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民法思考力養成14  不動産物権変動      ➀取消➁解除➂取得時効➃相続・遺言等

 今回のテーマの学習は、
前回の「177条の第三者」のYOUTUBE過去動画又はnote記事を学習した後がおすすめです。 

今回も、理解のしやすさに応じて、STEP❶❷❸に分けます。
STEP❶(初級)
 「取消・解除・取得時効完成・遺産分割」後の第三者
STEP❷(中級) 
 「取消・解除・取得時効完成・遺産分割」前の第三者

STEP❸(上級)
 「相続・遺言による承継」後の第三者・差押の場面

STEP❷と❸は、一番下のイメージ・記憶促進ノート(有料記事)で
取り上げます。

では、STEP❶(初級)「取消・解除・取得時効完成」後の第三者から始めます。

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 まずは、土地売却後、取消又は解除がなされた場面を取り上げる。取消後の第三者解除後の第三者と呼ばれる場面である。
 どんな場面かというと、売主が所有する土地を買主に売却して、土地所有権が売主から買主に移転したが、その後、土地の買主が約束した日に売買代金を売主に払わなかったので土地売買契約を売主が解除した場面(又は買主の詐欺・強迫にあった場合又は売主が制限行為能力者として土地を売却した事例で、売主が土地売買契約を取り消した場面)である。下の図を見てイメージを確認してほしいが、この取消又は解除の時点で、土地所有権は、再度売主に復帰する。 

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 では、その後、同じ土地を買主が、さらに第三者に転売した事例が試験には出題される。下の図で、右端に第三者が新たに登場し、この第三者も不完全ながら土地所有権を取得している。この時点で、土地所有権の登記が最初の売買の買主の名義になっている場合、所有権を復帰させた最初の売買の売主も、そして、最後に転売により所有権を取得した第三者(買主)も、ともに不完全な所有権を取得しており、互いに177条の第三者にあたるため、所有権の登記を先に備えた方が確定的に所有権を取得するが、互いに所有権の登記を備えないと、互いに所有権を主張できない状態になっている。そこで、最初に公式を示したように、「○○(取消・解除)後の第三者が登場した場面は登記早い者勝ち」と覚えておけばよい。

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 もう一度上の事例を手厚く説明すると、先に取消した左端の売主は所有権を取り戻したいと考えており、一方で右端の同じ土地の転売を受けた第三者も所有権を取得したいと考えており、互いに不完全な所有権を取得し、所有権争いになってしまう場面である。
 このケースでは、両者の勝敗は、対抗関係として、177条が適用される場面となり、両者ともに登記を備えなければ互いに所有権を主張できないが、どちらか先に所有権の登記を備えた方が確定的に所有権を取得することになる。
 なお、民法改正により、錯誤取消後の第三者についても、○○後の第三者の場面として、177条の登記早い者勝ちで決めるかどうかについて、現時点ではまだ判例もなく通説的見解もはっきりしないが、一部の書籍は177条の登記早い者勝ちで決めるという考えを採用して記載している。
 そこで、万が一本試験で出題されたら、錯誤取消後の第三者について正誤判断をつけずに択一が解けるのなら、他の肢で解答を出し、もし錯誤取消後の第三者も検討せざるを得ない問題の場合は、○○後の第三者の場面として、177条の登記早い者勝ちで解答を出すのがベターと考えている。


 次は、時効取得が絡んだ場面として、時効完成後の第三者と呼ばれる場面を取り上げる。どんな場面かというと、
A所有地について、Bが20年間占有を継続し、取得時効期間が完成したため時効を援用したが、まだ所有権の登記名義はAのままでBは所有権の登記を備えていない。この時点で、Aのもとにあった土地所有権につき、Bが土地所有権を取得している。

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 その後、同じ土地を、AがCに土地を売却したが、所有権の登記名義はまだAのままで、Cは所有権の登記をまだ備えていない。そこで、BもCも不完全ながら土地所有権を取得しており、所有権争いになっている。下の図でイメージを確認してほしい。

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この場合、BCともに、土地所有権を不完全ながら取得しており、所有権争いになる。このケースも、両者の勝敗は、対抗関係として、177条が適用される場面となり、両者ともに登記を備えなければ互いに所有権を主張できないが、どちらか先に所有権の登記を備えた方が確定的に所有権を取得することになる。最初に公式を示したように、「○○(取消・解除・時効完成)後に第三者が登場した場面は登記早い者勝ち」と覚えておけばよい。



 さらに、「〇〇後の第三者」シリーズの最後に、遺産分割がからむ場面として、遺産分割後の第三者を取り上げる。
Aは土地を所有していたが、Aが死亡し、BCの2人が土地を相続した(2人以上が相続することを共同相続と呼び、ここでは相続人はBCの2人だけとする)。相続分はいくつでも問題を解くときの考え方は同じだが、とりあえず民法に定められた法定相続分が2分の1ずつだったとして、BもCもA所有地を、2分の1ずつ相続したものとする。

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その後、相続人全員であるBCが、遺産分割協議をして、民法の定める相続分としてCが土地の持分2分の1を取得できるのだが、CはBに遺産分割で譲ることにしたため、Bは相続当初から有していた土地の持分2分の1に加え、遺産分割により取得した土地持分2分の1を取得したため、結局、元A所有の土地全体を単独所有することになった。Bは土地につき所有権の登記をまだ備えていない。
下の図はそれを示している。

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遺産分割により土地持分2分の1をBに譲ったCは、その同じ土地持分2分の1を、別のD(下の図の右端)に売却した。なお、Dも土地持分2分の1に関する登記を備えていない。

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この場合、当初相続でCが取得した土地持分2分の1については、遺産分割で取得したB(上図の左端)も、また、最後に購入したD(上図の右端)も、不完全ながら取得しており、持分権の争いになっている。このケースも、両者の勝敗は、対抗関係として、177条が適用される場面となり、両者ともに登記を備えなければ互いに所有権(正確には2分の1の持分権)を主張できないが、どちらか先に所有権(正確には2分の1の持分権)の登記を備えた方が確定的に所有権を取得することになる。

 以上まとめると、「○○後の第三者が登場した場合の所有権が争いは、
177条の適用により、先に所有権の登記をした者が勝つ」というシンプルな考えで解答すればよい。ただし、上級編で取り上げる相続放棄後の第三者は例外となるので注意。おおむねあまり頭を使わないでも答えが出るので、ここまでは初級編とした。
 ここまで、
STEP❶(初級)
 「取消・解除・取得時効完成・遺産分割」後の第三者  
を取り上げた。

引き続き、
STEP❷(中級) 
 「取消・解除・取得時効完成・遺産分割」前の第三者
STEP❸(上級)
 「相続・遺言による承継」後の第三者・差押の場面 の解説については、

以下のイメージ・記憶促進ノート(有料記事)で取り上げます。
まずは目次をご覧ください。今回は問題ではなく、解説記事です。

イメージ・記憶促進ノート 不動産物権変動 図解付きで手厚く解説
目次

STEP❷(中級) 
 「取消・解除・取得時効完成・遺産分割」前の第三者
 👨4つの場面(グループ)に分けて問題を解くときの公式を覚えよう!
 👨法改正で「錯誤取消前の第三者」の条文が追加に!
 👨「解除前の第三者」は実務上・学説上一部謎が残っている点に注意!
STEP❸(上級)
 「相続・遺言による承継」後の第三者・差押の場面
 (1)相続放棄後の第三者
 (2)遺贈後の第三者
 (3)「相続させる」遺言による承継後の第三者
 👨「長男Bに甲土地を相続させる」旨の遺言は法改正に注意!

🔴今回の有料記事は、わかりやすく丁寧に解説することを優先したため、正誤問題や記述式問題は用意しておらず、上記目次のテーマについての解説記事となります。事例設定⇨図解⇨手厚い解説の順になっているため、かなりの情報量(長文)となりましたのでご注意ください。上記目次のテーマが苦手な方、法改正部分に自信がない方向けとなります。

ここからは、本文です。


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