になって商品を選択する百貨店型の商品展開ではなく、より生活者の視点で選んだ専門店を集合させる専門店街型などへの展開が進められています。
専門店街に関してもこれまでのように画一化された同じブランドを揃えるのではなく、個性があり地域住民に支持される小型店舗も含めた「商店街型」の店舗選択を行っているように思えます。
東京ミッドタウンの日比谷店には地元で小規模店舗を営んできた老舗の店舗をそのままモールの中に再現したエリアがあります。
「地域貢献」という言い方が正しいか分かりませんが地域と密着した店舗の誘致なども進めているようです。同じように地域物産や商品を取り上げる事業は良品生活(無印良品)でも行われています。スターバックスにおいても小規模店舗や地域貢献型の活動をされています。
これらの企業の地域貢献活動はどの店舗でもしているというわけではありません。
地域の核となる旗艦店を将来有望な副都心やベッドタウンを選んで出店しているようです。
このような状況はエンドユーザーの生活パターンの変化による部分が多いと考えています。地域ごとのコンビニエンスストアが徒歩圏内にありほとんどの生活用品がコンビニで手に入る状況で、以前のように遠くのスーパーマーケットやモールに買い出しに出かける必要がなく、それ以前に車が収入に比べて高級品となり所有率が減っていることも重ねて、人々は嗜好品や食品の購買のために居住地から遠くへ移動することが少なくなっていること。そのために居住地の近隣を行動エリアとして購買活動をするようになったと考えられます。
つまり居住地であるベッドタウンや衛星都市内での購買行動が主体となっており、生活に必要な商品を扱っている小型の専門店はそれぞれの商圏に出店する必要が出てきたということです。
個別の商圏に出店することによって、その地域に店舗を馴染ませるためにより地域貢献型の事業を取り入れリピーターの確保をする必要が出てきたということではないでしょうか?

●マーケットの将来を予測する

前述したように大都市圏は空洞化が進み、その商圏での購買行動は冷え込んでいます。市場が提供しているサービスとユーザーが求めているサービスにズレが生じているとも言えます。またユーザーそのものが以前のユーザーとは質が変化しているとも言えます。
サービスのズレには様々な側面がありますが、購買行動を起こす時間帯に関しては
以前と比べて現在は多くのユーザーは都市圏から住居圏に帰宅する時間が早くなっています。以前は残業が終わって街に繰り出すのは19時を過ぎてからでした。しかし現在では残業をすることが減り18時を過ぎると一斉に人々は移動を始めます。
以前は19時を過ぎると大人数で居酒屋などに立ち寄り皆で歓談しながら長時間飲食をして、21時を過ぎても飲食店は賑わっていました。
しかし現在では居酒屋に立ち寄るのは少人数であり、しかも20時を過ぎるとこぞって帰路に向かいます。家庭での時間を尊重して会社の同僚との時間よりも自分自身や家族との時間の方が大切に感じているということです。
コロナ禍が過ぎて飲食客が戻ると信じていた飲食店にとっては肩透かしを食らったような状況になっています。
インバウンド客は日本文化の体験の場である居酒屋を目指して押し寄せると思っていたかもしれませんが、多くはコンビニでお弁当を買い込んで食事にそれほどお金をかけなくなっています。爆買いで転売をして利益を得ていたインバウンド客もこれまでのような勢いをなくし、いずれにせよインバウンド客で潤っているのは地方の観光地が中心となっています。

都市のの空洞化はコロナ禍で止まっていた都市圏の再開発事業の再開でさらに激しく進んでいます。再開発事業の多くは都市の中心部ではなく、中心部に隣接した周辺部で行われています。これまで老朽化した中心街ではなく隣接した地域に新しい都市機能を移転させようとしていると考えられます。
ただしその再開発の過程で旧市街地に集中していた人の流れは分散し、新しい市街地が機能するまで顧客層の引っ張り合いをしています。

このような状況が今後も続くのだろうかと考えると、新しい都市圏が出現し、リモートでの仕事が減少するにつれて再び変化し始めると考えられます。
つまり環境の変化に人が順応することによって次々とマーケットが変化を続けているということです。同じマーケットが半年後には変貌を遂げているのは必然となっています。
巨大企業であればあるほどこの変化のスピードについていけなくなっているのではないでしょうか?
リモートなどの導入は大企業での時間や効率性のロスを大きく軽減しました。しかし逆にそれぞれの人の順応性によって効率性が変化し、これまでの人材の能力の査定方法では測れない部分が多くなってきているのも事実です。
また、リモートであるが故の非効率性もわかってきています。つまり会話の中のいわゆる「シズル感」などの細やかで微妙なニュアンスはリモートでは伝わりにくく、さらにそれぞれのパーソナリティーや感情は伝わりにくいという点です。
端的に方法論や構造、分析などの数値化されやすいデータはリモートである方が伝えやすく、複数人が参加する会議などと比べると情報の分散は起こりにくく、複数人でありながら一対一のコミュニケーションも同時に成立するという点では個々のアイデアを理解しやすくなります。
それでも、一度の会議で得られる情報量はリアルな対面式のミーティングや面談の方がはるかに多いことも確かです。しかし、大人数の会議では意見の集約が難しく結論を導くのに時間が必要で効率性に欠けるとも言えます。

今後はコミュニケーションの内容や傾向によってリモートとリアルなコミュニケーションは使い分けられると考えられますし、距離の離れた人同士が会話したりミーティングするにはリモートは欠かせなくなるでしょう。

都市部とベッドタウンなど衛星部でも同じような使い分けが起こるに違いありません。これらの仕事の取り組み方と就業時間の変化はマーケットにも大きな変化をもたらします。利便性を追求し効率性を求める人のためのマーケットと、暮らし方や人生での意味を優先しライフスタイルを追求するためのマーケットの二つに分かれてゆくのではないでしょうか?

●規模の原理の終焉

テスラに続き中国BYD社がEV車を投入してきました。
テスラのEV車はすでに翳りを見せ始めています。市場に先行して商品を投入し全体のシェアを奪うことが事業を成功させる要であり、大量の商品を販売することにより生産効率が上がり減価率が下がり利益を生み出す好循環が可能になるとどの企業も信じてきました。
しかし、商品の多様性が求められる現在、本当にシェアを奪い大量生産することが効率性を上げるのでしょうか?例えば大手酒造メーカーが投入してきたビール類は発泡酒にシェアを奪われ、その発泡酒も地域ごとのクラフトビールにシェアを奪われつつあります。特にクラフトビールの台頭はユーザーの細やかなニーズを汲み取りその嗜好性の細分化に応じた展開でシェアを伸ばしてきました。
「クラフトビール」という大きな括りでは全体のシェアを伸ばしているように見えますが、個別のクラフトビールの種類ごとに見れば小さなシェアを寄せ集めることで大きなシェアになっているように見て取れます。
企業の規模が大きければ大きいほどその巨体を維持するためには大きなシェアを必要とします。主力商品数種でシェアを維持できれば確かに生産効率も利益を上げていくことが出来ますがユーザーの嗜好性が細分化されれば商品の種類は増え、生産効率が下がってしまいます。
例えば安価な商品展開で多くの種類の食事を提供しなくてはならないファミリーレストランでは材料となる主材料の種類をできる限り絞り込み、個々の材料を大量仕入れすることで商品コストを下げ安価な商品提供が可能となっています。
同じ材料を使ってどれだけ多くの種類の商品バリエーションを可能にするかに注力して利益を生み出していると言えます。

●「品質」は「ステイタス」だけとは限らない

マーケットに変化が現れているのは、現在はインフレの影響で消費者の財布の紐が硬くなり商品単価の低い商品の販売力が上がっているように見えますが、消費者の行動をよく見ていると安価でそれなりの品質の商品の購買行動と品質が高く価格帯も高い商品の購買行動の二つのパターンに分かれつつあるように見受けられます。
かつて高級な品質を揃えていた百貨店でさえも自社ブランドよりも専門店の導入に頼った経営に変化しつつあり、以前のように高価な高級ブランドは売れなくなりつつあると考えています。
しかし「品質」と「高級感」は別のものであることに気が付いていません。
「品質」という言葉の中には「機能性」や「目的への合致性」、さらに暮らしの中での「必要性」「信頼性」など様々な要素が含まれていることを忘れているようです。今、顧客が求めている「品質」とは何なのか?さらにその「品質」に対して料金を支払うだけの価値があるのか?ということを考えながら顧客は購買しているように見えます。かつての「ステイタス」の意味は大きく変わりつつあるようです。
かつては
「ファッション性」>「機能性」だったものが
「機能性」>「ファッション性」に変化しつつあります。
もちろんファッション性がおざなりになったわけではありません。海外からのインバウンド客は日本の服の「ファッション性」と「機能性」のどちらも評価しています。海外のインバウンド客にとっては日本の商品の「ステイタス」はそのどちらも表しています。
しかし日本のブランドの「ステイタス」にはその二つ以外にも「信頼性」や「安全性」などの要素が加わっているのです。

ただし、百貨店などの顧客はこれまでのような「ゴージャス」さや「煌びやか」な商品ではなく、より高い「品質」「安全性」とともにその商品の背景にある「物語性」や「思想」といったものに惹かれているように見えます。これからはその商品の裏側に隠された「物語性」や「思想」がブランドを作ってゆくと考えられます。

●催事から直営へ

私たちの事業は最初地域密着型の固定店舗から始まりました。
しかし、地域マーケットと提供する商品やサービスの間にズレがあり長い間売上が伸びず苦労しました。
私たちがマーケットに出向いてゆく「催事出店型」に変えることで売り上げを伸ばし事業は好転しましたが、コロナ禍を挟んで市場全体が変容し催事場の立地や周辺マーケットは以前とは大きく変化し、以前好調だった催事場でも売上は伸びず、逆に以前は注目されていなかったマーケットで売上が伸び始めるなど大きな変化が始まりました。
駅ナカ催事では基本ハブ駅と呼ばれる各方面への乗換えをする起点となる駅にPOP UP SHOPが設置されていることが多いようです。
コロナ禍前は景気は好調で人々は馬車馬のように働き、残業をしていて、家族にお菓子を買う時間も少なく、百貨店や量販店に立ち寄る暇がなく駅ナカで購入することが多かったのですが、コロナ禍によって人々は全体としての仕事が減り、家族と暮らす時間が増えました。また時間の余裕を自分のために使うことが増え、駅ナカはマーケットしては必要性が薄れたのです。
私たちは当初駅ナカで順調に売り上げを伸ばしてきましたが、現在は駅ナカは販売するためのマーケットしては弱くなっています。

ただ、催事出店を重ねてゆくうちにその地域のマーケットと自分たちの提供するサービスや商品との親和性がとても大切であると気づき始めました。
自分たちのサービスや商品との親和性や地域のユーザーのニーズの合致が今後は必要になってきます。

私たちは今後地域マーケットに入り込み直営の固定店舗を作ってゆくことを目指しています。自分たちのブランドと親和性の強い地域に店舗を持つことが自社の事業の発展に必要であると考えたからです。
その理由の一つは変動の大きな催事出店型の事業よりもより安定した経営を行うためというのが一番大きな理由です。もちろん安定した経営を行うためには地域マーケットとの親和度が大きくリピーターを確保できることが重要です。
そのために周辺マーケットの調査は需要であると言えます。

地域の親和性の高いマーケットでの直営固定店舗にももちろんリスクはあります。それは出店当初親和性の高い地域マーケットであってもいずれは変化し、親和性が損なわれる可能性があるということです。
例えば地域住人の高齢化や交通などのインフラの急激な変化によって地域の価値が低下すること、地域の発展性を阻害するような環境の変化などが問題となります。
マーケットは時代や状況によって容易に変化し、移動することを念頭に置かなくてはなりません。
しかし、安定している期間で投資した資本を回収できるのであれば、素早くそれを読み取り次のマーケットに移動し、そのマーケットに対して親和性の強いブランドを投入することで事業を継続発展させることはできます。 
直営固定店舗は必ずしも永久に固定させるものではなく、約5年を目処にマーケットの状況を確認し、親和性が薄れているのであれば事業そのものを見直しながら経営をしてゆく必要性があります。
そのために、直営固定店舗は一店舗のみで展開するよりも地域マーケットごとに数店舗を展開しリスクを分散しておくことが経営の安定につながると考えられます。

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