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代表の笹倉栄人が語る「今後のヘルスケア業界における起業のポイント」 ~後編~

創業時の3つの失敗

一つ目の失敗は、「人材投資のタイミングを間違えたこと」である。
創業時の笹倉さんは、商品が”売れ始めた”段階でセールスマンやエンジニアを一気に雇い、2000万円の人材投資をおこなった。たしかに、100施設あるうちの10施設に顧客が入り始めると”売れている”と勘違いをし、人材投資に踏み切る気持ちに大変共感できる。だが、顧客が未だ安定していない段階での人材投資は、キャッシュフローの悪化を後押しし、事業規模の縮小に繋がってしまった。
この経験に対し笹倉さんは、PMF達成の設定を誤解していたことが投資タイミングを間違えた真の失敗原因だと分析した。創業時の笹倉さんは、PMF=顧客が入り始めることだと認識し、本来は「事業化(”売れている状態”)」のフェーズに設定されるべきPMFを「製品化(”売れ始め”)」に設定した。それにより、長期的な視点で製品の販売計画を行うことができず、「事業化」に辿り着けなかったそうだ。彼の失敗経験談は、PMFの正しい認識を学ぶ機会になり、何より、実体験をマーケティングの視点から捉えて改善点を分析するビジネスマンとしての姿勢を教えてくれた。

二つ目の失敗は、「多機能を目指したこと」である。
”起業家”と聞くと、”アイディアマン”という連想ゲームができると思う。もちろん自由な発想がビジネスチャンスを広げるプラスの側面もあるが、多機能を目指すことで不便なシステムを作ってしまう課題もある。特に、笹倉さんの場合は、機能開発が顧客の増加に繋がると信じていたことも相まり、機能開発費が膨れ上がってしまった。
笹倉さんが講義中に用いたスタートアップ企業とGoogleなどの大企業との比較は非常にわかりやすい。それぞれの企業規模に見合った機能数に設定しなければ、投資回収バランスを悪化させてしまうのだ。だからこそ、笹倉さんは顧客の増加していく成長角度を作ること、また顧客のバーニングペインを知る必要性を強調し、その話の一貫性に非常に納得できた。さらには、彼のみならず、どの起業家もバリュープロポジションを大切にしていると話す。製品の特徴と顧客のニーズが合わさる交点を見つけることで、事業規模に見合った目標を見直すことができるという。

三つ目の失敗は、「リードタイムが長くなってしまったこと」である。
市場ニーズがあると事業成功に繋がると思いがちであるが、必ずしもそうとは限らない。意外にも、ペインやニーズに応えた製品でも、思ったスピード感で売れないものや決裁者と利用者が異なることで予算が取れないものが出てきてしまい、計画が大幅にズレることがある。そして、それは”スピード勝負”のスタートアップ企業にとって命取りとなってしまう。笹倉さんはプロダクトサービスを作る際、製品の品質や目的、競合優位性、蓋然性を意識する着眼点を持つことで、リードタイムとビジネスモデルの調和を保つことができると話す。
講義中、彼はこう問いかけた。その製品は、魅力的品質か?当たり前品質か?無料なら売れるのか?有料でも売れるのか?他と切り離されたサービスか?顧客の現実の少し先の未来か?決裁者の課題を解決するものなのか?これらの問いかけの答えを首を長くして待っていたのだが、実際には自分で見つけるしかないそうだ。それぞれの事業において、自分自身で答えを把握して事業戦略を組むことこそが、事業を成功させる秘訣であるらしく、ここでもやはりバリュープロポジションと似た考え方が大切になることに気づいた。

最後に、今後の医療系スタートアップの展望として、医療制度やマーケットの変化を捉えながら事業を作り上げていく必要があると語った。いかにリードタイムを短縮できるか、ARPU(1ユーザーあたりの売上高)を向上できるか。また、B2Bであれば相手側の収益性を、B2Cであれば利便性を考慮し、ネットワーク効果が強い医療健康業界の構造をうまく活用することが起業を成功させる最大のポイントである。

当時の失敗を踏まえ、自らを反面教師として熱く語る笹倉さんの言葉からは一つ一つに重みを感じられる。この記事を経て、”ヘルスケア業界の未来を明るくしたい”という彼の想いに共感する人が少しでも増えればと思う。


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