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務川慧悟☆祝初しらかわホールリサイタル☆幸せすぎた・・・

凄すぎた。
幸せすぎた。
期待のはるか上空をスイスイ飛んで行った推し、務川慧悟氏のコンサートが素晴らしすぎて、数日経っても呆然としています。
12月13日は特別な夜だった……
というわけで、この感動を忘れないうちに書き残しておきたいという意思だけで書いてみました。
毎回のお断りなのですが、記事は素人の個人的感想でございます。
またプログラムが12月15、16日浜離宮朝日ホールと同じなので、ネタバレを避けたい方は17日以降にぜひ読んでいただけると幸いです。


🎹務川慧悟ピアノ・リサイタル

  • 2022年12月13日(火)18時45分

  • 三井住友海上 しらかわホール

  • 主催:CBCテレビ

  • 協賛:三井住友海上

12/13しらかわホール


🎹バッハ:フランス組曲第5番 ト長調BWV816

拍手とともに現れた務川さん。光沢あるグレーのスーツにミディアムヴァイオレットのシャツ、チーフ。颯爽と現れ、まずは完売満員の会場をゆっくり見わたし、丁寧にお辞儀をされた。
着席。ピアノはスタンウェイ。椅子の高さを調整する。少し目をつぶる。
この瞬間は、奏者も緊張する瞬間かもしれないが、見ている方も最もドキドキする一瞬でもある。

第1曲アルマンド 第2曲クーラント
第1音が鳴りフレーズが奏でられると、早くも音に惹きつけられる。とても素朴で、優しいアルマンドだ。装飾音を抑えた1回目と華やかに装飾をつけた2回目。どこがどうとは指摘できないが、今までとは違う装飾音。即興かもしれないし、ある程度決めていたかもしれないし、どうなのでしょうね(←相変わらずこんな書き方が続きます…謝)。
クーラントはテンポも華やかさも抑えめな感じ。素朴な中にも上品さが漂うのですよね。というかそれは務川さんの演奏するこの曲全体に言えることでもある。今回も前回同様にそう感じた。

第3曲 サラバンド
一番驚いたのが、務川さんの代名詞ともなっているこのサラバンド。最早あれほどの完成形はないだろうと思っていたのに裏切られたなあ。もちろんひれ伏す意味で。テンポを非常に落とし1音1音丁寧に音を紡ぐ務川さん。止まるのではないかと思うほどにゆっくりと、とても密やかに。でも確実に流れてくるメロディ。そっと開いた小箱の中で静かに光を放つ小さな個人的な宝物。やはりこの曲は務川さんにとって特別な時間なのだろう。ラストの装飾音はキラキラさせていた。

第4曲ガヴォット 第5曲ブーレ 第6曲ルール 第7曲ジーグ
前回も思ったが、社交界デビューのお嬢様を思わせる、上品で慎ましやかなガヴォット。抱きしめたくなるような音とメロディだ。
一転してスピード感あるブーレのハツラツさが際立つ。
ルールは私的には捉えどころのない曲なのだが、務川さんの演奏を聞くと、そんなことない、とても舞踊のリズムに則った曲だ、どこをどう思って捉えどころないなどと思ったのかと痛感させられる。しかしセンスが要る曲じゃないですか? 務川氏さすがです。
ジーグ。フィナーレを伝えるファンファーレのような出だしも、務川さん割と抑え目な入りだなと思ったのだが、左手が主メロディを取りさらに交互にメロディラインが移りと、曲が進むうちにグイグイ推進力が高まってきた。2回目からはますます盛り上がる曲調、激しく、でも高貴さを忘れずにみんなで踊り回る! 曲全体を通しここまで抑えてきた力を一気に放出したようなフィナーレだった。

スタンウェイ


🎹西村 朗:星の鏡

楽譜を持って務川さん再登場。貼って繋いで、一枚の紙にした形の楽譜。できる限りめくりを抑えた優れ物ですね。練習室で切って貼ってと試行錯誤している姿が浮かび……いや想像すみません。楽譜を丁寧にセットしてから椅子を調節、そしてピアノに向かう。
1音にたっぷり時間を取る務川さん。ペダルを解放して広がる共鳴音、倍音。音の名残が静かに消え去っていくまで、務川さんはじっくり耳をすます。ピアノ内部のハンマーの振動すら空気を通して客席まで伝わってくるようだ。
1つの音が投げかける波紋、広がる時間、消えて溶けていく時間。全てが音楽。まるで水琴窟のようと親しみが湧いてくる(※個人的見解です、いつもか!)。
1音によってもたらされる音の多彩な煌きや瞬きはまさに星を思わせ、最後は宇宙空間に吸い込まれていく。


🎹モーツァルト:ピアノソナタ第8番イ短調K.310

着席していきなりスタート! 激情溢れる第1楽章なのだが、務川さんの場合はせき立てられるような熱と、さらに美しさが伴う。
ここで務川さんが演奏曲について述べたインタビュー記事があるので引用してみる。

15・16日の前半で演奏するJ.S.バッハの《フランス組曲》第5番は家庭的な雰囲気のする曲ですし、西村朗さんの《星の鏡》は限られた音数の大変美しい作品です。ラヴェルの世界と遠くないと感じます。モーツァルトのピアノソナタ第8番イ短調は、フォルテピアノで学んだことで価値観が変わった作品の一つ。諸説あるものの、やはりモーツァルトが母を失った悲しみが反映されていると僕には思えます。当時としては衝撃的な音楽だったことでしょう。
SPICE 2022.12.13
https://spice.eplus.jp/articles/311849?p=2

務川さんのK.310からは、強い悲しみとまだホットな怒りが感じられると、以前私の感想記事で書いたのだが,今回もそれを再認識した。安らぎの第2楽章の中に訪れる中間部、短調が激しい感情を吐露する。もしかしたら第3楽章は長短の関係が裏返しになっているのかもしれない。結局魂は救われていないような気がしたから。
弾き終わり立ち上がった務川さんの表情も非常に険しかったのが印象的だった。
会場は大拍手。務川さんの表情もすぐにほっこり溶けた。


🎹ラヴェル:前奏曲イ短調
🎹ラヴェル:水の戯れ

さて、リサイタル後半はオール・ラヴェルでございます。務川さんがラヴェルを弾き始めると、ホームグラウンドに来た! とどうしても感じてしまう。
リサイタル前半はバロック、現代、古典と時代も曲調も異なる曲を弾き分けている推し素敵!と圧倒されるのだが、その流れからラヴェルが来ると、印象派の不思議な浮遊感、流麗さが際立つ。というわけで「はーーー務川ラヴェル」と聴き入っていました。
務川さんが以前指摘されていたが、ラヴェルの子供っぽさや愛情深さ、優しさという面などが溢れた2曲だと思う。美しいグリッサンドと振り上げた左腕が素敵だった。


🎹ラヴェル:「鏡」より第4曲「道化師の朝の歌」

前回お聴きした時はサロンで、しかも幸運なことに割と目の前で手の動きが見える席だったこともあり、とにかくその華やかさに心奪われた曲。しかし今回ホールで聴くと、また新たな面が見えて来た。
中間部の朗々と歌い上げる箇所、務川さんの鳴らす音の響きに私は耳を奪われた。客席から、前半の西村作品のように、倍音や共鳴音を聴き取ろうと意識を集中させる。
怪しげなもやのような表現。けしかけるような舞踊のリズムは怪しの世界に引き込もうとしているのか。長い駆け引きの後、ようやく振り切って駆け上がり夜明けを告げるように煌めく高音部。この辺りは本当にラヴェル上手いな!(←何様)という感じで、実は今回この中間部の存在にとても惹きつけられた。
もう感嘆しかない。凄いものを聴いたなあ。


🎹ラヴェル:クープランの墓

拍手に応じて丁寧に挨拶する務川さん。そういえば今回のリサイタルでは務川さん、演奏後だけでなく開始前も四方、二階席にまで丁寧に挨拶されていたのが印象的だった。
プレリュードのメロディが始まると、もう一気に務川ワールドに! カラフルな音のシャワーが一斉にホールに降り注ぐ。メロディラインのなんと可憐なこと。一心にピアノに向かう務川さんから奏でられる音の星々がさらに外へ広がっていく。もう幸せしかない。目も眩むような多幸感に包まれて自失(笑)。
フーガで、はっきり自覚した。あああ、このままこの務川ワールドに止まっていたいと。
メヌエットは、秩父の6日間を思い出しますね。おこがましいんだが、なんかラヴェルは私達ファンにとっても特別な作曲家になった気がする。

とにかく務川さんの創り上げた世界にすっぽり包まれた居心地の良さ。まさに心安らぐ部屋でゆったり寛いでいるよう……
ラストの音を務川さんが弾き終わり、ああ終わってしまった。
大拍手。そしてスタオベ!

🎤トークタイム

さて、トークタイム。できる限りその雰囲気を出したいと思うが、もちろん語句はその通りでないことと、私の記憶が……笑。

「本日のしらかわホールは、僕が子供の頃から最も足繁く通ったホールです。オーケストラなどと共に名古屋の中ではよく弾いているホールでもあるのですが、ソロリサイタルとしては、今日が初になります。そういう特別な場所での初リサイタルなので、とても嬉しいです。地元だから安心して弾けるかと思いきや、今日はなんだか緊張してしまいました。
2024年に閉館されるのがとても寂しいですが、実は来年もこのホールで演奏の予定があります。またSNSなどでお伝えしたいと思います」
「今回新しいCDをリリースしました。ラヴェルの全ピアノ作品集です。ラヴェルは僕が最もシンパシーを感じている作曲家の一人です。他はバッハ、ショパン、シューマン、フォーレなどがそうなんですが。
このCDは8月に秩父で6日間かけてレコーディングしました。そのために練習を重ねました。今日のコンサートはCDリリース後初となるのですが、また新たな気持ちで演奏することができ、とても嬉しかったです」
「ラヴェルの曲は硬質なテクスチュアが特徴とされていて、実際その通りではあるのですが、それ以外にも古い音楽への尊敬なども見出すことができます」

相変わらず真面目で誠実なトークだ。これは務川さんがトークもプログラムに含めて考えているからと言えるのではないか。つまり演奏の理解のために、敢えて言葉で伝えたいという思いの籠ったコーナーなのだ。
「しらかわで来年」というのは、11月のセントラル愛知さんとの協演かと思ったのだが、リサイタルという噂もあるし、どちらでしょうね。リサイタルも入れてほしい〜。

第200回の記念演奏会!


🎹アンコール

ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」
再び会場は静けさに包まれる。
務川さんがピアノに向かい、静かに密やかにメロディを奏でると、落ち着きと安らぎの心地になる。時折の不協和音がもたらす不安定さ。
沁みる〜。
この方はなぜ、こう尊いのだろう。と思わず呟いしまう。あまりの美しさに涙が。

満場の拍手。その拍手はなかなか止まなかった。
丁寧に何度もお辞儀をして、務川さんが何度も退場しても拍手はやまない。
その大拍手の中、小走りに駆けてきた務川さん。「1曲だけ」と指で1を示しながら着席した瞬間弾いたのは、

ショパン「英雄ポロネーズ」
ええええ〜務川さんの「英ポロ!」。なんと! 嬉しいサプライズだ。
ルバートをふんだんに使った、他の人とは異なる個性的な演奏。華々しい英雄の姿というより、どこか迷いやためらいも見られる、より人間的な造形。次はどういう展開なのかと、深く聴き入ってしまった。なんとカッコいいー!

観客が今度は弾かれたように一斉に立ち上がる。大拍手。みんなこの尊い時間を与えてくれたピアニストに最大の賛辞を送る。
お礼をして客席を見渡す務川さんの顔も喜びに溢れ輝いている。少し感極まったようにも見えた。そんな彼の姿は、高ぶったファンの心を幸福で満たしてくれる。
みんなが幸せ。
務川慧悟のリサイタルでは、こんな瞬間がよく訪れるのだ。
地元の大切なしらかわホールで。
今夜は忘れられない一夜になった。

名古屋の街はクリスマスの華やぎ
メリークリスマス


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