VTJ 1995 中井祐樹の顔
中井祐樹の対戦相手、ジェラルド・ゴルドーは本物の「ケンカ屋」だった。
1991年、リングスで佐竹先輩への顔面パンチやサミング。翌年には後川先輩にも反則を繰り返した。
正道会館の練習生だった僕には、ゴルドーの恐怖が一層刻まれた。
1993年、ゴルドーは第一回 UFCで決勝に進み、ホイス・グレイシーに敗れた。
現在では「ケンカ屋」を自称する選手は何人もいるが、ゴルドーとは比することすら出来ないだろう。
中井祐樹については何も知らなかった。寝技が強い柔道家という程度の認識だった。
身長170cmとあるが、196cmのゴルドーとのマッチアップは大丈夫なのだろうか?
1995年4月20日、日本武道館。
一人で来た僕の席はリングから約15mだった。
会場はいやな雰囲気だった。
ヒクソンを見たいのではなく、残虐なシーンを期待する声もあった。
まだMMAと暴力が、区別されて間もない時代だった。
入場する中井が横を通ったとき、170cmよりさらに小さく見えた。
「やめてくれ!」とすら思った。
リングに上がった中井の顔を見て僕は震撼させられた。
勝利を信じ切っているのだ!
大き過ぎる体格差。
いやな期待を背に感じつつ、あのジェラルド・ゴルドーを前にして、なんという自信!
そのときの中井さんの表情が脳裏に焼き付いて、他のことはあまり覚えていない。
ただ中井さんはその通り、ゴルドーにヒールを極めて勝利した。
会場はゴルドーが何かをするたびに、いやな歓声と悲鳴が飛び交っていた。
僕にはサミングの見分けがつかなかったし、中井さんの右目のことも後から知った。
中井さんは最後まで戦い抜き、決勝でヒクソンに敗れた。
あのVTJ 1995は間違いなく日本MMAを前に進めたし、中井さんは日本ブラジリアン柔術の父となった。
しかし僕が鮮明に覚えているのは、勝利を信じ切った男の顔だ!
※記憶が不鮮明なので、細かな事実が間違っていてもご容赦を。
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