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荒川静香さん
前に伊藤みどりさん、佐藤有香さんという二人のフィギュアスケート世界女王について書いたので、今日は荒川静香さんについて書いてみます。
元々自分は荒川さんのことを特に応援している…という感じではなく、どちらかと言うとライバルと見なされていた村主章枝さんのファンでした。
佐藤有香さんが1994年に世界選手権で優勝したのち、日本からはしばらくの間、なかなか目立つ選手が出てこなかったように記憶しています。
村主さんらの活躍で徐々に日本の選手の活躍が目を引くようになってきたその頃・・・丁度有香さんが優勝してから10年後の2004年、殆どノーマークだったとも言って良い荒川さんがいきなり世界チャンピオンになりました。
(⬆2004年 世界選手権でのフリー「トゥーランドット」解説:八木沼純子)
この時の曲は、二年後のトリノ五輪で滑ったフリーと同じ「トゥーランドット」ですが、演技内容や音楽の編集はまるで異なります。トリノ五輪の時の演技と比べて、こちらは荒川さんの出来ることを全て出し切ったパーフェクトな演技だったと思います。技術点で満点の6.0が出ているのが凄い!!
しかしこの時のパーフェクトな演技を目にしても尚、自分は村主ファンであることに変わりはなかったのですが、優勝後のインタビューを目にして、受け答えは荒川さんが一番しっかりしているなぁ…って感心したことを覚えています。
(⬆世界選手権優勝後のインタビュー)
荒川さんの演技に惹かれるようになったのは、翌シーズンのショートプログラム「マダム・バタフライ」を観てからでした。
(⬆2004年 NHK杯 ショートプログラム「マダム・バタフライ」解説:佐藤有香)
世界チャンピオンになった翌シーズンの成績は振るわなかったのですが (世界選手権9位だったと思います) 、五輪シーズンに当たる、翌2005~06年シーズンは最初から彼女の目の色が違っていました。そのシーズンのグランプリシリーズ、フランスでのエリック・ボンパール杯でのフリーを観て目が釘付けになりました。「今季は絶対荒川さんだ!!!!」。勿論、世界の選手の中にあって荒川さんがどこまで行けるかは分かりませんでしたが、日本の選手の中では断然荒川さんだ!!!! 彼女のスケートを見て無条件にそう思いました。
(2005年 エリック・ボンパール フリー「幻想即興曲」)
この切れ目なく続いていく音楽はインパクト大だしカッコイイし、力の漲った素晴らしいプログラムだと思いました。五十嵐文男さんなども「技の配置がとても良い」とベタ褒めでしたし、「そもそもこれはオリンピックチャンピオンを目指す為のプログラムだ」と言っておられたことが印象に残っています。
普通、演技時間の長いフリーは三部構成などにして緩急を付けるのが当たり前ですけど、この時のこの音楽は最初から最後まで調子を変えることなくエンディングを迎える。何か技を失敗をした場合には気持ちを切り替えることが難しいだろうなぁ…と感じました。コーチのタチアナ・タラソワは「これは絶対にショートプログラム向きだ」と当初は言っていたそうですが、荒川さんの強い希望により、「Shizuka がそこまで言うなら…」ということで、フリーとして使うことが決まったそうです。
このシーズンの荒川さんは、オリンピックまでにできることは全てしよう…という姿勢だったのだと思いますが、試合ごとに技の細部に変更を加えて新採点法に対処していき、結果的にコーチも変え、音楽も五輪直前と言える時期にショート・フリー共に変えました。
変えた…とは言っても、ショートはフリーで使っていた「幻想即興曲」を短くカットしたものを使用。
フリーは2004年に世界チャンピオンへと導いた曲「トゥーランドット」を持ってきました。音楽こそ変わったものの、演技内容・構成は曲の変更前と基本的には全く同じ…という離れ技。変更前と変更後のビデオを二つ並べて同時に再生したら、どちらも全く同じことをしていることが解ります。つまりは演技要素に合わせて音楽を編集した…という形で、これは間違いなくニコライ・モロゾフコーチの手腕です。
有力選手の集まった試合ばかりに派遣されて順位的には結果が出ず、ファイナルに進めなかった荒川さんは、逆にその空いた時間を有効に使い、着々と力を溜めていきました。
いよいよトリノ五輪の代表の決まる全日本選手権は実際にリンクで観戦しましたが、本当に凄い試合だったなぁ…と今でも思います。
無事に五輪代表が決まり、あとは本番の舞台を迎えるだけ…となりました。
(⬆トリノ五輪/公式練習)
合間に3--3--3もやっている!!
(⬆トリノ五輪/公式練習)
(⬆2006年 トリノ五輪 フリー「トゥーランドット」)
この大会は、五輪としては初めて「新採点法」の導入された試合で、各選手、対応に苦労したシーズンだったと思います。
うちの職場の上司などは、荒川さんの五輪金メダルを「運が良くて取れた」ものだと認識していて本当に腹が立つのですが、荒川さんはそれまでやったことのないビールマン・スピンを初めて取り入れ、レベル認定の貰えるようスピンやステップ、スパイラルに改良を続け、新採点法に見事に対応しました。それがあってこその結果だったと思います。又この時点ではまだ新しいルールに不備があり、ジャンプの回転不足が少しでもあると非常に損をすることになっていました (3回転に挑んだとしても2回転として見なされ、更にそこから減点)。荒川さんがこの試合で3回転+3回転を一度もやらなかった理由はそれで、「このジャンプの着氷ではあとに付ける3回転が回り切れない」というその場での適格な判断から無理をしなかった訳で、消極的な姿勢によって挑まなかったのではありません。新しい採点法の特徴を頭に叩き込んだ上で試合に臨めたことが最大の勝因だったのではないでしょうか ── 。
日本から、そしてアジアから初めてのフィギュアスケート、五輪での金メダル。
信じられないような思いで見つめたあの時の感激を忘れることはできません。
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