Steel Wheels

アルバムが出るまで

スティール・ホイールズは、1989年にリリースされたローリング・ストーンズ(以下、ストーンズ)のアルバムです。ストーンズのアルバムで一番の傑作、というわけではないかもしれませんが、個人的には一番思い入れがあるストーンズのアルバム、と言っても過言ではないような気がします。
ちなみにそのうち、どこかに書きますが、89年は思いつくだけでも、ポール・マッカートニー、エリック・クラプトン、トム・ペティ等など「当たり」のアルバムが量産された年です。
このアルバムが出る前、ストーンズは解散の危機にありました。キース(リチャーズ)曰く「第三次世界大戦」ってやつです。まあ、キースが麻薬から抜け出して、ミック(ジャガー)と一緒にストーンズの舵取りをしていこうとしたら、もう一人で切り盛りすることに慣れてしまっていたミックとうまくいかなくなって…という感じでした。そして、CBSレコードと契約した際にミックがソロ・アルバムを出す契約を「抱き合わせ」でしたことも原因のひとつです。
86年にアルバム、ダーティ・ワークをリリースした時もツアーに出ず、ミックはソロ・アルバムを出して、日本とオーストラリアへツアーに出てしまい(東京ドーム、行きました!サントリー・ドライビア・ライヴ…)、しびれを切らしたキースもソロ・アルバムを出して、ツアー…という先が見えない状態になり、このままストーンズはフェードアウトしちゃうのかなと思ったりもしました。
ところが89年になって、ミックとキースが和解(まあ、前年にバンドでミーティングをしていましたが)。5週間という彼らにしては、物凄い短期間でレコーディングが完了してツアーへ出て、初来日…という流れでした。

初めて楽器を手にしたような…


ボクは当時、浪人生でしたが、このアルバムは出てすぐに買いました。ちなみに、この頃はレコードからCDへの過渡期でボクはこのアルバムが国内盤はレコードが出ないことを知って、CDプレイヤーを買いました。
さて、肝心の中身ですが、一曲目の「サッド・サッド・サッド」のイントロからラストの「スリッピング・アウェイ」まで、「そうそう、こういうのを待ってたんだよ!」と感嘆符をいくつでも付けたくなるような感じで聴いたものです。なんというか、再生したというか、初めて楽器担当持った時のような初々しさというか、すごく新鮮に聞こえました。まあ、今、思い返すと夏からツアーに出るから、アレコレ曲をいじくり回していない(曲の展開ができなかった)…感じもしなくもないですが(苦笑)。でも、それで大成功だったのでは。
特に、一曲目〜二曲目への流れがたまりません。まず、ミックが弾くギターで始まる「サッド・サッド・サッド」。タイトルがまずカッコいい。アルバムの幕開けにぴったりの曲です。
そして、二曲目の「ミクスト・エモーション」はそれまでのミックとキースの不仲をサカナにした歌詞にも泣かされました。このアルバムのツアーに合わせてリリースされた彼らの歴史を振り返るヴィデオ(25×5)で、この曲の制作シーンが出てきますが、「もっと見ていたい!」と思わされました、ハイ。このアルバム発表のニューヨークで記者会見した時に、AIWAのラジカセでこの曲を流していて、ホンの何秒かなんだけど、ヴィデオに撮って何度も聴いたなぁ。この曲を最後にトップ10ヒットから遠ざかってしまっていますね。
ミックはシェイクスピアみたいな詩を書く…とはキースの言ですが、「ロック・アンド・ア・ハード・プレイス」(スティール・ホイールズはこの曲の仮タイトルらしいです)なんかはその典型かもしれません。曲も古典的なロックというよりも、もっとポップな感じだし。ギターリフの間を縫って歌うミックがイイですね。来日時のポカリスエットのCМでも使われていましたね(来日公演でスタッフがポカリスエットの上着を着ていたのが印象的でした)。
キースのヴォーカル曲二曲は、ヴォーカル面でソロでの成果が出ていると思います。特にバラードの「スリッピング・アウェイ」は絶品。中程でミックのバッキング・ヴォーカルがたまりません(どうして、キースのバッキングにまわるミックはこんなに素晴らしいのでしょう)。アルバム「ストリップト」のヴァージョンもイイですが、軍配は完全にオリジナルのヴァージョンに上がります。
ちなみに「キャント・ビーン・シーン」ですが、ストーンズでの…ということですが、キースのヴォーカル・ナンバーということで言えば、この曲以降、ストーンズでの彼のヴォーカル・ナンバーはスローかミディアム・ナンバーばかりになりましたね。
バラードといえば、「オールモスト・ヒア・ユー・サイ」も好きです。作者クレジットをみると、スティーヴ・ジョーダンの名前があるので、キースのソロ・アルバム制作時のモノなのでしょう(海賊盤でキースがハミングしているヴァージョンがありますし)。間奏でのキースによるクラッシック・ギターも素晴らしいです。この曲もですが、イントロがチャーリー(ワッツ)のドラムってイイですよね。もちろん、ギターリフで始まるのも悪くないですが。歌詞が当時のボクの置かれていた状況と重なるところがあります。
ボクは例えば、「メインストリートのならず者」や「女たち」がリリースされた時にリアルタイムで聴いていないファンです。リアルタイムで聴いたニューアルバムということで言えば、とにかくこのアルバムの興奮度はものすごかったです。去年出たニューアルバムも双璧ですが。
そして、ビル・ワイマンが参加した最後のレコーディング・アルバムですが、不参加の曲もあります。それらの曲ではロニー(ウッド)がベースを弾いていますが、ジェフ・ベック・グループの時のプレイを思い起こさせるような、つぶのデカいプレイを聞かせてくれます。
「ホールド・オン・ユア・ハット」も初めて聴いた時はビックリしました。(たぶんキースが)リード・ギターをここまで弾き倒している(って表現、ヘンですね)のに驚いたし、こんなハード・ロックっぽいのをやるんだ…と。チャーリーのドラムも凄くパワフルです。
「ブレイク・ザ・スペル」は当時、浪人生だったボクは「呪文を解く」ってフレーズをコレで覚えました(笑)。この曲もベースはロニーですが、イイですね。ひしゃげたミックのハーモニカもたまりません。
他の曲も魅力的です。「ハーツ・フォ・セール」のリフは時々、頭から離れないことがあります(笑)。
「テリファイング」は当時、これまでなかった曲に聞こえました。ミックのソロに入っていてもおかしくない曲ですね。サビのパーカッション、マイルズ・デイヴィスを思わせるトランペットがイイですね。
「ブラインデッド・ラヴ」のカントリー風味の枯れ具合もホノボノします。歌詞がイイですね。
それから「あの」、「コンティネンタル・ドリフト」も含めて、聞き手を飽きさせません。アウトテイクの曲もです。何曲かはシングルのカップリングでリリースされましたが。ミックとキースのソロの成果を持ち寄ったのが、よくわかるアルバムです。
このアルバムがリリースされて、ツアーがあって、その後にソロ活動があって…というルーティンができたのも大きい。ファンも安心していられるようになりました。
ただ困ったのは、このアルバムくらいから、このアルバムだとスティールケース入りのブツのモノがリリースされたり、1枚のアルバムを複数枚買わせる商法が始まったことです(苦笑)。ま、無視すればいいのですが(つい買わずにはいられないバカなのです、ボク)…。
とにかく、まだ聴いたことがない方、ぜひ聴いてみてください。


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