カウコンが放送されなかった年末年始

おせちは買ってくる家で育った。
買ってくるとはいっても、百貨店のお重を買うような裕福な家ではなかった。買ってくるのは、いくつかのメジャーな縁起のよい食べ物の詰合せ程度のものだったが、それらを家で作っているところを見たり、手伝ったりした記憶はない。
母の作るお雑煮と買ってきたおせちが、我が家のお正月の基本メニューだった。

しかし、ここ数年のお正月、わたしは煮しめを作っている。ここ数年というか、ジャニーズカウントダウンコンサートが放送されなかった、2014~2015年のお正月から、毎年、煮しめを作っている。

2014年12月31日、地元を離れて暮らすわたしの家に、友人が泊まりにきてくれることになっていた。
ちょうどその頃、思い出すと笑えるほどわたしの実家は「家庭崩壊」していた。地元に帰ったところで、駐車場のひろいコンビニや24時間営業のマックの地下席くらいしか居場所はなく、わたしは帰省しないことにしたのだ。
それを心配した友人が、わざわざ、はるばる、わたしの狭くて暗い部屋に、きてくれることになっていた。

友人は「ごちそうを買っていくよ!」と言っていた。詰合せ程度のスーパーのおせちではなくて、途中で百貨店によってお寿司を買ってきてくれるらしい。それに見合うだけのものを用意できる自信はなかったけれど、わたしのために遠くまできてくれる友人のために、なにか用意しなくてはと思い、近所のスーパーに向かった。

まず、きのこのしぐれ煮を作った。年越しそばにトッピングがないのは悲しいので、しぐれ煮をのせたきのこそばを作ることにした。すこしでも緑を添えられるように、小松菜もゆでた。切るだけでそれっぽくなることを期待して、紅白のかまぼこも用意した。さつまいもをふかして、栗なしのきんとんも作った。

それと、こんにゃく・れんこん・にんじんで、煮しめを作った(里芋は処理の仕方がわからなかったので、買わなかった)。
母のお雑煮の味は覚えている。しかし、その頃のわたしは、母の味を毛嫌いしていた。色々あって実家に帰らないのに、実家で食べていた味を再現することほど、惨めなことはないように思われた。
だから、実家では一度も食べたことのない煮しめをあえて作って、友人と一緒に食べたいと思ったのだ。

友人は約束通り、ごちそうを買ってきてくれた。ごちそうと、きのこそばを食べながら紅白歌合戦を見て、その年にあった色々なことを話して、笑いあった。
紅白が終わっても、ふたりとも楽しみにしていたジャニーズカウントダウンコンサートの放送はなかった。
「放映権が高くて買えなかったらしいよ」と友人が言っていたけれど、本当のところどういう事情なのかは、いまだに分からない。「来年はカウコン放送されるといいね、一緒にみたいね」と言ってくれた優しさに、布団にはいってから、すこし、枕を濡らした。

年が改まって、1月1日の朝に出した煮しめを、友人は「おいしい」と言ってくれた。
それ以来、ここ数年のお正月、わたしは煮しめを作っている。