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迷宮攻略3:大公家の霊廟

 ここまで戦ってきた冒険者たちは、薄々勘付いていたはずです。

 このオード領は何かがおかしい。
 本当に魔人エイドゥは打ち倒されるべき邪悪なのか。

 しかし、魔人と呼ばれた男と冒険者たちが初めて向き合ったとき、彼は話し合う姿勢を見せず問答無用で戦いを挑んできました。
 近衛兵となり軍の斥候として迷宮を探索してきた冒険者たちは、立場的にも状況的にも、彼と戦うより他に手段はありませんでした。
 わずかでも躊躇えばエイドゥの振るう剣で切り裂かれ、工夫を凝らした石弩の矢で射貫かれる。そうして一時でも膝をつけば、彼に従うダークエルフの魔法の炎に焼き尽くされるに決まっています。もし逃げようとしても、彼の周囲に控えた忍者たちが行く手を阻む。
 生き残るためには、すべての敵を斃すしかなかったのです。

 どうにか生き残った冒険者たちは、真相の究明に乗り出しました。
 魔人の居所とおぼしき場所からヒントを得て、彼と親しかったであろう人物に目星をつけた冒険者たちは、これまでの疑念が正しかったという確信を得ます。やはり斃すべき邪悪は魔人エイドゥではなかったのだと。
 そして冒険者たちは、救国の英雄として祭り上げられ押しも押されぬ地位を得たことを利用し、かつて立ち入ることを許されなかったオード軍試練場5Fにある〔試練場コントロールセンター〕を目指すのですが……。


試練場B5(TRUE)

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 すでに近衛兵試験のため訪れている場所は暗転させてありますが、その他の場所は試練場を支える莫大な魔力を供給している炉心と関連施設で占められています。
 公式発表によると、この試練場は「魔人エイドゥの騒動で大きな被害を受けた軍を立て直すため」に作られたとされ、オード領の住民はみなそのことを真実と思い込んでいるのですが、実際にはこの試練場はエイドゥが謀反を起こす前からすでに建造されていたという可能性が示唆されます。
 そして、なぜか皆はそのことを忘れてしまっているらしい……。

 とあるネコもどきの台詞によると、近年に「消費税が5%から20%」になるほどの大増税があったそうなので、おそらくはそれが試練場建造の財源だったのでしょう。
 オード領の近隣では長く穏やかな治世が続いており、為政者や軍事関係者の頭を悩ませていたのは獣人騒動が主でした。つまり執政者である大公オーガスⅢ世は、まったく平和だったにもかかわらず莫大な血税を注ぎ込み、あきらかに過剰な練兵施設を作り出したことになる。いくらなんでもやりすぎです。狂王トレボーもそこまで無茶はやってねえ。

 普通に考えれば、オード領内で暴動が起こって内戦状態になりかねません。大帝や教皇の権限で領土を召し上げられたのち、大公オーガスⅢ世は責任を問われて断頭台にかけられてもおかしくない。そうでなくとも、税を納められず収監された者、会社が潰れて路頭に迷った者、無理心中した家族や首を吊った市民……悪政の犠牲となった被害者が大勢いたはずです。
 そういやこの城塞都市の武器商店、商人がやってるんじゃなくて公営の交易所なんだよね。だからゴールドカードとかセンチュリオンカードとか平気でポンポン出せるわけか……。はっはーん。なるほどそういうことかー!

 冗談じゃねえぞ大公オーガスⅢ世! てめえが一番悪党じゃねえか!!!!

 そんな正義の怒りに燃える冒険者たちの前に立ち塞がるのは、大公直属だという「真の近衛兵」を名乗る機械仕掛けの兵隊たち。
 妙に硬くて手こずりますが、こんなのに後れを取るようなら〔混沌の魔窟〕ではとうてい生き残れません。作り物ふぜいがでけえツラすんじゃねえや畜生め。救国の英雄に祭り上げられたのはダテじゃねえぞってところを見せてやりましょう!
 そして、コントロールセンターの中にあるのは4つの動力炉。炎の精霊が召喚されて縛り付けられ、ただただ魔力を搾り取られる拷問装置も同然の代物でした。こんな仕組みならそりゃ試練場の魔力供給も不安定になりますわな。苦しみの中で正気を失った精霊たちを解き放とうとするなら、もはや穏やかな死を与えてやるより他にありません。
 ただし、もし本当にそんなことをすれば、試練場の魔力供給が滞って大変なことになる。完全に軍への背信行為。反逆罪に等しい大罪です。

 わかっちゃいるけどもはや知ったこっちゃねえ!

 善の戒律の冒険者たちは、正義の怒りに燃えてノンストップに違いありません。悪の戒律の冒険者にとっても、自分たちを騙し続けてコケにした大公に対しもはや忠誠心など微塵もない。

 やっちゃえやっちゃえ! そーれそれそれ思い切りブッ壊せー!!!!
 

大公家の霊廟3

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 調子に乗って驀進していたらえらいところに閉じ込められてしまった。

 試練場のさらにその下には巨大な地下空間があり、そこには三層構造のピラミッドがそびえ立っていました。
 冒険者たちの真意を汲んで味方をしてくれた聖猫バステトによると、ここは大公家とその家臣たちの墓所なのだとか。
 ピラミッドはそれ自体が魔法装置として機能しますが、どうやらこれがオード領の住民に対して作用する呪いの原因らしく、大公オーガスⅠ世が定めた軍事政策に誰も口出しできなくなる理由だったようです。

 そう、大公オーガスⅠ世。
 Ⅲ世じゃありません。Ⅰ世。百年近く前とっくに死んだはずの人。

 オーガスⅠ世は生前に悪魔と契約を交わし、死後生まれ変わることが約束されていたようです……ってお前が魔人やったんかい。しかもこのオード領は百年前から一度たりとも執政者が代替わりしていなかったという驚きの事実も明らかになります。
 先代のオーガスⅡ世も、現在のオーガスⅢ世も、「世子」つまり跡継ぎのまま生涯を終えたそうな。表向きのお飾りでしかなかったのです。真の大公であるオーガスⅠ世には逆らえなかったのだ。
 そして、人格者として家臣たちから人望の篤かったオーガスⅢ世は決然とⅠ世に反抗し、あえなく処刑されたことがわかってきます。そんな彼に同調した参謀エイドゥとイスルト妃も、オーガスⅢ世と同じ運命を辿るはずだったのですが……。

 すまんかったオーガスⅢ世。あんたなんも悪くなかったわ。
 

大公家の霊廟2~1(COUNTERFEIT)

にせ

「見つけたぞ……世界の歪みを!」

 冒険者たちがイノベイター純粋種みたいなことを口走ったかどうか定かではありませんが、大公オーガスⅠ世をこの世から駆逐しないことにはカビ臭い霊廟を脱出することすらできません。ていうか、このままだと冒険者たちは国家反逆罪の汚名を着たまま闇から闇へ葬り去られてしまいかねないので、大公とその僕である悪魔を斃し、すべてを白日の下に晒すほかに(身体的な意味でも社会的な意味でも)生き延びる術はないのだった。
 というわけで、冒険者たちはピラミッド上層でふんぞり返るクソ大公を目標としてサーチ&デストロイ開始。見てのとおり大して広くもないので、大公がいそうな場所もすぐに見当がつくでしょう。

 ところが。
 大公の居室へ向かう経路の途中には魔法を封じる厄介な怨霊が居座っており、こいつに呪われたことに気付かないまま最上階の玄室へ突撃すると、一切の呪文が使えない状態でバカでかい悪魔を従えた大公と干戈を交えることになってしまうのです。
 〔五つの試練〕というゲームのシステム面に知悉し、幾多のシナリオをクリアしてきた歴戦の勇士なら「大公の愚か者め貴様の手の内はぜんぶまるっとお見通しだ!」と高らかに笑い飛ばして力業で突破することも可能でしょう。具体的な方法についてはあえて触れずにおきますが、そうでなければ勝算はゼロに等しい。
 腐っても大公、死してなお彼に忠誠を誓う部下は大勢いるようです。ええいまったく、権力者ってやつはほんとめんどくせえな!

 しかし。
 大公に忠誠を誓う者がいれば、大公に反旗を翻す者もいる。
 あなたたち冒険者もそう。オーガスⅢ世もそう。魔人エイドゥやイスルト妃も。さらには貴族、果ては使用人のメイドに至るまで……。

 オーガスⅠ世に運命を狂わされ非業の死を遂げたあとも、復讐する機会を窺っている霊が少なから存在します。
 もしも、彼らや彼女らに味方してもらうことができたなら、狭くて暗い霊廟の光景は一変することでしょう……って、むしろ前より暗くなってなんにも見えなくなるかもしれませんが。
 

大公家の霊廟2~1(TRUE)

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 これが大公家の霊廟の真の姿です。
 霊廟の主である大公オーガスⅠ世は、ある事情でピラミッドの外輪部にあるこれら構造物の存在を知りません。そしてこれは、エイドゥとイスルトの二人が霊廟から脱出した際の逃走路でもあったようです。
 大公を斃さずとも、こっそり街へ帰ることができるというわけ。

 ただ、今の冒険者たちは大罪を犯したお尋ね者なので、フードを目深に被ってこそこそと街へ忍び込むことになるでしょうけどね。

 堂々と街中を歩けるようになるためには、やはり大公オーガスⅠ世を斃すより他になし。まァそもそも逃げ出す気なんて毛頭ないでしょうけど。
 万全の準備を整えて冒険者たちがふたたび霊廟へ戻ったその時、オーガスⅠ世は思い知ることになるでしょう。今日が自らの命運が尽きるその時なのだと。
 暴君め、首を洗って待ってやがれ!

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