ふくすけ観た
先週歌舞伎町タワーのミラノ座で松尾スズキの「ふくすけ」を観た。30年ほど前の作品で大人計画という劇団でやられていたのを再演したという形である。そのため脚本を現代用に7割ほど書き換えての上演となった。物語はふくすけという奇形児を軸にそれに関わっている人々の欲望と破滅、そういう不幸的なものをユーモア溢れるセリフと演出を多用し、それぞれの登場人物たちがカオス的に物語を交互に展開していくというストーリーは捉え難い作品だったのだが、とても面白く観ることができた。
個人的に笑いや演出の派手なミュージカル的な要素が多い作品は好みではなかったのだが、松尾スズキの演出するそういう要素は面白かったし、やられたなという感じが否めない。自分は古典演劇とか歴史的なものは皆目わからない人間であるのだが、そういう伝統的なものをオマージュしていそうだという雰囲気は感じることができるし何よりも世代を超える面白さというものがあったのだと思う。
今回の作品は役者の方の演技、それに見入ってしまった。こういう形で役者に見入る作品、というより見させる役者の方の演技を今まで観てこなかったのだなと思った。個人的により身近な小劇場の演劇作品を観ることが多かったのであるが、そこに出ている役者の人で今回の作品に出ている役者のような演技をする人は観たことがない。これが本物のプロというものかというのを思い知らされた。今回特に注力して観ていた俳優は阿部サダヲである。あともう1人松本穂花という女優さんも謎の同い年意識ということで注力してみていた。
まず松本穂香はアイドル的雰囲気を纏った方だと思った。声が住んでいて、今回風俗嬢(ギャル)役というのもあって可愛げが出ていた(出していた?)と思う。多分映像の方の演技を中心にやられている方だと思うので、発声や動きは小さい印象があったのだがそれが本当にこの人物はギャルであるのか?という疑問を抱かさせた理由であろう。私は普段歌舞伎町の方でギャルと言われるであろう人を何人も見てきており、ギャルに関しては一応のいわゆる見る目というものを持っていると思うのだが、松本穂香のギャルはそういう意味でも面白かった。絶対に風俗では働いていないのである。これは役者としては良くないというかとかもしれないのだが、風俗嬢を実際にやっているかやっていないかわからないアイドル的ギャルという現実には存在しようもない世界で唯一無二の人間を観ることができたという点において一観客者として満足しているのである。
阿部サダヲ。この人に演技の面白さというものを今回教えてもらった。ドラマや映画で活躍されている印象があるのだが恥ずかしながら私は阿部サダヲの作品をおそらく今まで一度も見たことがない。予告とか番宣のイメージ、なんとなく明るくて元気のいいとても有名な俳優さんというイメージを抱いていたと思う。それが今回とんでもない誤解というか、ちゃんと生で見ない限りにおいて安易に俳優の名前を言ってはいけないなとも思った。私は今回この人の演技を一挙手一投足見逃すまいと心に誓い、演技をみていた。どちらかというとわかりやすいというか、動きが的確で大きく、発声も良くお手本のような演技をされているとは思うのだが、だがしかし、それが結局一番魅力的なのではないかと思った。そして一番勉強になったのは、心から演劇を楽しんで演技に対して自信と自負を持って演技するということがこれほどまでに心に刺さる演技になるということであった。私が生涯忘れもしないワンシーンになるであろう、阿部サダヲが女性看護師の左足ストッキングを破りさる場面。これほどまでに人を感動させるひとシーンを同じ人間が作ることができるのか、この女性のストッキングを破るシーン、言葉にすればなんと卑猥な、慎め!とでも言われんばかりなのであるが、このシーンはイエスキリストが復活を果たしたあの名場面、それに匹敵するのではないのかと言ってしまいたくなるのであるがどうであろうか。
この1週間ふくすけと阿部サダヲについて考えに考えていた。ちょっと最近は演劇を休もう、お金もないしせっせか働こうと思っていたのであるが、いかんせんこんなものを見せられたのであったは落ち着いていられない。出演していた俳優さんの事務所などものぞいてみたが全て年齢オーバー、そして大人計画のホームページで見た阿部サダヲ率いるメンバーが9月にライブをやり、それにアルバイト募集の文字!!さっそく大人計画に電話をかけた。
「もしもし、9月に行われるライブのアルバイト募集を見てお電話させていただいたんですけど、現在も募集の方されていますでしょうか?」
「9月のグループ魂のライブですね。こちらアルバイト募集というのはライブのタイトルになっております。」
「あ、そうだったんですか…失礼しました。」
「いえいえ、それでは失礼いたします。」
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