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「きんいろモザイク」で学ぶキリスト教知識

■はじめに

皆様こんばんは。今週に入って急激に寒い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか?

今度の日曜日は待降節第4主日。クリスマス前最後の日曜日ですね。プロテスタント教会ではこの日にクリスマス特別礼拝を行い、礼拝の後は祝会で盛大にパーティーを行うところがほとんどです。しかしながら、カトリック教会では、まだ正式にはクリスマスは来ていないため、通常通りのミサを行い、祝会は行いません。(余談ですが、カトリックでは「祝会」ではなく「祝賀会」といいます。理由は不明ですが)パーティーは12/24の「主の降誕夜半ミサ」の後に行うのが一般的です。カトリックはより、典礼暦を重視しているためでしょう。

つまり、今年の場合、

カトリック→12/20 通常ミサ、12/24夜 主の降誕ミサ(夜半)12/25朝 主の降誕ミサ(日中)

プロテスタント諸派→12/20 クリスマス礼拝、12/24夜 イブ礼拝(キャンドル礼拝が主流)

となります。プロテスタントは12/25当日には何も行いません(行うところもあるかもしれませんが)。昔は「夜になると一日が始まる」と考えられていたため、12/24の夜=12/25の始まり、つまりクリスマスイブは、クリスマス当日の夜、ということです。「イブ」は「イブニング」のことで、「前日」という意味ではないことを頭に入れておきましょう。

まあ、今年はこんな社会情勢ですから、パーティーはおろか、礼拝やミサすら行えない教会がほとんどでしょう。一日も早く、元の生活の戻れることを祈るばかりです。

■アニメ「きんいろモザイク」とは

前置きが長くなりました。今回はアニメ「きんいろモザイク」でキリスト教知識を学びましょう。今回は時期的なこともありますので、「クリスマス」そして「教派の違い」、この二つにスポットを当てていきます。

「きんいろモザイク」は、いわゆる女子高生の日常系アニメ。お前これ系のアニメばっかり取り上げてるやないか、とツッコミを入れられてしまいそうですね、すみません(笑)

このアニメの特徴は、「日本とイギリス、両国の女子高生の交流」を描いているという点です。登場人物が劇中で英語をしゃべり、翻訳が画面下に表示される、という演出がなされていて、他のアニメとは少し違った雰囲気を味わうことができる作品。アニメは第2期まで放送されましたが、第3期を待降節よろしく、「久しく待ちにし」ています。

<あらすじ>

日本の女子高生、大宮忍(おおみや しのぶ)のもとに、一通のエアメールが届きます。差出人は、かつて忍がイギリスにホームステイをしていたときのホストファミリーの女の子、アリス・カータレット。今度はアリスが日本の忍の家にホームステイをすることとなった知らせの手紙でした。そして、アリス、忍のほか、クラスメイトの小路綾(こみち あや)猪熊陽子(いのくま ようこ)、アリスの幼馴染で日英ハーフの九条カレン(くじょう かれん)らの、和気藹々とした日常生活が始まりました。

■イギリスのキリスト教、そして教派について

あらすじにもある通り、きんいろモザイク(通称きんモザ)は、日本とイギリスの2か国がテーマとなっています。イギリスはご存じの通り、キリスト教圏の国です。教派的には、イギリス国教会(聖公会)が最大勢力、次いでカトリックとなります。

イギリス国教会(聖公会)は、イギリス国王が教会の最高指導者を務めるキリスト教教派(イギリス国王がトップなので、イギリス王室の王族は例外なく聖公会の信徒です)で、16世紀に成立しました。カトリックから分裂した教派なのでプロテスタントに分類されることもありますが、教義の違いではなく、政治的な理由で分裂(ヘンリー8世でググってください)したため、カトリックの教義そのものはほとんど否定していません。僕個人的にはプロテスタントには分類したくないですね。典礼も非常にカトリックに似ています。一度聖公会の礼拝に行ったことがあるのですが、マジでカトリックと似てる、というかほぼ同じですよ。要するに聖公会は、「ローマ教皇をトップとして認めていない以外は、ほぼカトリックと同じ教派」なんです。その他の大きな違いといえば、カトリックとは違って聖職者が結婚できることぐらいかな?ちなみに日本では、立教大学聖路加国際病院などが、聖公会系の施設として有名です。

ところでイギリスの主流は聖公会ですが、カトリック教徒もそこそこいます。元首相のトニー・ブレアさんはもともと聖公会信者でしたが、奥さんがカトリック教徒であることをきっかけに、カトリックに改宗しました。

ちなみに、キリスト教の教派は「カトリックとプロテスタントの二つがある」というのが大多数の日本人の認識だと思われますが、これは不正確です。細かいことをいうとのものすごく長くなるので省きますが、個人的には、大まかには「カトリック、正教会、聖公会、プロテスタント諸派の4つ」と覚えるのが一番良いと思います。プロテスタント「諸派」と書いたのは、プロテスタントという言葉は「宗教改革時にカトリックから分裂し、その後無数に枝分かれしていった教派の総称」を指すためです。プロテスタントという「教派」は存在しない、ということも是非覚えていただきたいです。

■キャラクターで学ぶキリスト教知識。実はアリスはカトリック教徒?

それではここで主要キャラクターを紹介します。

主人公の忍(通称:シノ)は、黒髪のおかっぱ頭が特徴。その外見からこけしに例えられることも。天然な性格で、アリスにクリスマスのプレゼントとして、イギリスでホームステイしたときに拾った石(宝石などではなく、その辺に落ちてた普通の石)をプレゼントしてしまいました。(アリスは何も言い返せず固まってしまいました)西洋文化へのあこがれが強く、特に金髪に対する執着はすさまじいものがあります。イエス・キリストは西欧の宗教画などでは金髪や青い目、白い肌などの典型的な白人の特徴で描かれることがありますが、実際は中東出身なので、白人の外見ではなかったでしょう。当時のユダヤ人社会では、男性は髪を短く切り、髭もきれいに剃るのが正しい身だしなみだったそうなので、一般的によく知られているイエスの「長髪でひげを蓄えている」という外見は、当時の社会情勢から考えればまずありえないそうです。

シノは将来、通訳者になるのが夢です。4世紀から5世紀にかけて活躍した聖職者の聖ヒエロニムスは、ヘブライ語やアラム語で書かれた聖書の原典をラテン語に翻訳し、その業績が称えられて「翻訳者・通訳者の守護聖人」となりました。シノもぜひ通訳者になってほしいところですが、英語の成績はむしろ悪いほうで、みんなに心配されています。がんばれ、シノ!

アリスはシノと同い年の高校生ですが、小柄で童顔でどう見ても小学生にしか見えません。


しかしまじめな性格で成績は優秀。日本語での会話や読み書きもほぼ完璧なレベルです。両親ともイギリス人で、生まれも育ちもイギリスの人とは思えません。きっとものすごく努力して日本語を習得したのでしょう。

ところで、劇中のクリスマスの回ではこんなシーンがありました。「クリスマスはどう過ごす?」とみんなで話しているときのこと。アリスは「私はイギリスにいたころは、クリスマスは教会で過ごしていたよ」と話しました。そこへ担任の烏丸先生がやってきて、「私はクリスマスは、神に祈りを捧げに行くの」と言います。

これを聞いたアリスは「先生は、クリスマスは教会にミサに行くんだ!」と心の中で反応します。このアリスの発言で注目したいのは、「ミサ」という言葉を使っているということです。アリスはずっと教会でクリスマスを過ごしていたわけですから、当然自分の実体験をもとに話をしているのでしょうが、「ミサ」という言葉は、カトリック教会でしか使われないものです。したがって、アリスが通っていた教会は、イギリスにおける最大教派の国教会・聖公会ではなくカトリックであった可能性が高いといえます。つまりこのことから、アリスはカトリック教徒であると断定できるわけです。

他教派で「ミサ」に該当する言葉は、プロテスタント諸派と聖公会は「聖餐式」正教会では「聖体礼儀」です。「ミサ」とはそもそも、典礼の中で司祭がパンと葡萄酒をキリストの体と血に聖別し、信者がそれを拝領(食べる)する儀式を指す言葉です。したがって、カトリックであっても、教会で行われる一連の礼拝全体を「ミサ」と呼ぶのは、厳密にいえば誤りなのです。とはいえ便宜上、実際はその使われ方をされてしまっていますよね。その場合は、聖公会とプロテスタントなら「礼拝」、正教会なら「奉神礼」が該当します。

アリスはカトリック教会に行っていたのであれば、侍者(ミサで司祭のお手伝いをする、白い服を着た子供達)もやっていたんでしょうか。侍者服姿のアリス、見てみたいです。


■カレンのトレードマーク、それは聖人達のコラボ

カレンは父親が日本人、母親がイギリス人で、生まれも育ちもイギリス。アリスとは幼馴染で、日本へ留学に行ったアリスの後を追って来日します。元気な性格で、「○○デス!」と、片言気味な喋り方が可愛いキャラクターです。

カレンのトレードマークといえば、イギリス国旗「ユニオンフラッグ(ユニオンジャック)」のパーカー。この国旗は、連合王国イギリスの象徴として、


イングランド

スコットランド


アイルランド

これらの3つの国の国旗が重なったデザインになっています。

それぞれの旗には意味があり、イングランド国旗は「聖ジョージ(ゲオルギウス)十字」、スコットランド国旗は「聖アンデレ十字」、アイルランド国旗は「聖パトリック十字」と呼ばれ、それぞれの国の守護聖人の象徴を国旗としています。つまり、3人の聖人のコラボなわけです。ちなみにスコットランドの守護聖人・聖アンデレはあの聖ペトロの弟×型の十字架につけられて処刑されたという伝承があるため、国旗にも×があしらわれています。

■おわりに

以上、きんいろモザイクで学べるキリスト教の知識をお送りしました。今回は特にクリスマスと、教派の違いについて見てきたわけですが、教派については僕が最大級の関心を持っている分野でもあります。

教派について興味を持たれた方にお勧めしたいのが、「なんでもわかるキリスト教大事典」(八木谷涼子著)という本です。わかりやすく、ボリューム満点で、とても面白い本ですよ。(すいません、書評が適当で)

教派の話題については、今後も頻繁に登場していくと思いますので、お楽しみに。

それではまた!

追伸:画像に載ってる陽子と綾の話題はできませんでした。二人、そして二人のファンの方々ごめんなさい。

2021.4.13一部修正

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