ユイはメインストリートで
20年前の大宮駅。日曜日13時。
利根川で叫んでから三年、ユイ(楓)と再会した。
待ち合わせのモニュメント。ユイは驚くほど綺麗になっていた。
あまりに若い彼女とは、たまにメールするぐらいの関係だった。
Afternoon Tea でお茶をした。
ユイは高校を中退し、都内で一人暮らしを始めた。
今は駆け出しのバスガイドをしてるらしい。
『仕事があんまり慣れない』
傷んだ髪をかきあげる。
あの頃と違い、ユイは眩しかった。
『私、多分プロポーズされる』
「…そうなんだ」
『めっちゃ久しぶりだけど、もう江戸くんに会えない』
「そうだね。連絡も取らない方がいいね」
僕は思い出を作りたかった。
大宮の街で、ユイを必死ににエスコートした。
プラネタリウムに入った。
三年前、利根川で叫んだときのように、満天の星空が広がっていた。
ユイと手を重ねた。モラルに反するかも知れないが、許してほしいと強く願った。
LOFTの店内を歩いた。
氷川神社でお参りをした。
LUMINEで人気のガレットを食べた。
17時半を過ぎた。
「夕飯は家で食べるんだよね?」
『うん』
ユイは都内の部屋に帰る。
おそらく二人暮らしだろう。
「じゃあ、ここで。今までありがとう」
『ありがとう。元気でね』
僕たちの笑顔は歪んでいた。
少し歩いて振り返ると、ユイは壁際でケータイをいじってる。
彼に連絡してるのだろうか。
ユイがこっちを向いた!
『ちょっと待って、私について来て』
手を引かれて歩いていくと、ユイは高島屋前の交差点で立ち止まった。
帰宅時間だから凄い人の群れだ。
『江戸くん言ったじゃん。キスはメインストリートでって言ってたじゃん』
全く覚えてないが、僕が言いそうなことだ。
「こんな人混みで?無理だね」
『好きだよ。江戸くんはする人だよ』
ユイが涙声になったとき、人の流れはストップモーションになった。
今だけは、ユイを抱き締めていたい。
屋上に停めた車に戻ると、ケータイにメールが届いていた。
『幸せになって下さい』
17:48 ユイが壁際で打った、最後のメールだった。
--了--
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