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行政法21 行政事件訴訟法      狭義の訴えの利益

問1と問2は、YOUTUBE行政法21回と同じ内容で、一番下のイメージ・記憶促進noteは、過去10年未出題の判例の解説や記述式の訓練を積むためのオリジナル問題を掲載しています。

では、出題傾向から入ります。
「狭義の訴えの利益」からは、過去10年で5回出題され、2013年には、記述式出題で正面から問われています。
狭義の訴えの利益については、最初に3つの基本知識を知らないと、みなさんのテキストに多数掲載されている判例を覚えにくい状態になってしまいます。そこで、超基本を確認するためのオリジナル問題1から始めましょう。
試験官から話しかけられている気持ちで真剣に解答してみてください。
問1 次の会話は、訴えの利益に関する教授と学生の会話である。
 学生の回答➀から➂の中で、誤っているものはいくつあるか。
 ※今回は、1個1個問いかけて、1個1個解説していきます。

教授  狭義の訴えの利益とは何ですか?

学生➀ 裁判で処分を取消してもらうことによって、
原告に回復すべき法律上の利益がある場合をいいます。


学生➀の解答 正しい。
簡単にいうと、狭義の訴えの利益は、裁判を維持する実益のこと。学生➀の解答をよく覚えておきましょう。
参考 基本行政法中原茂樹等


教授  狭義の訴えの利益が問題となるのは、どういう場合が多いですか。
 
学生➁ 原告が裁判で取消を求める対象について、処分性がないときです。


学生➁の解答 誤り  
以下、行政法 櫻井敬子・橋本博之から引用。
「訴えの利益が問題になるのは、処分性と原告適格の要件を満たしていても、処分から時間が経過し、事情が変更したことにより、原告側が取消訴訟によって具体的・客観的に回復可能な利益を失うケースが多い。」


教授  処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者にも、訴えの利益があると判断されますが、この点を説明した条文がありますか。

学生➂ 条文はありません。


学生➂の解答 誤り  
行政事件訴訟法9条1項かっこ書に規定あり。 
以下、行政事件訴訟法9条1項かっこ書を引用
9条1項 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
👨最低限、太字の部分の表現が選択肢にあれば、自信を持って〇をうてるようにしつつ、条文もあるということぐらいは、覚えておきましょう。

問1の解答 誤っているものは、学生➁➂の回答の2つ

以上の基本知識3つを踏まえて、問2にチャレンジ!
いずれも過去10年未出題の最高裁判例。行政書士用の市販テキストには載っている場合が多い
問2 狭義の訴えの利益に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつあるか。※肢アの事案は、下に掲載するので参照の上解答すること。
ア 自動車運転免許の効力停止処分を受けた者は、免許の効力停止期間を経
 過し、かつ、右処分の日から無違反・無処分で一年を経過したときは、当
 該処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しない。
イ 自動車等運転免許の取消処分の取消を求める訴訟の継続中、当該運転免
 許証の有効期間が経過した場合でも、その訴えの利益を失われない。
ウ 自動車等運転免許証の有効期間の更新に当たり,一般運転者として扱わ
  れ,優良運転者である旨の記載のない免許証を交付されて更新処分を受け
  た者は,当該更新処分の取消しを求める訴えの利益を有する。 
エ 免職された公務員が、免職処分の取消訴訟係属中に公職の候補者として
 届出をしたため、法律上その職を辞したものとみなされるにいたった
    場合は、訴えの利益は認められない。
オ 代替施設の設置によつて洪水、渇水の危険が解消され、その防止上から
   は保安林の存続の必要性がなくなつたと認められるに至つたときは、洪水
   等の防止上の利益侵害を基礎として保安林指定解除処分取消訴訟の原告適
   格を認められた者の訴えの利益は失われる。
 
 アの【事案】
  福井県警察本部長は、昭和四八年一二月一七日運転者Vに対し自動車運
 転免許の効力を三〇日間停止する旨の処分をしたが、同日免許の効力停止
 期間を二九日短縮した。運転免許停止処分を受けた者は、その処分の日か
 ら満一年間、無違反・無処分で経過した。




問2の解答
誤っているものは、エの1個
ア 正しい  運転免許停止処分取消請求事件(最判昭55年11月25日)
アの「自動車運転免許の効力停止処分を受けた者は、免許の効力停止期間を経過し、かつ、当該処分の日から無違反・無処分で一年を経過したときは、右処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しない」という文章は正しい。【この判例の事案】は以下のとおり。
 福井県警察本部長は、昭和四八年一二月一七日運転者Vに対し自動車運
 転免許の効力を三〇日間停止する旨の処分をしたが、同日免許の効力停止
 期間を二九日短縮した。運転免許停止処分を受けた者は、その処分の日か
 ら満一年間、無違反・無処分で経過した。


イ 正しい  自動車運転免許取消処分の取消請求(最判昭和40年8月2日)
イの「自動車等運転免許の取消処分の取消を求める訴訟の継続中、当該運転免許証の有効期間が経過した場合でも、その訴は利益を失われない」という文章は正しい。
ウ 正しい  優良運転免許証交付等請求事件(最判平21年2月27日)
優良運転免許証交付等請求事件(最判平21年2月27日)
ウの「自動車等運転免許証の有効期間の更新に当たり,一般運転者として扱われ,優良運転者である旨の記載のない免許証を交付されて更新処分を受けた者は,上記記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を否定されたことを理由として,これを回復するため,当該更新処分の取消しを求める訴えの利益を有する。」という文章は正しい。
エ 誤り
エの「免職された公務員が、免職処分の取消訴訟係属中に公職の候補者として届出をしたため、法律上その職を辞したものとみなされるにいたつた場合は、訴えの利益は認められない」という文章は誤り最判昭40年4月28日は、「免職された公務員が、免職処分の取消訴訟係属中に公職の候補者として届出をしたため、法律上その職を辞したしたものとみなされるにいたつた場合においても、行政事件訴訟法第九条のもとでは、当該訴の利益を認めるのが相当である。」とし、判例は訴えの利益を肯定した。
オ 正しい  保安林解除処分取消請求事件 最判昭57年9月9日
オの「代替施設の設置によつて洪水、渇水の危険が解消され、その防止上からは保安林の存続の必要性がなくなつたと認められるに至つたときは、洪水等の防止上の利益侵害を基礎として保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格を認められた者の訴えの利益は失われる。」
👨要は、近くの住民は、洪水の危険に晒されていたので、原告適格肯定したが、途中で代替施設ができて、洪水の危険が解消されたので、訴えの利益が消滅した。

今回も過去10年未出題の有名判例が素材でした。特に運転免許3点セットの最高裁判例について知識がごちゃまぜにならないように理解を深めて整理したい方、さらに、公務員免職処分と保安林解除処分の判例について、記述式の練習をしておきたい方は、以下のnote記事をご活用ください。


まずは、目次をご覧ください。

イメージ・記憶促進ノート  狭義の訴えの利益  有名判例5選
目次
第1 さいしょに 「狭義の訴えの利益とは」「学習の順番」
 1 狭義の訴えの利益とは ~皆さんのテキストには書いていない❓~

 2 狭義の訴えの利益の学習の進め方
第2 狭義の訴えの利益 有名判例5選
  (前半:運転免許判例3点セット、後半:記述式の練習2つの判例)

 1 運転免許停止処分取消請求事件(最判昭55年11月25日)
 【事案】【争点】  
 【争点の結論】  
 【判旨】
  🔴覚え方
  🔴イメージ・記憶促進   計算されない前歴について
  👨以下【計算されない前歴】について具体例を示す(埼玉県警HP)
  👨簡単に言うと
 2 自動車運転免許取消処分の取消請求(最判昭和40年8月2日)
 【事案】【争点】
 【争点に対する結論】 
 【判旨】
  🔵最高裁(最判昭和40年8月2日)の理由をまとめると 
 3 優良運転免許証交付等請求事件(最判平21年2月27日)
 【事案】【争点】
 【争点の結論】
 【判旨】   
  🔴イメージ・記憶促進👨👆ゴールド免許は一般とは違う法律上の地位 
 4 4つ目の判例 記述式問題にチャレンジしよう!
 【問題】
 【記述式問題正解例】
  👨出題意図
 【記述式問題解説】
 【判例解説 免職取消請求事件(最判昭40年4月28日)】
 【事案
 【争点
  👨👆
 5 5つ目の判例 記述式問題にチャレンジしよう!
 【問題】 

 【記述式正解例】
  👨出題意図
 【記述式問題解説】
 【判例解説 
保安林解除処分取消請求事件 最判昭57年9月9日】
 【事案】

 【争点】
 【争点に対する結論】
 【判旨】
  👨👆
第3 さいごに

ここからは本文です。

イメージ・記憶促進ノート  狭義の訴えの利益  有名判例5選
第1 さいしょに 「狭義の訴えの利益とは」「学習の順番」
1 狭義の訴えの利益とは ~皆さんのテキストには書いていない❓~

 売れ筋の市販テキスト3冊(LEC・Wセミナー・伊藤塾)や著名な行政法学者の本(基本行政法中原茂樹、行政法櫻井敬子・橋本博之等)にも、「狭義の訴えの利益」の「狭義の」がついている理由が書いていないので、ここで簡単に説明することにする。

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