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飛翔する若きピアノの巨匠たち<名古屋国際音楽祭 オープニング・ガラ・コンサート>

2022年5月20日愛知県芸術劇場コンサートホールは凄かった〜。名古屋国際音楽祭のオープニング・ガラ・コンサートに務川慧悟さんと阪田知樹さんという愛知県出身の二人の若きピアニストが共演! 同年齢で東京藝術大学の同級生、しかも2021年エリザベート国際ピアノ音楽コンクールで3位4位とともに入賞を果たし、その後も人気ピアニストとして国内外で目覚ましい活躍をしているお二人の共演!
演奏は名古屋フィルハーモニー交響楽団で会場は愛知県芸! 指揮は若手の旗手川瀬賢太郎さん! オープニング・ガラ・コンサートにふさわしい夢の公演になるのは間違いなし。

リハとか


この5月17日のツィートによりますと、まずその日に東京で務川さんと阪田さんが合わせ練習(ところでクイズ、Twitter民誰一人として間違えていないのが凄かった笑)。京都公演が15日だったから一日空けてというわけですね。そして17日に名古屋入り、18日と19日に川瀬マエストロ+名フィルとリハというスケジュールだったようです。

当日は会場でリハ。しかもその後? お一人で練習ー。

そして時間となりました。

シューマン:ピアノ協奏曲イ短調OP.54

第1楽章
華やかな雰囲気の会場はほぼ満席。みなぎる期待で客席はワクワク……いつもそんなこと書いているが、いや本当に今回も。
拍手とともに名フィルの皆さんが入場。今回のコンサートマスターはゲストの森岡聡さん。ピアノはスタンウェイのフルコン。
ソリスト入場! 颯爽と歩いてくる務川慧悟さん……え? 燕尾服!!! その瞬間頭がフリーズしたファンがなんと多かったことでしょう。いや私も思わず「え、燕尾服」と呟きましたもん。ええええええええ素敵。と混乱状態のファンを置いてけぼりに、マエストロの動き、Tuttiジャン! からのピアノ始まりました。ああああ、まだ混乱中(笑)。
ああ、やっぱり今回も最初のテーマソロをたっぷりと歌い上げている。いや素人の耳で申し訳ないんですが、務川さんの過去2回の演奏より柔らかく優しく聴こえる。まあJNOの時とオケの規模もホールも私が聴いている場所も異なるので、なんとも言い難いんだが、それでも前回までの演奏とは異なるものを感じましたね。というか正直、5月8日に聴いた務川さんシューマン1回目の演奏と15日に聴いた5回目でも随分違った印象を持ったのだが、今回はさらにまた違う印象。柔和な感じと流麗感が増しているように思えた。
それを思ったのが、レポート3で触れたカデンツァでの「418小節の8度跳躍したのに優しい」点だが、今回はというと、ああーさらに優しい。もうためらいすら感じる優しさ。
ここは再びペライア様で聴いてみましょう。 13:17あたりです。

川瀬マエストロはよりテンポをたっぷり取っている気がしましたね。しかし川瀬さんの指揮の美しさと軽快さ。腕を振り上げたり、指示与えたりする姿が颯爽としていて素敵だなあ。そしてマエストロに導かれる名フィルの安定した演奏、ピアノとのバランスもすごく美しい。
今回おおっと思ったのは、カデンツァ後の16分音符左手1+右手3つの16ビートで構成されるピアノが伴奏に徹するパート。すっかり溶け込んでいるのにとても美しく、でもしっかり前に出てきてカッコ良かったです(14:30あたりペライアも素敵ですね)。そしてまた言う、ラスト。ジャ、ジャ、ジャ、ジャン!

第2楽章
テンポが非常にゆったりしているように聴こえたのは気のせいだろうか。もう初日に感じたエスプリ風な雰囲気はなかった。もっと自然で、例えていうなら、雪解け始まったばかりの春の小川のよう。まだ水量も多くない小川の水が、春の兆しの柔らかな日差しの中あちらこちらで短く静かにふっと煌めく感じ。
会場で有料販売(500円)されていたプログラムの中で、務川さんはこの協奏曲について<いつも幻想を夢見ていた人>シューマンの心が大いに発揮されていると書いているが、両端楽章がまさにそんな感じで、第2楽章は穏やかさを重視したのかなあと、勝手に思った次第です。

第3楽章
そしてラスト! もうクララにしつこいくらいの愛を叫ぶ印象だが、意外にも長く展開的にも変化がないように聴こえる場面もある…ということで禁断のWikipediaを引用してみる。

第3楽章: Finale; Allegro vivace
イ長調、4分の3拍子。堂々と律動的な第1主題。華やかな曲想が作曲技術に凝りすぎだという批判を和らげている。ホ長調のヘミオラが登場する。不思議に落ち着いた演出をしている。管弦楽とピアノが時にオブリガートを互いに務めるという凝った構成である。終結はピアノのトッカータ的演奏と打楽器とが曲想を盛り上げる。
(引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/ピアノ協奏曲_(シューマン))

という細かな技の入った第3楽章(←なんつー省略)を駆使しつつ、気持ちをどんどん高めながら崇高な愛の世界へと盛り上がりラストの大告白からのエンディング! 
務川さんの演奏が美しい。そして緻密な完成度の高さ。前2回の印象は若者の真摯な姿だったが、今回名フィルと協演ということもあるけど、もっと洗練された感がよりアップしてた気する。でも進化とかそういうのでなく、私は最初の方の務川色濃厚のぐいぐい行く感じは衝撃的で好きだし、もっとエレガントにエスコートしますよ燕尾服だし的な今日の演奏も好きなんです。
しかし、これで務川さんのシューマンもしばらく聴き納めねと思うともう胸いっぱい。寂しくて仕方なかった。奇しくも今日5月20日はクララ・シューマンの命日。5月8日から約2週間で6シューマンの集大成の日と重なるなんて、もうまさに務川さんのためのシューマン週間だったみたい。そして私としては、初回と最終回を聴けたのが幸せだったなあ。
満場の拍手に何度も応え、出入りする務川さん。アンコールなしかあ。

阪田知樹さん演奏 グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調Op,16

同じくタキシード姿が素敵な阪田さん。
音楽性はもちろん超絶技巧の持ち主である阪田さんの魅力が技巧的なグリーグにとても合っていた。際立ち説得力のある音。特にクレシェンドをさらにもう一段と階段状に積み上げていく箇所などは、ゾクゾクするほどの緊迫感と爽快感でしたね。
そして夢のように美しい第2楽章は、オケの美しさの中でピアノが語り部となって展開していく様が本当に素敵でした。もう溜め息。
第3楽章は華やかに、そして迫力のエンディング。キラキラと強烈な光を放つ音楽。
阪田さんが乗りに乗った素晴らしいピアニストであることを再認識した演奏でした。大拍手。

モーツァルト:2台ピアノのための協奏曲 変ホ長調K.365(316a)

阪田さんプリモ、務川さんセコンドで。二人とも真っ赤なベーレンライターの楽譜を手に現れ、それを演奏しながら自分でめくるパターン。
オケの前奏の後、ピアノがイン。
二人とも優れたヴィルトオーゾであり、リハも重ねたということもあるからか、とても息の合った素晴らしい演奏でした。追っかけたり応答したり、時には張り合ってみたり。
しかし務川さんの楽譜のめくり方が相変わらずワイルドなんだよね。がっと掴んでバッとめくる。曲がっていても無問題。いいわあ。
さらに務川さんの左手ひらりんが絶好調で、本当に見惚れましたわ。多分場所合っていると思うが(笑)、第3楽章の最後のカデンツァで、右手一本で駆け上がっていくところ、左手でずっとテンポ取っていたのがすごく良かった、というかカッコよかったー。あの左手だけでも見に来て本当に良かったと思いました。←笑
オーケストラとのアンサンブルも美しかった。川瀬マエストロは両方のピアノに目を配りながら、とても良い雰囲気での演奏だった。
大拍手とスタンディングオベーション。ちなみに務川ファンがセコンド前の上手側になんとなく集結していて、みんなの愛の深さに感動した。

以上名古屋国際音楽祭のオープニング・ガラ・コンサートを振り返って見た。
さて務川さん今回滞在もいよいよ後半戦! 務川さんの鬼スケジュールはまだまだ続く。




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