7章【4】 話の方向性を誘導する
ちょっとした返事ですらも、他人の話の方向性を誘導することができる。
その誘導に気づくには、相手よりも細かい感覚が必要になる。粗ければ、知らない間に洗脳されている。自分が言っていない感情や価値観を返事の中にすっと入れられている。
悩みを話した後に、
「それは悲しいね」
とか
「それは悔しいね」
とか、そのような返しをするだけで、言われた相手は悲しさや悔しさを、自分の中に起こったことの中から見つけようとしてしまう。そうした返事だけで、自分がした話をどう捉えるか、その方向性を決められてしまっている。もちろん、当人の気分と大きく異なる方向への誘導は難しい。
「仕方ない」とか「周りが悪い」とか、ネガティブな方向や、自分を省みるよりも他人のせいにする方向への誘導はしやすい。弱っているときには特に、その方が本人にとって楽な考えだからだ。
何も言わず、頷くか頷かないかだけでも、話の方向性を変えられる。こちらの望む方向性に話が進む場合だけに相手に気づかれないように軽く頷いていると、そちらの方向性に話が進みやすくもなり、頷かない方へは話が進み難くなる。
ある人物の悪い側面に思いを馳せるように誘導することもできる。
たとえば、対象の女性の恋人を褒めれば、女性は自ずと悪い側面を言い、貶せば自分の恋人を貶されたことにむきになって良い側面を言うようになる可能性が高い。そのとき、相手はこちらがそのように誘導しているとは気づきにくい。
実際のところ、多くの男性は、気に入っている女性の恋人を貶してしまう。そうすることで、女性はより恋人のことを大事に思うことが多い。男性は自分の方が良いということを暗に伝えようとして、その下心が逆効果を生んでしまっている。
それよりもむしろ、彼女が選んだ男性を肯定する方が、彼女は自分を受け容れてもらえていると感じるものだ。そうすると、彼女自ら、恋人の不満を話し始めるだろう。そうやって、人は自分の意思で話していると思いながら、誘導されていることがある。
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