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作業中の集中力を超えて「おっ」となった曲10選6月1週

誰もが「さてはコイツ…飽きたな…?」と思っていることでしょう。奇跡の更新三回目です。違うんです。頭の中では毎週更新してるんです。こうして文字にしないと人に伝達できない人間の構造の問題なんです。私達は言葉を使っているのか言葉に使われているのか、言ってんのか言わされてんのか。そんな自問自答を胸に今日もやっていきましょう。それでは6月1週に集中力を突き抜けてきた10曲です。

■A Long Dream/SE SO NEON

韓国のバンドでセソニョンと読むらしいです。ちょっと信じられないくらい衝撃的にカッコいいです。既に何回か来日してYogee New Wavesと回ったりしてるのでインディ界隈では話題のバンドみたいなのですが、友達がいないので…知らなかった…

どの曲も色んな引き出しがあってとてもカッコいいなと思うんですけどこの「A Long Dream」という曲が個人的にめちゃくちゃ気に入ってまして、抑揚の効いた極めてシンプルだけど美しいイントロを抜けて30秒から始まる歌唱の「メロディ」と「少しだけ掠れたような声」と「韓国語の響き」の組み合わせが絶妙に絶妙で、どこか懐かしいんだけどモダン、新しいんだけど王道という、今自分が求めるポップミュージックが完全な形で鳴らされてて最初に聴いたとき「これ!!!」と思わず叫んでしまいました。サビが簡単な英語なので一緒に歌えるのもサービス心があって好きです。文句なしにオススメです。

■グレープフルーツ/the hatch

この曲も一発KO案件です。最初聴いたときヤバ過ぎて爆笑しました。よく音楽に詳しい人が曲を褒めるときってキックとベースの低音&リズム面から触れるのがセオリーみたいなとこあるじゃないですか?僕が爆笑したのはハイハットとギターです。イントロからめっちゃイライラしてる人の貧乏ゆすりみたいにチキチキチキチキと神経質なハットが鳴らされ「明らかにハッピーな事態にはならない」という予感満点の偏頭痛みたいなギターの断片を経て0:17から始まる死ぬほどクールなフックで鳴らされるギターとハットの「スピード感」と「殺伐さ」たるや。幕末の京都かと。新選組が池田屋に殴りこんだときにこの曲を流したらめちゃくちゃアガると思います。

少し真面目に褒めると、このスピード感溢れるキレッキレの上モノが獲物を狙う蛇のように地を這うベースライン&キックと合わさることで「遅いんだけど速い」っていうある種トラップ以降のビートにもリンクするリズムになっていて、それをベーシックな「バンド」編成の「生演奏」で成立させてるのが恐ろしいなと。おそらくは予算もそんなに無いであろう制作環境でこんな音よう録れたなと。邪悪なんだけどウェットじゃないのも最高ですね。乾いてることが肝心なので。

youtubeに公式のライブ映像があるんですけどやっぱり音響の限界があって言いたい事が伝わらないと思うので、聴ける環境にある方はまず音源から先に可能な限りデカい音で聴いてみてほしいなと思います。そして爆笑した人は友達になってください…

■Like A Child Does/Diane Coffee

イントロの「テレレンテンテ、テンテッテッテーン…」で「あっ好き」ってなったら後はもう全部好きの典型みたいな曲です。キャッチーでちょっと切ないドリーム感(5.7.5)が個人的な性癖なので一発でリスト入りでした。この手の曲はまぁ似たような曲が沢山あるといえばあるので顔になるメインテーマがどれだけキャッチーか勝負なんですけど、この曲はそれ以外にもキラキラ音の配置や裏方を支える音の配置、ボーカルラインの丁寧さ、歌モノ曲としてのベースラインの見事さなど、トータルでしっかり作られてるとてもいい曲だと思います。雨の日の午前中に聴くと雰囲気が出る。

■talking heads/black midi

このnoteでは毎回期待のポストパンク枠を1枠入れてるんですけど(好きなので)このバンドはポストパンク要素以外にもマスロックというよりかはブラジリアンサイケ的な「はい!急に気が狂いました!おはようございます!」みたいなリズムの引き出しがいっぱいあって面白いなということで選びました。個人的にあんまり激しくグシャーってやられると「うん…」ってなっちゃうんですけどこの曲は基本的に「デーデッ、デーデッ」っていう可愛いゾーンと0:31からの急にめっちゃトイレ行きたくなった人っぽいゾーンの2種類で構成されてるのでこの手のサウンドの入門編としてもオススメだと思います。現在ロンドンで大人気だそうです。ロンドンはすごい。

■Kids/Leoniden - Kids

ググってもあんまり情報が見つからなかったんですけどツアー日程を見る限り恐らくドイツの方です(違ったらすいません…)イントロのメロウなR&Bギターにソウルフルな歌声が乗っかって「お、いい感じのR&Bかな?」と思って聴き始めると裏拍のハットが鳴り始めて「あれ?そういうビートの曲だったの?」と曲が進行していって0:46から始まるサビで「こういう曲だったんだ!?」ってなる何か面白い曲です。ポップミュージックのメインストリームじゃない周辺国特有のポップス感というか、身体に馴染んでるUS/UKマナーから見たときの「そうはならんやろ」感が逆に良いというか妙にJPOPっぽい細かい工夫が聴いてて親近感沸きます。日本人サッカー選手がブンデスリーガにそこそこ馴染みやすいのもなんか判る気がする。ドイツポップスはもしかしたら日本人の感性的に金脈なのかもしれない…という学びを得た曲です。音楽的にも普通にカッコいいです。曲の泣き感を加速させる声質がとにかく良いですね。

■Sure/Hatchie 

オーストラリア出身のハッチーさんです。この曲は是非とも目を瞑ってヘッドフォンで聴いてみてほしいんですけどイントロのギターの音の広がりの広大さがもう「オーストラリア!!無限に広がる大地!!大地!!大地!!(偏見)」って感じでさっきのドイツの人がカッチリ作った曲と聴き比べると、お国柄ってやっぱ音楽に反映されるんだな…と感じられてとても面白いです。このどこまでも広がっていくような無限清涼感サウンドに「どんだけ重ねるの?」ってくらい重ねた美しい歌声が溶け合っていく心地よい音像が疲れきった身体に染み渡る風通しの良い一曲です。スケール感。

■タイムマシンに乗るから/cadode

アニソン的なフレーバーをいい具合に消化した今風のトラックが非常にキャッチー。歌メロに当てる言葉選びのセンスが独特で、特にサビの「時間 空間 行間 /鈍感すぎてノーカン~」の一歩間違えたら無残な結果になりかねない押韻をギリギリのところで成立させてる遊び心が抜群に良いなと思って最近よく聴いてます。

ただ今回選んだのには音楽以上に理由がありまして、彼らがインタビューで「現代は色んなものに繋がりすぎて本当の意味で孤独になれないからタイムマシンでどこかに逃げる為の曲(意訳)」と言ってまして。「逆じゃね?」って個人的には思ったんですよね。僕自身は色んなものに必要以上に繋がり過ぎた結果として本来は抱えずに済んだハズの孤独が発生して心やられてる人が多いんだと思ってて。

どっちがどうという話ではなくて「過剰に繋がってるが故に発生する孤独」と「何もかもから断絶されたある種のユートピアとしての孤独」という異なる種類の孤独が2019年の日本に生きてる人間の心にあるという事実に色々と考えさせられたのが非常に面白くて。この差異は音楽以外の色んな局面で発狂せずに生きていくヒントになりそうな気がして「学びをありがとう」という気持ちで選びました。気持ち悪いでしょ?僕は音楽をこうやって都合よく消費しています。フフフ。

■喧騒/odd eyes

で、今一番ポップな話題である「正気」についての話なんですけど。今の日本で正気を失わずに生きていく為の方法って「なりふり構わず全力で逃げる」か「もうほんとマジで本気でキレる」か「助け合う(実現不可)」のどれかだと思うんですよ。その意味でいうと前回の記事で紹介したTempalayの「どうしよう」という曲は「逃げる」方面の最高峰の曲だったと思うんですけど、この曲は「キレる」方面の現代日本の最高峰の録音だと思って選びました。

土石流みたいなイントロを聴いても判るんですけど、この曲の何がヤバいって「これだけ全員ブチキレてるのに誰が何を弾いてるか容易に把握できる」んですよ。つまり正気を失ってないんです。冷静。ジョジョ4部でミスタが冷静に弾を込めて撃ったアレです。発狂せずにちゃんとキレることがどれだけ難しいかは自身の経験やツイッター観察などでよく判ると思うんですけど彼らはそれを楽器演奏とレコーディングという芸術表現で形にしてみせてる訳です。

実際にレコーディングを経験したことがある人間なら判るんですけど、ここまで「キレてる」音を録音するのは本っ当に難しいです。「それっぽい」音は作れます。ただここまで鮮やかにキレてる音を録音するには技術と機材以外に「こういう音を出す。なぜなら俺はキレているから」という自覚と「何に対してキレているのか」という問いがないと絶対に録音できないです。故に音楽は「正気を保つ為の教科書」になり得るんです。西も東もリアルもネットも絶賛発狂中の最中この曲を聴いた瞬間に感じたのはそんなことでした。正気を失って発狂すると何が起きるのかは今日の日本に住んでれば説明する必要もないですよね。

何個か前の曲で「音にお国柄が出る」と書きましたが、現代日本でこのサウンドが録音されたという事がどういう意味を持つのか一考してみるのもまた音楽を楽しむ側面の一つだと思います。もちろん「超絶カッコいいハードコアバンド!やばい!うぉぉおおおおー!!!!」も最高に素敵だと思います。

■鯨工場/Maison book girl

youtubeはリンク制限があるみたいなので貼れませんが検索すればMVあります。

以前に紹介したSOLEILやフィロソフィーのダンスもそうでしたが「メジャーな場所から一歩踏み込んだ、決して売れ線とは言い難い種類の音楽をアイドルという現代の巫女に憑依させて広くマスに挑む」スタイルって面白いなと感じて色々漁っていたんですけど、掘れば掘るほどこのスタイルゲームは結局「どんな音楽を憑依させるか」のセンスに尽きるということに気がつきまして。

一番多かったのは「ロック(的な激しい音)+アイドル」なんですけど、このスタイルは身も蓋も無い言い方すると結局BABYMETAL先輩がすさまじいクオリティでもうやっちゃってるので「メタル」をニューヨーク・ハードコアやグランジやシューゲイザーに代えたところで概念として「もう知ってる」状態なのであんましピンと来ませんでした。

で、もっと無茶苦茶な憑依に挑んでる人たちいないかなと思って見つけたのがこのMaison book girlさんでした。コンセプトは「現代音楽+アイドル」とのことで「無理では?」という懐疑的な気持ちで聴いてみました。

一応spotifyで聴ける曲は一通り聴きまして正直「現代音楽…か?」という思いもないこともないんですけどポエトリーリーディングだったりあんまりポップスでは使われないような音色使いやアレンジだったり「やってやる」という野心が感じられて好感が持てたのと、この鯨工場という曲がシンプルに良かったので選びました。ポップスとしてちゃんとキャッチーな上に音の響きが面白いです。アートワークやファッションもとても好みなのでオススメです。

こういうコンセプト型のミュージシャンは売れていくことで核の部分の認知が広がりやれることがどんどん増えていくと思うので売れてほしいですね。現代音楽とポップスを現実的に折衷させるとなんとなくRPGの音楽っぽくなるという学びもあって良かったです。音楽って面白いですね。

■boudoir/thef16s

最後はもう何も考えずにまったりと横になりながら聞きたいレイドバックポップです。いいですね。こういうダラ~っと出来る音楽特集もやりたいですね。ちなみにこのバンド、インドのバンドだそうです。私達はすごい時代に生きていますね。

…というわけで今週の10曲でした。ここ最近ちょっと信じられない事件が連発してるのを見て色んなことを考えてた時期だったので説教くさい文章が多いなという自覚もあるのですが、まぁ音楽を通じて現実を捉え直すというのもまた音楽の機能の一つだと思うのでたまにはマジレスも良いだろうと色々と書いた次第です。音楽の友達を増やすのが目的なのに余計に友達が減りそうな予感がヒシヒシとしておりますが読んでくださってありがとうございました。毎週更新がんばっていきたいと思います。ではまた!



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