クソガキだった君たちへ

「アスノヨゾラ哨戒班」というボーカロイドの楽曲がある。

有名な楽曲だ、と思う。なぜならばボカロ曲にまったく明るくない私が知っているからだ。
この曲にHiHi Jets(ジャニーズJr.)がダンスの振りをつけ、パフォーマンスを披露する企画が、2022年10月29日(土)放送の「裸の少年」で放送された。

クソガキだった君たちへ


上述のパフォーマンスをみたとき、私は2019年の夏を思い出した。
その夏は、古参ファンではない私が初めて経験したHiHi Jetの夏で、スノストデビュー発表があった夏で、ジャニーさんが亡くなってはじめて迎える夏で、世界的にはコロナ禍前の最後の夏で、東京オリンピックが2021年に延期されることを誰も考えていなかった夏で、思い返すと、とても不思議な夏だったような気がする。

あの夏のこと。HiHi Jetsのファンはなぜか「世界一Hiレベルな女」と当人たちに名づけられていたこと、ぎゅうぎゅうに密なEXシアターの地下でペンライトを手にそれを叫んでいたこと、最終公演の部分配信で「攻めた」ハッシュタグがトレンド1位になったこと、私はその盛り上がりにウキウキしながら家で冬瓜を煮ていたこと。
2022年の今、正式なファンネームは「H・A・F」で、もうあの若気の至り切ったような名づけも、現場での声出しも、「攻めた」ハッシュタグもすべて過去のものになってしまっていると、思う。
それは、3年の時の経過がそうさせたのだろうし、3年で彼らもずいぶんとしっかり心身ともに大きくなり、私も同じだけ歳を取った。

戻りたいか戻りたくないかはさておき、過去には戻ることはできない。
けれども、「アスノヨゾラ哨戒班」でパフォーマンスするHiHi Jetsを見た時、意識だけタイムスリップしたように、あの夏に浸ってしまった。
それは、「気分次第です僕は敵を選んで戦う少年」という出だしの歌詞が持つ聞き手を引き込む力なのかもしれないし、サビのパフォーマンスの構成が「HiHi Jets」(楽曲)をひな形に作られていたせいかもしれないし、それぞれの考える正解が姿形から明らかなはしみず・ダイヤモンドのゆうぴ・ギラギラと何かに飢えているような猪狩さん・精確な美しさの作間くん。この5人を合わせてHiHi Jets、という彼らのオーソドックスな形が徹底されていたからかもしれない。

あるいは、これらすべての要素の不思議な化学反応だったのかもしれない。いろいろ考えてみたけど、結局最後は理屈じゃあないんだよな、と思う。記憶の深いところにいた、クソガキ(愛をこめて、あの夏の彼らをこう呼びたい)だった5人の姿が、無理やり呼び覚まされてしまった。

2022年の夏、2019年の夏ぶりにHiHi Jetsの夏の現場にお邪魔した。相変わらずHiHi Jetsは面白くて、推進力に満ちていて、もう全然なにも心配いらないな、というSpring Paradiseで感じたのと同じ感想を抱いた。すっかり青年になった5人、頼もしいったらありゃしなかった。

でも、2019年の夏を思い出してしまった今の私は、本当にちょっとだけ、彼らの実力がギリギリ及ばないような、そんな仕事をさせてあげたいな、と思っている。
TDCホールの空気を御することは、もうHiHi Jetsにはさほど難しいことではないように思われる。あの夏のHiHi Jetには、EXシアターを自分たちの持てるいっぱいの力で何とかコントロールして、ヒリヒリするような、そんな雰囲気があった。あの頃とこの夏を比べた時、会場に満ちている彼らのエンターテインメントの力は余裕があり、会場の隅々まで行き届いていた。アリーナクラスのコンサートの経験が大きかったのだと思う。

すくすく成長してどんどん大きくなっていくアイドル、HiHi Jets。
でもちょっと、今はあの夏にひたってしまっているから、このままの気持ちでいたいと思う。

クソガキだった君たちへ。お元気でお過ごしですか。
あの夏から3年が経って、HiHi Jetsはまだしっかり5人です。あの夏よりもっと大きな会場で単独コンサートもやれているし、ローラースケートもますます上手になって、テレビや映画のお仕事も増えたけど、君たちが言うところの「伝説」への道程はまだまだ長いと思います。
サマパラで話していた全国ツアー、ぜひ実現して、全国、ゆくゆくは全世界をHiHi Jetsの虜にしちゃってほしいです。次の新年も、ありがたいことに帝国劇場のお仕事が決まったから、今すぐのことではないかもしれないけれど。ただ、ひょっとすると今も、君たちの間では私たちの知らないもっと大きな野望が語られているのかもしれませんね。
あの夏の、刹那的だったり、ほんの少し退廃的だったり、どこかが不安定で「私が信じてあげなくちゃ」と思わせるような雰囲気すら、全てぺろっと平らげて血肉にして、青年になった君たちの歩みを信じているし、君たちのエンターテインメントの力のことは、もっともっと信じています。
これまでアイドルとして、ステージに立ち続けてくれてありがとう。これからも、ステージの上の君たちに時々会いたいです。