『声をかける』

『声をかける』が出版されたときに書いたものです。加筆はしていません。

『声をかける』ができました。なにをどう書いていいのか見えないので、いきなり私事からですが、二年間毎日これを書くことに時間を費やしていました。

都会で、多くの、ほとんどは見知らぬ人々の中で生きるということはどういうことでしょうか。
互いが欲望の対象になり合うことではないでしょうか。そして、その欲望の形は各々の生育環境、周囲との関係性などから自然と発生してきたものであるように思います。
その欲望が成就されれば、その人はきっと穏やかに他人との軋轢も少なく過ごすことでしょう。欲望が成就されないままでいれば、周りの人を罵ったり、うまくいかないことを他人のせいにしたり、強い自己主張をしたりして過ごすことになるでしょう。
欲望が成就されるといっても、ただうまくいくということでもないかもしれません。欲望に向かっていき、向かっていく中で、それがうまくいくいかないに関わらず、自分の中でそこに向かっていく自分を受け容れることであるように思います。

生きている限り、そういったことには向き合わざるを得ないように今は感じています。この『声をかける』には、ある一つの時期にそうした欲望に悩まされ、それを成就させ、終わらせようとした自分の感覚を創作という形で注ぎ込みました。

内容はともかく、装丁は最高のものにしていただいたと自負しています。
デザインは佐々木暁さんにしていただきました。繊細な白の美しさと手に取ったときの軽やかさがあります。

推薦文を代々木忠監督、詩人の文月悠光さんに書いていただきました。お二人とも社会の中での人間の葛藤を描き出すという点で尊敬している方たちです。
表紙の絵と挿絵を岡藤真依さんに描いていただきました。岡藤さんの絵を見たときからこの人に、この構図で描いてもらいたいとはっきりと浮かんでいました。際どい構図を繊細に、情感溢れるように描いていただきました。
そして、編集は晶文社の足立恵美さんにしていただきました。今回の内容は四年ほど前からずっと書きたいと思っていたものでした。初めてお会いしたときの足立さんの上品な佇まい、服装を見て、この内容をお願いできるのはこの人しかいないと思い、書きたいと思っていることをお話ししました。僕にとって、編集者は無防備な身を預ける最も大切な相手です。書いたものをより洗練させる方へ、二年間、僕の書き方を尊重し、強いアドバイスはせずに、じっと見守ってくださいました。

読んでくださった方がどんなことを思われるのか、ただ純粋に知りたいです。
本は読者のもの。もう自分には手をつけることができないものをそっと世の中に送り出す気持ちです。
読んでいただけたら嬉しいです。
早くて今週末、それか来週初めの18日には本屋さんに並ぶそうです。

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