てんかんをめぐるアート展プロジェクト「未来の仲間の輪を広げよう」

てんかんとともに生きる方達のアート活動を写真と映像で記録し、障害のある人とない人がつながる啓発ツールと場を作りたい!

てんかんは患者数が多い病気です。
日本国内では100人のうち0.5人から1人にてんかんがあるといわれています。しかし、この病気についての理解は十分ではない現状があります。 私たちは、2018年10月にパシフィコ横浜で開催される日本てんかん学会に合わせた「てんかんをめぐるアート展」実施を通じて、「てんかん」という病のこと、てんかんの患者さんの日常生活の一端を知っていただければと思っています。
アート展には、3000人が参加、300作品が展示予定です。
そして、今回の新しい試みとして、パシフィコ横浜の会場では、作品のみならず、病をかかえながら制作する彼らの日常の様子も写真や映像で展示し、来場するみなさまと共有します。
また会期終了後にも、この病気と患者さんのいきいきとした表現活動について広く継続的に知っていただき、このクラウドファンディングで集めた資金を使って、さまざまな誤解を受けやすいこの病気についての理解を深める活動の輪を広げるための啓発ツールを作ります。
具体的には
(1)プロの写真家の写真展示
(2)日本映画大学学生による動画上映
(3)てんかん患者当事者によるアート展のアルバム製作
を行うこととしました。

(1)原美樹子撮影の写真展示

 第42回木村伊兵衛写真賞(2017年)を受賞した写真家の原美樹子さんに、てんかん患者さんが作品作りに取り組む姿や、あるいは彼らを支える周囲の方々の撮影を依頼しました。原さんは、1930年代のクラシックカメラを使い、被写体をファインダー越しに見ないで撮影する「ノー・ファインダー」という方法で撮影を続けています。被写体そのものを見つめつつも、その場の人や光景の空気感、ありのままの魅力、一瞬の輝きを引きだす写真家です。

 撮影写真は、アート展当日は展覧会会場の入り口で大型パネルにして展示します。
 また、「てんかんをめぐるアート展」で展示した写真パネルは、展覧会終了後、ご協力いただいた個人や団体の方々などにお貸し出しをして、いろいろな機会に展示し、てんかんという病の認知、患者さんの生活にたいする理解促進に役立てていきます。

原さんからのメッセージ
「未だ見ぬ新しい何かが生み出される場所に、立ち会わせてもらう機会をいただきました。どんなエネルギーや感性に出会うことになるのか、いまからとてもどきどきしています。何かが生み出される場の雰囲気を、写真をご覧いただく方々と展示会場で共有できる、そんな写真が撮れたらいいなと思っています。」

原美樹子(はらみきこ):1967年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業後、東京綜合写真専門学校で写真を学ぶ。1996年の初個展以降、国内外で多数の作品を発表。2017年、木村伊兵衛写真賞受賞。

(2)日本映画大学学生による映像展示
 もう一つは、日本映画大学(川崎市麻生区白山2)に在籍する日本・台湾、中国、韓国の4人の学生に、てんかん患者の方々が制作に挑む姿の撮影を依頼しました。ドキュメント映像として編集し、アート展期間中に随時上映します。
 この学生さんたちは大学で「ヘイトスピーチ」をテーマとする取材に携わってきました。「てんかんのある方々をはじめ、障害のある方々に対する差別・偏見を解消し、当事者の方たちが力を発揮しながら、地域の中で豊かな生活をしていくことに、映像を役立てることができたら」と、アート展開催に、心からの共感を持って撮影に臨んでいます。
 福祉・医療関係者ではない若者の視点で制作された映像だからこそ、一般市民にも理解しやすい作品になる可能性が高まります。さらに、海外の学生が関わることで、てんかんとてんかん患者についての国際的な発信のきっかけづくりとしても期待しています

伊藤草良(19歳)
日本人 ドキュメンタリーの授業で構成とインタビュアーを担当
脚本、演出部チーフ/ドキュメンタリーコース志望
メッセージ:世の中のハンディキャップを持つ人に対しての先入観を変えたい。

ジーモンチェン(21歳、台湾人)
来日3年目、ドキュメンタリーの授業で撮影を担当
ヘイトスピーチデモのカウンター側を取材
撮影部チーフ/撮影照明コース志望
メッセージ:尊重・包容

ジンスミ(24歳、韓国人)
来日4年目 韓国の京成大学中退
元釜山国際演劇祭広報チーム
ドキュメンタリーの授業でプロデューサーを担当
美術部チーフ/ドキュメンタリーコース志望
メッセージ:人に言われて差別をなくすのではなく自分から変わっていきたい。

モウイチク(23歳、中国人)
来日3年目 日本映画大学 在学中
ドキュメンタリーの授業で撮影を担当
ヘイトスピーチデモでヘイト側の現場を取材、撮影
撮影担当/ドキュメンタリーコース、監督志望
メッセージ:今回の映像表現で世の中の人たちに、このような場所があってこのような人たちがいるということを伝えたい。

三つ目は、てんかん事者の和島香太郎さんにアート展の様子を撮影していただきます。  「プロセスもアート」ということで、会場に集められた力作の数々が展示されていくさま、 お客様に見てもらうのを待っている作品達、作品を見ている方々の様子などをカメラに収め、当日会場に来られなかった方達にもアート展の熱気が伝わるような映像を作ります。

和島さんからのメッセージ
「今回、映像記録として関わらせていただくことになりました。創作の場とスタッフの打ち合せを行き来しながらの撮影になります。作品を、作家の日常や周囲の人たちとの関係(交流の様子)と共に捉え直すことによって、一本の線の見え方が変わってくるような予感があります。」

和島香太郎(わじまこうたろう):1983年生まれ。京都造形芸術大学卒業。映画制作に関わりながら、ネットラジオ「てんかんを聴く ぽつラジオ」を毎月配信。てんかん患者としてパーソナリティーを担当。

プロジェクトの目的/課題認識

 てんかんについて知って頂きたいことは、てんかんは患者さんの発作と脳波検査をもとに分類されること、薬を服用することで治りやすいてんかんの方が、治りにくいてんかんの方よりも多いこと。発作が止まった人は、てんかんがない人と同じように、社会参加していることなどです。
 「てんかん」と言う病名についても再考する必要があると考えています。てんかんは、医学的には、患者さんの発作の内容(どのような発作があるか)と、脳波検査の結果をもとに診断されています。しかしながら、てんかんの漢字「癲」「癇」にはネガティブな意味があり、医学的に診断されるてんかんと、てんかんと言う漢字が意味する内容に乖離があります。
 「てんかんをめぐるアート展」を主催するにあたり、実行委員長である専門医・田中正樹が、てんかんについて、説明します。

1:てんかんという病気について
 てんかんの発作の種類は多様ですが、患者さんの多くは、意識が曇ったり、体がガクガクしたりする「発作症状」があるために受診しています。発作の内容(症状)は患者さんによってさまざまです。前触れなく突然にからだがガクガクするもいれば、前触れ(前兆)があってその後に動作が止まったり、意識が曇ったりする方もいます。

 発作の出現頻度も患者さんによって、様々です。発作が年に1回あるいはそれ以下という方もいます。その一方で、毎日発作がある人もいます。発作がおきる時間帯は、覚醒中に現れる人もあれば、夜だけに発作が集中しておきる人も、昼にも夜にもおきる人がいます。

 てんかんが疑わしいときには、脳波を検査します。脳波検査で、特有の波形(てんかん発射と言います)が見られたときには、てんかんと診断します。てんかん発射が見られないときには、てんかん以外の病気も考慮します。

 てんかんを治療するときには、てんかんは発作の症状と脳波結果をもとにいくつかの種類に分けて、それぞれの方にあったてんかんの薬(抗てんかん薬と私どもは言います)を服用します。外科的治療もありますが、抗てんかん薬を使った治療をしないで、手術に進むことはありません。

 てんかんがある人は、100人に0.5から1人といわれています。発作が始まる前に脳の病気になったことがなく、てんかん以外の病気がなく、頭の画像検査をしても異常がない方(要するにてんかん発作が現れているけれども、その他に症状や検査の異常がない方)が多数を占めます。

2:てんかんがある人の生活
 てんかん発作の多くは、抗てんかん薬を服用すると発作が止まります。てんかんを治療しながら、学校の先生や、企業人や、医師や、看護師や、施設の職員として働いている方がたくさんいます。スポーツが得意な方もいます。みなさんがこれまでにお世話になった、学校の先生や、病院の医師や看護師、役所の職員の方の中に、てんかんがある方がいても何も不思議ではないと思われます。てんかんがある女性の方も、結婚している人が多く、元気な赤ちゃんを産んだ方もたくさんいます。
 一方で、いろんな薬を使ってもてんかんの発作が止まらないため、生活や仕事がやりにくくなっている人がいます。

3:てんかんがある人を理解するために(てんかんは多様です)
 てんかんには治療によって発作が止まりやすい人の話と、治療にも関わらず発作が止まりにくい人の話に分けて説明します。

3-1治療によって発作が止まりやすい人
 私の経験では、てんかんの種類(診断)にあった薬が処方されれば、てんかん全体の8割程度の方は、発作がコントロールされ、てんかんを気にしなくても生活できるような状態になると推定しています。

 私のクリニックには、治療がうまくいって、てんかんの発作が長期に止まっている人がたくさんいます。発作が止まっている人の生活につては、てんかんがない人の生活と同じです。
 患者さんの中には、大学に通学している人もいます。また大学院の研究者もいます。ちょっと余談になりますが、私は、患者さんが高校生で学業成績が良い人には「てんかん専門医が少ないので、医学部に入って、てんかんを診療する医師になってほしい」と、私からお願いしています。
 働いている人もたくさんいます。職種としては、医師や看護師を含む医療従事者、弁護士・学校の教諭・老人及び障害者施設職員・役所の職員など、さまざまです。このような方は、皆さんの周りにもおられる可能性が高いと思われますが、本人から「てんかんである」と聞かない限りは、その人が「てんかんであること」は解りません。
 ところがです、発作が止まっているにも関わらず、企業の面接でてんかんがあったと口に出したところ面接官の態度が一変したとか、結婚のときに相手の家族から結婚を反対されたとの話を、私は聞くことがあります。
 その人の病気の状態ではなく、「てんかん」と言う言葉を聞いて回りの人が、過剰に心配している可能性があります。今日、てんかんは、発作の内容(どのような発作があるか)と脳波検査の結果をもとに、診断して治療を進めています。
 ところが、てんかんの「癲」は辞書を引くと「気が狂う」と説明されています。また、てんかんの「癇」は「神経が過敏で,小さなことにもいら立ったり怒ったりすること」と説明があります。別の言い方をすると、てんかんは、患者におこる発作の症状と脳波をもとに判断されるのであって、医学的には精神病や性格特徴とは別のものです。
 このため、「てんかん」という病名についても一考する余地があると考えられます。

3-2 治療にも関わらず発作が止まりにくい人
 全国にいくつかある「てんかんセンター」と呼ばれている病院で治療を受けても、発作が止まりにくい人がいます。発作が止まらない人の一部に対しては、外科治療の選択肢がありますが、発作が止まらない人がみんな手術を出来るわけではありません。

 発作が止まらないまま生活している方の具体例を紹介しましょう。

▽Aさん…40歳男性 小学校の時までは、健康面で問題になることはありませんでした。
中学校のころに発作が始まり反復するようになりました。発作は突然に始まります。Aさん本人に発作の時の状態についてお聞きすると、Aさんは、「こみ上げてくるような前兆があって、その後に気を失います。気が付いたときには、発作があったかな?と思うのですが、自分自身がどのようになったかを思い出せません。」家族に聞くと「動作が止まって、家族が呼びかけても反応しない状態になります。
反応しない状態が2-3分ほど続きます。そのあと、返事はするのですが、まだ、会話が十分にできません。しっかり会話ができるようになるまでには10分ぐらいかかります。近くの病院で治療を受けましたが発作が止まらず、月に4-5回の頻度で発作が反復しました。

 Aさんによると「発作が学校で何回かあった後に、友人がAさんから離れていく感じや、友人の視線が冷たく感じたりするようになった」ということです。「高校だけは卒業してほしい」という家族の発言に対して、Aさんは強い口調で反抗することがあったようです。

 高校は合格したものの、入学後に発作が教室で起きた後から、不登校に。高校2年にならずに中退しました。2つの仕事に従事しましたが、仕事中に発作になったために、それぞれの仕事をやめました。その後は、自宅で生活していました。自宅では、家事や父親の仕事を手伝ったりしていましたが、買い物の最中や病院で受診待ち中に発作になりました。

 30歳を過ぎた時、受診していた医師から田中神経クリニックを受診するように勧められて受診。その後、それまでに服用していた抗てんかん薬を、Aさんに適した薬に変更しました。また手術を希望して、静岡のてんかんセンターにも受診しましたが、手術はできないと判断されました。現在、発作は、その頻度が月に1-2回に減ったものの、なお反復しています。

 Aさんは「発作を起こしている間の記憶はないし、それから、発作が終ったあと、しばらくの間は、家族の声は聞こえるのだけど、よく意味がわからないし、うまく話ができません。それもあって、てんかんの発作が始まってから、友人が自分から(Aさんから)離れていったと思います。発作が早く止めたい」と語っています。Aさんは発作が止まれば働きたいと思っています。高校中退後に、大学の受験資格も取りました。「できれば、働きながら大学で学びたい」と願っています。

プロジェクトの達成目標/創出効果/成果物

①てんかんにはいろんな種類があることと知ってもらう。
 てんかんの患者さんは、治療によって発作がコントロールされて、社会参加するうえで支障がない人もいれば、Aさんのように発作が止まらないために、就労が困難になっている人もいます。

 別の言い方をすれば「てんかんがある人」と言っても、てんかんの発作の種類は様々であるし、また、治療に対する反応も様々です。まず、てんかんは一つではなく、いろんな種類がある現状を少しでも多くの人に知ってもらいたいと思っています。

 それだけでも、てんかんがある人に対する考えかたは大きく変わると思います。目の前にいる人のてんかんが、どのようなものなのかと考え、それぞれの人に応じた対応を考えていくことが大切だと考えています。

②発作がとまらない人がいることも知ってもらう。
 Aさんのように発作が止まりにくい人がいます。しかしAさんは働きたい・勉強したいと考えています。発作がありながらも、みんなと同じように、暮らしいと思っている人が大勢います。
 発作が止まらない人の生活を支える家族や仲間や支援者もいます。「てんかんをめぐるアート展」では、アートからてんかんがある人の笑顔やエネルギーを感じてほしいと考えています。

③てんかんをめぐるアート展を通じた仲間と出番づくり
 アート展を実行するために、これまでに、アート展を開催した経験がある人、てんかんがある人を支援している人、てんかんの専門的診療を行っている医師が集まりました。月に2回のペースで、集まって準備を進めています。
 アート展に向けた準備を通じて、さまざまな人がつながり始めています。このつながりを活かして多くの人がこのアート展に携わり、当日アート展に足を運べない方やアート展終了後もさまざまな方法を使って、てんかんを持っていても地域で幸せに暮らし、社会参加が可能な支援を充実させるために「てんかんをめぐる多種多様な人のつながり作りと取り組み」を行っていきます。

プロジェクト構成メンバー/経歴

田中 正樹(田中神経クリニック 院長/横浜市栄区) 
榎 正晴 (社会福祉法人ル・プリ SELP・杜 管理者/横浜市栄区)
功刀 歩 (NPO法人しろい地図 理事長/横浜市港南区) 
阿部 純一
小松 博昭(よこはま福祉実践研究会) 
荒木 傑 (NPO法人みどり福祉ホーム 管理者/横浜市緑区)
相川 勇 
甘糟 直行(NPO法人活動ホームしもごう 管理者/横浜市戸塚区)
高橋 羽苗(社会福祉法人藤沢育成会/藤沢市)
尾形 淳子(神奈川県社会福祉士会所属社会福祉士)

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