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史子さんの侠気

去年の12月初頭。

職場のプチ忘年会、のはずが史子さんと二人で食事をすることになった。

「お待たせ。ゆかりちゃん達は?」

『急ぎの用が出来たみたいで、今日は来られないそうです』

古典的なトラップにまんまとハマった。


史子さんはいわゆるアラフォー。
どんな仕事も卒なくこなす、ベテランの女性社員だ。
気立ての良い人だが、恋愛対象として見たことは一度もない。

『江戸川さん、夕ご飯は?』
「食べてない」

『お水持ってきますね』
「いいよ、ドリンクバー頼むから」

機嫌の悪さがすぐに出てしまうのは、僕の直したいところだ。

『江戸さん面白いって言ってましたよ』
「はたから見れば滑稽だろうね」 

サラダを注文して、僕に取り分けてくれた。
彼女とは同じ業務だし、ある程度は優しくしなきゃ。

「史子さんは実家?」
『あっ、でも料理はしてます』

「結婚しないの?」
『私、年齢より若くみられるんで、慎重に選んでます』
「……」

「史子さんは年末年始どうすんの?」
『父が塩原にリゾートマンションを持ってて、そこで過ごす予定です』

「いいなー、俺も温泉入りたいよ」
『来ますか?ロフトがあるんで泊まれますよ。簡単なおせちなら用意出来ますし』

2時間が経過したので、伝票を持って席を立とうとした。

『待って!江戸さんに渡したいものがあるんです』

バッグから厚い封筒を取り出した。

『ほんの気持ちです』

中を見ると現金だった。
100万くらいある。

『江戸さん、いつもお金がないって言ってるから。少し早いお年玉です』

背筋が凍った。

「これは受け取れないよ。気持ちだけもらっとくね」

『一度バッグから出したものは引き取れません!実家暮らしなんでこの位は大丈夫です』

マンガ【刃牙】の花山薫のような侠気だ。

刃牙外伝 創面-花山 薫


押し問答をしてると、近くの客がこちらを見出した。
何とかしなきゃ💦

「わかった!お年玉だから年が明けてからにしよう。今受け取ると贈与税が発生するんだよ。史子さん預かってて」

あれから一年弱。
史子さんとは今日も、同じ職場で過ごしている。

「そこのエージェント、アイス買ってきて!」

『なんなのその呼び方!ゆかりちゃん、江戸さんがアイス買ってこいだって』

「あ、自分で行ってきます」





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