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蓮華草のなまえ

蓮華草にはそれぞれ名前があって

蕾をつけると名前をもらうことになる


今日もまた

蕾たちが名前をもらおうと順番を待つ


そして名前を得た蕾は

世界へと開くことになる


名前をもらうと花を開いて

世界へ生まれることになる


花を開く前はみんな”蓮華草”で

花を伸ばせば”一輪”となる


蕾のころはみな何かを予感して

花が開けたとたんに未知に溢れる世界と対面する


あの少し前に”一輪”となった”蓮華草”は

今日はその心をどこまでそよがせているのだろうか


あの向こうの”一輪”は大空と何をおしゃべりしているのだろうか

天の気から何を知り得ているのだろうか


今日もまたその輝きを空へと向けている花たちは

隣の花には何を感じているのだろうか


あの向こうに見えるだろう花に

何を思うのだろうか

いや、空に夢中で目には入らないだろうか


やがて天をそのうちにすべて吸収し

空をすべて知り得たなら

次は地へとその関心を向けるのだろう


土から芽吹いたその”一輪”は

今度はその煌きを地へと向ける


そしてやがて地と一体となって

そして 地になって


そしてまた地のすべてを知り得たならば

今度はその輝きを、空へと向けることになるのだろう


そして地から分かたれた蕾は

その途中、また、なまえをもらうこととなる


なまえは

空をすべて知り得るうちに忘れてしまう


それでもいつかまた

同じなまえに戻ってくる


蕾と花は

地と天の狭間の存在


そして

なまえは蕾から花への片道切符


いつか忘れ

そしてまた戻って来るもの




―不思議な循環

そして不思議な旅程


『今度は何とお話しようか』

そう予感しながら

蓮華草たちは今日もなまえを待っている