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マスクのPFE99%とは一体なんなのだろうか?

どうもこんにちは。
マスクオタクです。

前回の記事で予告したとおり今回はPFEへの疑念を書く。

PFEとは微粒子濾過率であり、マスクの有名な性能指標のひとつだ。

どうもそれが疑わしい。
ということはマスクが疑わしい。

◇◇◇

なお、これを書くことはいわゆる敵に塩を送る行為、すなわち、邪悪な反マスク勢力への有力な情報提供となるであろう。しかし私は今やマスクを漫然と推奨する勢力も同様に邪悪な者どもだと見なしており、つまり人間に失望したデビルマンのような悲しき存在になってしまったためどうなろうが知ったことではない。言いたいことも言えないこんな世の中に
デビル!チョーーーップ!!!

◇◇◇

冗談はさておきPFEという指標がなんとなくグレーなのは本当だ。

シンプルに要点を言うと『PFE99%の99%は実際もっと低い可能性がある』ということになるが、その理由は試験条件が緩いからだ。

それについて今回の記事で説明するが、長いしマニアックな内容なので興味の薄いかたは『◆おわりに』まで飛ばすのを推奨する。


◆一般的なPFEの解釈

まずPFEについておさらい。
前回の記事に載せたものを再掲する。

PFE
PFE(Particle Filtration Efficiency)とは、「微粒子ろ過効率」という意味です。約0.1μm(マイクロメートル)の粒子をどれくらいろ過できるのかを表しています。「PFE99%」は、約0.1μmの粒子を99%カットできる、という意味です。

PFE・BFE・VFEとは? - 株式会社パイオニア・システム.html
[2024.07.02 引用]
https://pioneersystem-inc.com/what_are_pfe_bfe_vfe/

この説明は誤りではない。私も結構前までこれで納得していた。

しかし、これだけだと試験条件が示されていないため解釈の余地が残る。


◆『カケン』によるPFE試験

一般的にマスクでのPFEは『カケン』が試験を行っている。マスクメーカーはカケンに依頼して試験結果をもらうことになる。もちろん有料。

PFEの試験内容を超大雑把に説明すると『筒状の流路の間に試料(マスクフィルター)を挟み、一定流量の中、試験粒子を投入しどれだけの割合を濾過するか』という感じであっていると思う。

さて、カケンのサイトからPFEの試験条件について気になる箇所のみ引用する。試験で用いる粒子の部分だ(太字は私による)。

 ラテックス微粒子を用いた医療用フェイスマスク材の捕集効率試験であるASTM F 2299では、0.1~5μmの粒子が規定されています。一般的には0.3μmの粒子が最もマスクを通過しやすいとも言われているため、当センターでは0.3μmの粒子でも試験が可能です。ご依頼の際は、「0.1μm」または「0.3μm」の粒子径をご指定下さい。

ASTM F 2299では、粒子を除電して試験を行うこととなっておりますが、一般的な医療用不織布マスクの多くは、意図的にエレクトレット(帯電)加工して捕集効果を向上させているため、粒子の除電をせずに試験を行うことが主流です。ご依頼の際は、「除電あり」または「除電なし」をご指定下さい。

微小粒子捕集効率(PFE)試験(JIS T 9001・ ASTM F 2299) _ 一般財団法人カケンテストセンター.html
[2024.07.04 引用]
https://www.kaken.or.jp/test/search/detail/98

◇◇◇

上記からすると試験で用いる粒子の径と除電有無は依頼側が選ぶことができる。

マスクフィルターの機序からすれば静電気での濾過は重要だから、条件として『0.1μmで除電なし』のほうが良い結果が出る。なので、性能試験としては逆の『0.3μmで除電あり』で試されるべきであろう。N95はそっち寄りだし。

しかし、選ぶことができるようだ。

◇◇◇

ちなみに、試験流量と試験面積が不明だが、試験報告書を公開しているメーカーの情報を確認したところ以下のような記載があった。

・試験流量:28.3L/min
・試験面積:49cm2

他のメーカー含む合計5個の試験報告書を見たが上記は共通していた。どうやら流量と面積は固定のようだ。(正式には不明)

実際にこの条件が妥当なのかというと、N95の条件と比較するなら結構悪くない気がする。

◇◇◇

ということで、カケンによるPFE試験の主要条件をまとめると以下のようになる。

・粒子:PSL(ポリスチレンラテックス)粒子
・粒子径:0.1μm,0.3μmどちらか選べる
・粒子の除電:有無が選べる
・流量:28.3L/min
・面積:49cm2

この中で特に問題になるのは粒子の除電だろう。検査実績からしても『除電しない』が業界標準になっている感じがあるため、PFEは過大評価されている可能性が高い。


◆除電の影響

試験粒子が除電されないことへの懸念は論文でも示されていた。重要箇所を抜粋引用する。除電なしの場合、結果が過大評価されることを示している。

Sci Rep. 2021; 11: 21979.
Published online 2021 Nov 9.
doi: 10.1038/s41598-021-01265-8

市販のレスピレーターとフェイスマスクの粒子ろ過効率試験法の体系的な実験的比較

図6は、100 nmのPSL粒子とNaCl粒子における粒子電荷の重要性を示している。図の左から1番目の棒(灰色)は、セットアップから中和剤を取り除いた実験を示している。したがって、帯電していない粒子の割合はごくわずかであり、すべての粒子が人為的に効率を高めてろ過された。2番目の赤いバーは、正しく測定された(中和された)濾過効率を示している。左から3番目と4番目のバーは、中和剤の後にDMAを挿入し、それぞれ+1または-1の電荷を持つ粒子を選択した実験を表しています。PSLの場合、+1または-1電荷粒子は、中和剤なしの場合と同様の効率でろ過された。これは、NaClのGSDが高いため、濾過されやすい多価電荷(より大きい)粒子の重要性が高まったためである可能性がある。これらの多価電荷粒子は、我々の実証実験の範囲を超えた装置的なアーチファクト54を表している。最後に,5番目のバーは,中和器の後に電気集塵器を挿入して,帯電粒子をすべて除去した実験を示している。予想通り、帯電していない粒子は最も低い効率で濾過された。静電析出が当初の高い濾過効率に大きな役割を果た していたからである。最後の実験では、NaClとPSLの間にわずかな差があったが、これはおそらくNaClの密度が高い(MMADが高い)ためであろう。

図6

粒子の電荷がろ過効率に及ぼす影響(粒子直径100 nm、面速度5 cm2 s-1)。中性粒子(「電荷なし」と表示)は、ろ過媒体にイメージ電荷を誘導しないため、最も効率的に捕捉されない。中和 "と表示された赤いデータは、大気中で自然に到達する電荷平衡(35%ゼロ電荷、25%+1、25%-1)にあるエアロゾルに期待される効率である。中性のNaClのろ過効率は、移動度直径100nmの中性のPSLのろ過効率よりも低かったが、これはNaClの密度が高い(MMADが高い)ためと考えられる。

これらの実験から、マスクの検査基準には、粒子発生段階の後に中和剤を設置することが必要であることがわかる。疾病伝播の観点から、呼吸器飛沫も高電荷を帯びている可能性があると主張されるかもしれない。我々は、そのような飛沫の電荷を特別に測定した研究を知らない。しかし、呼吸器飛沫は唾液と気道粘膜液から機械的に生成されるため、ネブライザーで働くのと同じ機械的プロセスがこれらの飛沫にも適用され、帯電した状態で放出され、後に自然の大気イオンによって中和される可能性があると予想される。したがって、中和されたエアロゾルを用いた実験室試験は、より保守的な結果となる。さらに、自然の呼吸液滴が最初に帯電していたとしても、異なるネブライザーによって生成されるエアロゾルの帯電は大幅に異なる可能性があるため、異なる試験所間で比較可能な明確な結果を得るためには、どのような実験室試験でも中和器を使用しなければならない。

Systematic experimental comparison of particle filtration efficiency test methods for commercial respirators and face masks - PMC.html
www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。
[2024.07.05 引用]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8578374/

◇◇◇

上記をシンプルにまとめると『粒子の除電(中和)を行わない場合、効果は過大評価となる。また、検査手順の細かな違いが結果に大きな影響を与える可能性がある』という感じだろう。つまり決まったプロセスで除電(中和)するのが望ましい。

数値としては図中の赤いバーがリアル環境に近いようなので、PSLの場合、PFEは10%くらい過大評価されている。使用粒子がNaClであれば誤差程度かもしれないが。

◇◇◇

ちなみに、日本では流量、面積の条件が固定っぽいが、基の規格である『ASTM F 2299』では明確に示されていない。そうなってくるとPFEという指標は各国で恣意的な運用がされている可能性がある。そのあたりの懸念は以下でも示されている。

・サージカルマスクの粒子ろ過効率(PFE): 規格の更新が必要
(PFEについての曖昧なガイドラインを懸念している。試験流量と面速度についての説明がわかりやすい。)


◆おわりに

ということで、マスクのPFE(微粒子濾過率)は実際はもっと低い(かもしれない)ので『静電気で99%濾過するから!』と強く主張している人は注意したほうがいいだろう。私のようなマスクオタクが相手ならデビルチョップを食らう可能性がある。

ちなみに、記事中で『実際は10%くらい低いかも』と書いたが、もっとヤバイ可能性はある。除電有無両方の試験をおこなったマスクの結果によると30%以上差があった(迷惑になる可能性があるのでソースは言及しない)。ものによる違いはおそらく大きい。

マスクを使っている方はお気をつけて!

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