しょこたん②
しょこたんが助手席でぐったりしている。
午前だけの勤務でこんなに疲労するだろうか?
『少し横になれば大丈夫ですよ』
サイゼじゃ無理だし、カラオケボックスも騒がしい。
文化会館は静かだけど横になれない。
【快活クラブ】なんてない時代だ。
この機を逃したら、もう話せないかもしれない。
僕の実家が近い、親もいないはずだ!
こういうときに限って、両親が揃ってる。
しょこたんが急にシャキンとした。
母もお茶を出してくる。
『はんてん似合ってますね』
女子高生のご機嫌取りに、頑固親父がデレデレしてる。
2階の部屋に連れて行き、しょこたんをベッドに寝かせた。
僕はベッドに座り、話を聞いた。
しょこたんは障がいを抱えていた。
『髪をなでてください』
ゆっくりゆっくりと話した。
高校でいじめに合い、通信制に転校した。
近所の手前、親の指示で制服を着て通勤してるらしい。
「もういい?」
『もっとなでてください』
髪をなでられると落ち着くらしい。
ユイもそんなことを言ってた。
ワゴンRを見たときの、恐怖と怒りは消えていた。
『I LOVE YOU を歌ってください』
「歌は苦手なんだ」
『今度、歌ってください』
「わかった」
しょこたんは眠ってしまった。
子供のような顔で、スースー寝息を立てている。
口紅がはみ出していた。
しょこたんの家に送ると、お母さんが現れ中に促された。
近所の目を気にしてるようだ。
しょこたんは『江戸っち』と僕を紹介して、部屋に行ってしまった。
玄関でお母さんと話した。
『翔子がご迷惑をかけたようで、あの子には病気が…』
「伺いました。職員の方はご存知なんですか?」
『ええ、それで午前だけにして貰ったんです』
玄関を出るときに、しょこたんは綺麗に折った紙を渡してきた。
車を少し走らせてから開いた。
『江戸っちの友達になろう。私のメルアドは****です。今度、江戸っちの歌を聴かせてね』
広がった助手席に、
「もう友達にはなれないんだよ」
--つづく--
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