『呼気(息)の感染リスク』は、実はまだよくわかっていない。
私はマスクの効果に興味があるんですが、その中で長いこと気になっているのがタイトルのようなこと。
新型コロナにおける呼気(息)の感染リスクはどの程度なのか?
というのも、呼気(息)のリスクが高いなら、ユニバーサルマスキング(みんなが着けることでリスクを下げる)の効果はほとんど期待できなくなると思うんですよね。運用実績から考えると漏れ率が高いので。
◇◇◇
で、最近目にした論文で『呼気(息)の感染リスクは低そう』と再認識したので次回取り上げる予定ですが、今回の記事では『そのあたりのことは実はあまりよくわかっていない』ということをまとめておこうと思います。
なお、本記事中での『息』は通常時(安静時)の呼吸により排出されるものを前提とします。
◆息の感染リスクは低い?
まず、息と会話で生じるエアロゾルは異なる性質を持つ(量的、質的に)という観点は重要でしょう。
単純に考えれば会話では粒径が大きいものは出るし量も多いし排出源は口の唾液なり上気道。息の場合はその逆。
ある実験では以下のように、Breathing,Talking,Singing で排出されたエアロゾル粒径毎のウイルス量が測定されており、息(Breathing)のリスクが相対的に低いことを示しています。
しかし、この研究はN=1(サンプル数:1人)で、感染性まで確認されてないのが残念。結果は私の推測を裏付けるものですが、もっとサンプル数が欲しいですね。
◆息の感染リスクは高い?
逆に呼気の感染リスクが高いと主張している人はいます。
論拠として以下の記事(オミクロン株感染者の呼気中のウイルス量は多い)が引用されていましたが、内容には注意が必要です。
記事中で『採集された検体には、呼吸、会話、叫び、咳の他、くしゃみによって排出されたものさえ含まれているのです』と指摘されており、息の切り分けは出来ていません。レビュー記事やプレプリントではなく査読後のものを確認しましたが、たしかにそんな感じ。
また、感染性(培養成功)は確認されているものの、5μm以下のエアロゾルの場合、3/31例と少ない割合(10%程度)です。
しかし、この研究の実験装置ではエアロゾルが過度に乾燥されている可能性があり、結果の解釈は注意が必要。過小評価かも。
◆リアル環境について
個人的な推測だと息の感染リスクは低い。
リアル環境から考えてもそんな気がする。
たとえば、都道府県ごとの電車利用率とコロナ感染率を比較した結果、強い相関があるようには思えない。会話の頻度が低い通勤電車内は感染リスクが高いわけではなさそうという推測。(息での空気感染リスクは低い)
ただし、都道府県の違いは他の変数がデカイので、こんな雑な考察はあまりあてにならない。
とはいえ、社会全体の実感としても、コロナが息で容易に空気感染するようなものであればこの程度では済んでいない気がするんですよね。私の勤める会社内でも二次感染は防げていますし。
◆マスクの効果
ということで、会話等により生じるエアロゾルのほうが明らかにリスクが高いという場合(量的、質的にも)、排出源がマスクを着用することは意味があるでしょう。
これまでの研究結果によると、マスク着用により会話で排出されるエアロゾルは大幅に減少します。
ただ、個人的にはシミュレーションや実験環境の結果はそれほどあてにしてないので、スイスの中学校での研究みたいなリアル環境での実績データがもっと欲しいところ。
とはいえ、この手の研究だと結構バラつきが大きそうなので、もっと限定した状況、たとえば閉鎖空間で10人でハッピーバースデーを10回歌った結果(マスクあり・なしで)とかのほうが信頼性は高そう。
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ちなみに、マスクの漏れ率は高いですが、吸い込みと吐き出しで異なる機序になるので、吸い込みでの漏れ率が高いからと言って会話により排出されるエアロゾルが同等の漏れ率になるわけではないです。どのような指標で評価するのかによるでしょうけど。
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まあ『マスクを着けていても無意味となる閾値』みたいなのを仮定した場合、それが非常に低いなら実際に無意味かもしれません。そういう状況もあるでしょう。
しかし、最近注目された航空機内での感染リスクに関する研究によると、飛行時間が長くなるほどリスクが増加することを示しています。やはり曝露量を抑える(環境への排出を減らす)ことには意味がありそうです。
以下、論文リンクです。精査はしていません(出来ません)。
◆おわりに
以上、『呼気(息)の感染リスクは厳密にはまだよくわかっていない』についてまとめました。よくわかってないのは私くらいかもしれませんので、良い論文をご存知の方は教えてくれると嬉しいです。
記事中でも書いた通り個人的にコロナは空気感染という認識ですが、その区分け・定義付けはそれほど意味があるとは思えませんし、マスクが無意味とは思いません。隙間を減らして着用することで曝露量を減らせますし、ルーズであっても排出源が着けることで環境のリスクを減らすはずなので。
マスクはTPOで有効活用したいものですね。
なお、次回取り上げる予定の論文は以下です。興味のある方はどうぞ。
[2024.06.03 追記]
続編記事はこちらです。よろしければどうぞ。
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