寝過ごしてしまいそうになった

高校に入りたてのころ、勉強にも部活にも、ありとあらゆる新しい生活に慣れなくて、つい登校中のバスの中で眠ってしまった。


とんとん、と肩を叩かれて目が覚めた。わ。寝過ごした?窓の外に校舎が見える。隣には誰もいなくて、振り返りもせず、バスから降りようとする女性がひとり。制服と、その凜とした背筋からすると、きっと同じ学校の先輩だ。

自分の制服で気づいて、きっとあの人が起こしてくれたんだ。

急いでバスを降りたけど、もうその人は登校中の学生たちの中。

一瞬しか見えなかったけど、名前も告げず、顔も見せなかったその先輩の後ろ姿はとてもかっこよくてすっかり痺れてしまった。この学校に入れて良かったな。

その先輩にお礼は言えずに、10年以上経つけれど、今でも電車で寝過ごしそうな人を見かけると、あの時を思い出して、そっと起こして立ち去ってみる。

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