鞍馬山

2012年くらいに書いたものを加筆しました。

鞍馬山に行った。ここはレイキの創始者である臼井甕男が瞑想をして天啓を得たという、レイキ発祥の地としても知られている。

鞍馬行きの叡電の窓の外には北に上るにつれて雪が降り始めていた。鞍馬に着くと雪が重く降っていた。寒かった。淡々と駅から鞍馬寺まで歩き続けた。周りには二人組で観光している人が多かった。彼らを追い越し登っていった。

鞍馬寺に行けば、自分の心身の状態が変わり、悩んでいたことへの答えが出るような気がしていた。鞍馬寺についた。いい感じだが強烈な感じはなかった。

寺を出て、さらに先に進もうとした。が、なんとなく振り返ると、寺の前の広場が気になった。人が集まって写真を撮っているのが見えた。寺の前に戻ると石の組み合わせによって円の模様になっているものがあった。パワースポットとされている魔法陣だった。

魔法陣には人だかりが出来ていた。人々は魔法陣の真ん中に立って写真を撮ったり、立ったままどんな感じがするかを同行者に伝えたりしていた。並んでいるというのもあったが、真ん中に立つのはなんだか嫌で、端に立ってみた。寺の反対側を向くと、遠くの山が見えた。どうやら僕は焦っているらしい。体の中は周囲のものが入り込む余地がないほど詰まっているようだった。
それでも来てしまったのだから仕方がない。先に進むしかない。その先には大杉権現社という瞑想する場所がある。そこに行くことにした。

今でも思い出すと寒気がする。誰もいない山道を歩いていくと、杉がたくさんある場所が現れる。その杉の間をさらにまた歩いていくと大杉権現社というという建物がある。それまであった山の静けさが一段と深まったような気がした。

建物の中に入ると、ベンチが四つほど並んでいた。折角だからとそのベンチに座って、少し目を閉じた。急に外の風の音が強くなり始めた。ビュウビュウと次第に大きくなる風の音に怖くなった。

外は吹雪に変わっていた。
突然の天候の変化に、ここは山なのだということを初めて感じた。吹雪の幕の遠い向こうにはいつもと変わらぬ晴天の中の太陽がある。自分だけ取り残されているような感じがして怖かった。

引き返すべきだろうか。真っ白な雪景色、風、雪、静けさ、それらがこんなに恐ろしいものだと感じたのは初めてだった。
進むことにした。

木がぐらぐらと揺れる音が聞こえた。熊が出るという標識があった。なんだか奥に行けば行くほどみぞおちの辺りをぐっと掴まれるような感じがする。それは僕がただ恐がりだからなのか、場所の影響力からなのか分からない。

周りには誰もいないし、何もない。ナンパで声をかけたいけれどかけられなくなったとき、しばらく街中で動けなくなることがある。ここは街ではない。誰も僕の姿を見ていないし、誰も僕を拒絶はしない。断られることもない。それなのに、一体僕は何と戦っているのだろうか。

今度は帰ろうと思った。これより先に進んだら、もう引き返せない。そのまま鞍馬駅と山を一つ挟んで反対側にある貴船神社の方に降りていかなければいけない。しばらく悩んで立ち尽くしているときにも、吹雪と木々の倒れんばかりに揺れる音が聞こえていた。

僕は肝心なところで逃げてしまう。
女性に声をかけようとして立ち竦むことがある。そのとき毎に自己嫌悪に陥る。一方、怖いものを避けることの一体何が悪いのかと、冷静に考える自分もいる。
しかし、先に進めば何かがあるかもしれない。未知の体験への入り口があるような気がするのだ。

進むことにした。
そうすると、みぞおちを締め付けるような感覚は消えていた。

先に進むと魔王殿という建物があった。なんだか落ち着く場所だった。そこにもベンチがあり座ることが出来た。今度は目を閉じずにいると、なぜか上の方に斜めに鏡がかけてあることに気がついた。立ち上がり、その鏡に近づいて自分の姿を見た。
やつれた顔をしているかもしれないと思ったが、意外にもしっかりとした顔つきだった。そういうものか…と特に何も考えることなく出発した。

そこからは淡々と山道を下っていくだけだった。途中、吹雪はやみ、さわやかな冷たい空気の中の晴天となった。道路が見え、その脇にある川の流れの音が聞こえた。ときおり車も通った。先ほどまでの緊張感はなく、ただ山道を歩いているだけだった。

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