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令和5年行政書士試験 行政法記述式分析

本試験お疲れさまでした。
本試験翌日の分析結果ということで速報となりますが、令和5年44問行政法の記述式についての分析結果をお伝えしていきます(令和5年11月13日時点)。

YOUTUBE動画でご覧になりたい方は、下記URLからどうぞ。
https://youtu.be/UxAxlCujO4M

第一印象は、「差止め訴訟」を問うために、わざと差止め訴訟の事例だとはわかりにくい事例設定をしてきたな、と感じました。差止め訴訟を解答させたいのなら、行政公務員の懲戒処分など典型事例はいくつかあるのですが、あえて試験委員は典型事例を使わず、わざわざ処分性が一応問題となる地方議会議員の懲罰議決を出してきましたので、行政法については意図的に難化させてきたと言えます。ただ、後述のとおり、結局、問題文に出題意図をほのめかすヒント(誘導文言)を盛り込んでいるため、誘導にのった受験生は解答にたどりつけたと思います。

早速、私の考える解答例を示します。
私の考える解答例
Y市を被告として、出席停止の懲罰議決の差止め訴訟を提起し、仮の差止めを申し立てる。(41字)
※公式の解答例は、試験センターが、合格発表の日に公表しますので、そちらをご確認ください。

令和5年行政法記述式の解答を作るポイントは4つあり、この4点それぞれに配点がある可能性があります。

ポイント1 かっこ書きの出題意図を読み取れたか
「出席停止の懲罰を回避するための手段(仮の救済手段も含め、行政事件訴訟法に定められているものに限る。)」とあり、
「訴訟選択」だけでなく、「仮の救済」も含めてほしいと解釈するのが一番素直です。

ポイント2 「誰に対してどのような手段」訴訟選択+仮の救済
どのような訴訟を選択するか。今年は、行政事件訴訟法の訴訟選択の思考手順と、問題文の誘導文言から絞り込めます。結論は、差止め訴訟です。

行政事件訴訟法の訴訟選択の思考手順は、まず主観訴訟か客観訴訟かですが、議員が望んでいるのは、出席停止の懲罰議決を回避することであり、自分の利益のために訴えることから、主観訴訟になります。

次に、主観訴訟のうち、処分を(事前・事後に)争いたいのなら抗告訴訟、処分以外を争い、自分の権利・利益・地位を守りたいのかで分ける必要がありますが、この点の仕分けは、行政書士受験用の市販教材には明確にのっていない(予備校のテキストにもおそらく・・・)ため、行政書士受験生にとっては簡単ではなく、現場思考が求められたところです。
  ここで岐路に立たされた受験生は、この地方議会の懲罰議決が、公務員の懲戒処分と同じように感じられた人が少なくないと思われ、そう感じた人は懲罰議決を行政処分と考えて、まだ議決前なので、議決前=処分前と評価し、議決(処分)の差止め訴訟を選択したのではないでしょうか。このように考えた受験生は、正解にたどり着けたわけです。
 他方で、地方議会の議決は、立法機関の活動であり、処分ではないと考えた受験生は、処分を争う場面ではないから、処分以外を争う訴訟として、当事者訴訟を選択した人もいるかもしれません。このような考えも成り立つのではないかとの問題提起は可能ですが、最高裁(最判昭26・4・28)の立場を引用すると、
「通常の場合においては、議会が議決をしても、その議決は外部に対し地方公共団体の行為としての効力を持たず、議決に基いて、執行機関 が行政処分をした場合に、はじめて効力を生ずるのであつて、従つて、議決を直ち に行政処分と言うことはできないのであるが、本訴で当否を争われている議員懲罰の議決は執行機関による行政処分をまたず、直接に効力を生じ、この点において通常の議決とはその性質を異にし、行政処分と何等かわるところはない。従つて 行政事件訴訟特例法の適用にあたつては、懲罰議決はこれを行政処分と解し、これを行う議会は行政庁と解するを相当とする。」と判断していますので、地方議会の懲罰議決は、行政処分と評価する必要があります。
 よって、懲罰議決の前は、処分前ということになり、差止め訴訟が正解となります。

さらに、「行政事件訴訟法」の「仮の救済」を書くよう指示があるので、出題意図が丸見えです。「行政事件訴訟法」から解答する必要があるとの誘導があるため、仮の救済は、取消訴訟とセットで申し立てる執行停止か、義務付け訴訟とセットで申し立てる仮の義務付けか、差止め訴訟とセットで申し立てる仮の差止めか、ということになり、当事者訴訟とセットで申し立てる民事保全法の仮処分は使えません。
この行政事件訴訟法に限るという問題文の誘導から、仮の救済として、民事保全法の仮処分が使えず、芋づる式に、民事保全法の仮処分とセットになる当事者訴訟を訴訟選択できないこともわかります。事例は典型事例ではなかった分、出題者が難しくなりすぎないように、ヒントを入れているため、結局誘導にのれば、訴訟選択は、差止め訴訟で、仮の救済は仮の差止めと判断できます。

ポイント3 誰に対して
これまでの過去問で被告選択をさせる際は、「誰を被告として」と問われていましたが、今年は「誰に対して」と問われましたので、なぜ、「誰を被告として」と書いていないのか、疑問が出た受験生がいたかもしれません。

その理由は、問題作成者目線で考えるとすぐに理解できます。なぜ「誰を被告として」と表現しなかったのかというと、仮の救済も書かせる問題になっているからです。仮の救済を申し立てる場面では、訴訟を提起する場面とは異なるので、被告という言葉を使いません。これまでの過去問は仮の救済を問うことがなかったので、「誰を被告として」と記載すればよかったのですが、今年は、仮の救済も問うことにしたため、被告という用語を使えず(仮の救済では「相手方」という)、訴える際の被告及び仮の救済を申し立てる際の相手方を共通して問える言い回しとして、「誰に対して」と表現するしかなかったのだと思われます。こういう問いかけの表現は、作問者が一番気を遣うところだからです。

では、被告選択は誰になるのでしょうか。
候補としては、市議会か、市となりますが、どちらでしょうか。
この点、理屈からいうと、抗告訴訟の被告は、原則、行政主体ですから、市となります。市議会は、行政主体ではなく、懲罰議決を出す場面に限定していえば、行政庁と同じといえます。前述の判例(最判昭26・4・28)も、地方議会の「懲罰議決はこれを行政処分と解し、これを行う議会は行政庁と解するを相当とする。」と判断しています。
よって、被告選択(仮の救済を申し立てる際の相手方)は、市となります。

ポイント4 何を差止めるのか
結論は、出席停止の懲罰議決を差止めることになります。
差止め訴訟に関しては、何を求めるかという部分の表現はいろいろとバリエーションが実務上も認められる余地があるので、出席停止の懲罰議決を差し止めることが伝わるような内容であれば、多少違う言い回しでも大目に見てくれる可能性が高いですが、大事なことは何を差し止めるのかを、完全に無視することなく、ある程度書いていることに、配点があるのではないかと思われます。理由は、これまでの行政事件訴訟の訴訟選択の出題では、何を求めるかを正解例として盛り込んだ解答例が、試験センターのHPで過去公表されてきたからです。また、実務的にも、行政事件訴訟を提起する場面で、訴訟を提起して「何を求める」かを書かないということはないからです。

ちなみに、実務的には、差止め訴訟では、訴状の請求の趣旨で、
「〇〇は、原告に対し、〇〇法〇〇条に基づく〇〇処分をしてはならない。」と記載します(要件事実マニュアル4:岡口基一)。
本問に当てはめて、行政書士試験用に、45字以内で解答を導くと、

私の考える解答例
Y市を被告として、出席停止の懲罰議決の差止め訴訟を提起し、仮の差止めを申し立てる。(41字)
※「出席停止の懲罰議決」の部分は、行政書士試験では「出席停止処分」と書いても、言いたいことが伝わりますし、この場面では判例によると、議決が処分と評価されるので、大丈夫な気がします。また、仮の差止めは、被告ではなく、相手方という用語を使いますが、45字以内という字数制限の関係もあり、そこまでは行政書士試験の記述では要求していないように思います。

はたして、試験センターはどのような解答例を公表してくるのでしょうか。

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