モンスター紹介:混沌の魔窟 Part-A
国境線にほど近い渓谷の底にある旧帝国期の巨大遺跡。風雨や川に浸食されて一部が地上に露出している。
地形的に見て障気の溜まり場になりやすく自然に住み着いた魔物も多数いるが、それよりも厄介なのは、旧帝国期に召喚されこの地に縛り付けられた魔法生物や悪魔たちだ。この遺跡が発見されたのは(表向きは)最近のことらしいが、昔から知られていたとしても自ら近付く者はまずいなかっただろう。旧帝国の財宝目当てで忍び込んだ盗賊がいたところで、無事に生きて戻れるとは到底思えない。それほど危険な〔魔窟〕だったのだ。
ただ、この地に足を踏み入れた冒険者たちにとって、魔物と同等かそれよりも警戒すべきなのは魔人エイドゥであり、彼に恭順したかつてのオード軍の精鋭たちだ。
剣呑な化物と屈強な兵たち。試練場とは比べものにならない多種多様な敵に対し、適切に対処しつつより有効な対抗手段を編み出すことができるか。本項がその助けになれば幸いだ。
混沌の魔窟 1F
魔窟のうち地表に出ている部分である。
地形的に瘴気のたまり場になりやすい上、魔窟から上がってくる邪気や魔力で動植物の突然変異が促され、かなり異質な生態系が構築されている。出現する怪物すべてがヒトを襲って食うという悪夢のような場所だが、軍の修練場でじゅうぶんに訓練を積んだ冒険者にとって大半のモンスターは敵ではないだろう。
注意すべきなのは【生態系上位】の「ワイバーン」「ドラゴネア」「マイティオーク」だ。ワイバーンは上位の攻撃呪文で一掃すればいいが、ドラゴネアやマイティオークはそうもいかない。マスターレベル(レベル13)ぎりぎり程度の腕しかなければ、使用する呪文の選択など戦術的失敗が全滅に直結する事態に陥ることも充分にありうる。注意されたし。
なお、ここで唯一登場するヒューマノイドタイプのネザーマン(意:下位の人間)は、厳密に言うとヒトではなく原人に分類される。話してわかる相手ではないので戦うことを躊躇わないように。情けをかけても背後から刺されるだけだ。
混沌の魔窟 B1
いよいよ魔窟の内部に潜入する。
【自生種】は大して怖くない。ダンジョンリーチは「アホか!」というほど大量に湧いてくることがあるがぶっちゃけただのデカいヒルなので、慌てず騒がずサフォケーション:マカニトで一掃すれば済む。
スケアクロウ(意:かかし)は、下層に住まう高度な知性を持つ存在(ブランクステアかソウルトラッパー?)の斥候や偵察兵のような存在だと思われる。藁人形に仮の命を吹き込んだゴーレムで、破壊すること自体は簡単なのだが、手にした大鎌でまれにクリティカル攻撃を発生させてくる。侮りすぎないように。
斥候といえば、ついに【悪魔】も登場し始める。デーモンドッグは魔界の自生種、あるいは現世のイヌ科と何らかの悪魔の間に生まれた混血が繁殖したものだと考えられている。単体での戦闘力こそ大したことはないが、それでも群れで登場してブレスを吐きまくられると一瞬でパーティが壊滅しかねない。かといって強力な呪文をぶつけるには勿体ない相手なので、補助呪文を活用しつつ上手く立ち回ろう。
そして、軍営の試練場では数が限られていた【アンデッド】もいよいよ本格的に登場し始める。スタービングコープス(飢えた死体)はかつてロッティングコープス(腐った死体)とも言われていたが、グール(食人屍)も本質的には腐った死体で同じように人間を襲って食うわけで、混同しがちで紛らわしいのでオード領周辺ではこういう呼称になったようだ。元々は人間らしいが逃げ場のない場所に閉じ込められてやむなく屍肉を食ううちに身体より先に魂が腐ったのだと。割とエグいぞその由来。
なお、ここでは便宜上、同じ冒険者タイプの敵を【魔人エイドゥの配下】としているが、彼ら彼女らは「混沌の魔窟を探索中の同じ冒険者」だという可能性も否定できない。オード軍の近衛兵に興味はないが旧帝国期の遺跡には興味がある、そんな輩もそれなりに存在するからだ。
禅の戒律なら、彼らに敵意がなければ見逃しても構わない。しかし悪の戒律の者にとっては(エイドゥの配下ではないと証明する方法がないため)見逃すとかえって不利益になりかねず殲滅するより他にない。ああ無情。
混沌の魔窟 B2
このあたりから【自生種】の見た目が明らかに病んでくる。
ナイトロゥカストの大群と遭遇したら、肝の据わった女性冒険者でも年相応の乙女のような絶叫を上げること請け合いである。虫嫌いならトラウマ級の相手になりそうだ。英語でLOCUSTとはバッタやセミのことを指し、転じて「むさぼり食う人、破滅的な人」の意を持つ。夜陰にまぎれて接近してくる巨大な食人昆虫といったところなのだろうが、万一こいつらに負けたらどんな風に食われることになるのやら。
また、物陰で用を足していたらカーフバイターに尻肉をかじり取られた可哀相な者もいるとかいないとか。Calfを直訳すると「仔牛」となるが、転じて「不器用な青二才」の意味もあるためおそらくこちらをBite(かじる)と解釈するのが正解だろう。マスターレベル以上の冒険者がこいつに噛み付かれたらいい笑いものになりかねない。きっちり始末すべし。
こうなってくると、いかにもモンスターですという見た目のオーガやオーガロードがむしろ貴重なイケメン枠にすら思えてくる。
まったく気のせいだが。
最後になるが、この辺りの【悪魔】どもを中心として使えるマジックアイテムをちらほらと落とし始める。
魔法も使うしブレスも吐くしと何かと面倒ではあるが、戦力強化とパーティ育成のためにも逃げずにきっちり斃していこう。
混沌の魔窟 B3
この辺りになると、イビルアイやスクライルのような変わり種が増えてくる。この二種の見た目はいかにも魔法生物なのだが、分類としては【アンデッド】だ。魔窟の下層には巨人族が居座っているようなので、その死骸に呪いをかけて番犬代わりに再利用したか、現世に異常な執着があったエレメンタルの目玉が腐って溶け落ちる前に自ら動き出したか、大方そんな感じだろうと思われる。
そんな馬鹿な気持ち悪すぎる生理的に無理、と感じるのは我々が現代人だからであって、スケルトンウォーリアやスケルトンロードが奴隷代わりにコキ使われている姿は冒険者たちもこの階で目にしたはずだ。もしかすると旧帝国期には現代のようなアンデッドへの忌避感は薄かったのかもしれない。ぞっとしない話である。
一方、キメラ、ゴーゴン、ダークライオンのような幻獣が【自生種】として扱われているのは奇妙な話だと感じるかもしれない。本来は岩山などを居に好むので、むしろ1Fに出没するのが自然なのだが。
幻獣は厳密に言うとこの世界の獣ではなく、得物を食うのと同じくらいマナ(魔力)の吸収が身体の維持に必要であるらしい。旧帝国期に興味本位の魔術実験によって誕生させられた哀れなクリーチャーだと言われているが、この階で曲がりなりにも繁殖しながら世代を重ねていたのだとすれば、彼らにとってはそれなりに過ごしやすい場所なのだろう。
注意すべきなのは、「たてがみ」を意味する名を持つメインと、異文明で「太陽の精霊」を意味する名を持つカルキュドラだ。どちらも悪魔としては下級の存在だが、メインは仲間を呼ぶうえに炎のブレスを得意とし、カルキュドラは魔法を操る能力に長けている。互いに得意分野の違う相手が協調しながら群れとなって襲ってくるため、かなり厄介な相手となるだろう。
混沌の魔窟 B4
このフロアは、いわゆる「お城」とその「外周」で遭遇する敵の種別がまったく違うのだが、そうなるに至った理由については本項では省略する。実際に探索した冒険者なら、皆知っているだろうから。
【自生種】の中でも、ユアンティはかなり危険な存在だ。どのくらい危険かというと(鈴木土下座ェ門的な意味で)この世界を揺るがす大問題を誘発しかねない。むしろこれが本家#5にあのビジュアルで平然と出ていたことに驚くのだが、本当に大丈夫なんだろうか。……深く考えず本家を踏襲した自分が言える台詞ではないが。
いささかメタ的になってしまった。本筋に戻ろう。
この階で注目に値するのは「迷宮の美女」と「護りの野獣」だろうか。これは複数の個体を指す種別名ではなく、魔窟にそれぞれ一匹ずつしか存在しないつがいの魔物である。つまり、何度斃しても生き返っているわけだ。
特に迷宮の美女については「旧帝国期に人間を不老不死にする技術が存在していた証なのでは?」と大騒動になったが、その後の調査で幻獣であったことが判明。人間とは程遠いキメラやゴーゴンの同族である。見た目が人間女性そっくりで異常なほど再生能力が強い、というだけだった。残念。
もう一種言及しておきたいのはウェブスピナーか。直訳すると「シロアリモドキ」という実在する虫の名前になるが、もちろん無関係。旧帝国期の魔法実験で誕生した強力なアンデッドであり、素体となった昆虫も実在の種ではない可能性が高い。単体でしか登場しないので対処することは簡単だが、だからといって侮りすぎるとレベルドレインや魔法で手痛い目に遭うことになる。そんな厄介な相手を(体表が白いことと昆虫のような見た目から)「シロアリモドキ」と悪態混じりに呼んでいたようで、それが名称として定着したようだ。
外周に登場する【悪魔】と【魔人エイドゥの配下】についての説明は省略する。純粋に敵として処理すべきだし、それ以外の対処は不可能だろう。
しかし、心身共に鍛え上げられた大勢の手練れが、こうも容易く悪魔たちに取り込まれたのは何故だったのか。
おそらくは、エイドゥとその部下たちが高潔すぎたのだろう。冒険者は定期的に街に戻って鬱憤晴らしもできるが、エイドゥに恭順した部下たちはそうもいかない。自らに課せられた使命を絶対とし、来る日も来る日も魔窟の探索を続けていたはずだ。終わりの見えない戦いの日々に精神も肉体も疲弊したとき、まがい物の安らぎと快楽を提供する悪魔につけ込まれた。
そうして、一人また一人と誘惑に負けていき、気がついた時にはもう手の付けられない有様だった……。そんなところではないだろうか。
考えてみれば、哀れな者たちである。
混沌の魔窟 B5
この階層からとうとう自生種が消える。モンスター名の一覧を見ればそれも納得で、剣呑な魔法生物がウロウロしている場所で生命活動を営みながら繁殖しようとする生き物など存在するはずがない。
ではジャイアントマンティスとスパイダークラブは何か、と言えば、幻獣に片足を突っ込んでいる突然変異の例外である。
どちらも主食が人間だし、こんなところにヤツらの巨体を維持するほど大量の食料が舞い込んでくるはずもない。基本的には魔力と瘴気を糧に生きており、かつて生き物だった名残で娯楽として食事をしているだけらしい。
ヤツらの退屈凌ぎに殺されたらたまったものではない。全力で抵抗して殲滅していこう。
他に補足が必要なものは、【魔法生物】のウィアードとブラッドウィアーだろうか。実際に戦った冒険者でも「なんとなくこんなやつ」程度にしか把握していないのではないだろうか。
まずウィアードだが、カタカナで見ると「ウィザード(魔法使い)」や「ウィード(植物、雑草)」を想像してしまいがちだし、事実、高位の魔法を使ってくるかなり厄介な相手ではある。ただ英単語を見ると「Weird」なわけで、意味するところは「キモい」あるいは「生理的に無理」である。必要以上に怖れることなく蹴散らしていきたいものだ。
ブラッドウィアーは直訳すると「血液の堰」となって意味不明だが、Fish weirとすれば「魚堰」となる。おそらくはこれに引っかけて「冒険者たちの邪魔をする堰/血肉を効率よく集める罠」というような意味を持つのだろう。そう思うとたしかに足がなく、迷宮内をウロウロ歩き回っている訳ではなさそうだ。レベルドレインを食らわないよう待ち伏せに注意して蹴散らしていこう。
【悪魔】の類もこの階から急激にパワーアップしてくる。
レッサーデーモンやイフリートは魔窟の瘴気を味方につけてかなり強力になっているので、しょせんレッサー(劣等種)だ、という意識で戦うととんでもない目に遭うだろう。
イフリートやピットフィーンドは、ゾロゾロと配下を連れてこられた時が厄介だ。前衛の物理攻撃では始末しきれないので魔法に頼るしかないが、悪魔たちは魔法を無力化する抵抗力が高い。ブレイクスクリーン:ノーフィスを有効に使いながら最小の手数で最大の効果を挙げていきたいものである。
もう一つ、この階のヒューマノイドタイプにも言及しておきたい。
彼らも魔人エイドゥの部下で、冒険者から見れば近衛隊の先輩格であったはずなのだが、皆一様に正気を失って外敵を殺戮するだけの傀儡になってしまっている。特にダーククルセイダーはオード領のロード職であった過去など完全に忘れているようだ。
その原因が、実はブランクステアなのだという。
魔法使い呪文と僧侶呪文の双方を巧みに操るだけでなく、物理攻撃は麻痺や石化など状態異常を引き起こし、忍者並みの体術で高速移動し後列まで一気に間合いをつめてくる。そして、どう見ても人間型なのに、なぜか種別しては突然変異の昆虫系に属しているのだ。謎だらけにも程がある。
どうやら彼も「異常に回復力の高い個体」のようだ。旧帝国期の賢者の成れの果てで、自分の身体を実験台にしてさまざまな処置を施した結果、ヒトとは全く違う生命体になってしまい、生命の尊厳を踏みにじり他者を陥れ苦しめることに異常な快楽をおぼえる邪悪な存在になった……ということのようだ。
たとえば、ブラッドウィアーは彼の「作品」だと目される。侵入者の血を抜き殺害、それを本人に戻すことで蘇生させると、狂気に憑かれた傀儡へ変わってしまうらしい。ダーククルセイダーはそうして生まれた元ロードの成れの果てだとか。
同じような目に遭いたくなければ全力で戦うしかないが、今のところブランクステアの「完全な」殺害に成功した冒険者はいない。厄介な話である。
混沌の魔窟 B6
もはや生態系もクソもない。溶岩が噴き上がる活火山の火口付近に棲むファイヤードレイク、北方の凍てついた海に棲むドラゴンフィン、南方の密林に潜むヒドラ。まるで違う世界に棲む生物が同じ場所にいるのはなぜか。
可能性としては「何らかの目的があって遠隔地から召喚した」ということだが、この魔窟には大魔導師ワードナのようなダンジョンマスターはいない。旧帝国期に召喚したものが棲み着いたという可能性も考えられない。
その秘密はソウルトラッパーにある。
分類上やむなく悪魔としているが、ソウルトラッパーは本来、天使に程近い存在だ。旧帝国期の賢者たちがこの世の真理に近付かんと欲した結果、肉体を捨てて精神のみの存在となったのだ(ブランクステアはもしかすると、ソウルトラッパーになりそこねた、あるいは、あえてそうならなかった手合いなのかも)。冒険者たちの前に敵として現れる際の肉体もかりそめのものに過ぎず、複数の個体がおおむね似たような姿をしている理由もそこにある。
「魂を陥れる者」という物騒な名前がついているのは、彼らが世界の均衡や神の意志に沿って、あるいは貪欲なまでの好奇心と知識欲によって、ヒトに試練を与えようとするからだ。すでにヒトの世の尺度から離れて久しい彼らの言動を、我々の矮小な価値観で推し量ることは難しい。できることは「彼らが設定した難関」を全力でもって突破することのみ。
つまり、ファイヤードレイクやドラゴンフィンやヒドラの召喚も彼らの仕業。今の世の中にはない旧帝国期の強力な召喚呪文を行使することで適切に配置されているわけだ。
すなわち、この階層は彼らソウルトラッパーの支配下にあり、フロア全体が何らかの意図で仕組まれた「乗り越えるべき試練」あるいは「冒険者たちを試すための罠」と解釈して差し支えない。
何も知らない側から言わせてもらえば悪意を持って自分たちを罠にハメてマジのガチで殺しにくる厄介な敵以外の何物でもないのだが……恨まれようが嫌われようが、かの賢者たちには些細な問題なのだろう。
混沌の魔窟 B7
旧帝国期の遺構としては、ここが最下層になる。
見ての通り極端に偏った種類のモンスターしか出てこないのだが、そうなっている理由については現地で担当者から説明を受けた方が早いと思われるのでここでは省略する。
なお、このフロアには魔人エイドゥの部下の中でも最強格の者たちが到達しており、巨人たちを相手に日々鍛錬を積んでいたらしいが、どうやら魔法による蘇生が不可能なくらい徹底的に踏み潰されたらしい。
ここへ侵入した冒険者たちも、そうならないよう重々注意されたし。
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