日本は本当に医師過剰になるのか?

これはUSMLE関連とは全く違う話です。最近、日本は2035年には医師過剰時代が来るという予想がよく言われている様です。医師たち自身が日本の医学部の定員を減らすなどという取り組みをし始め、さらに医療費を削減する方向にあるようですので、若い医師たちが以前よりもっと身近に美容外科などの保険外診療を進路の視野に入れ始めているような気がします。

最初のリンク先からとってきたグラフがこちら。2040年は人口10万人対で医師数350人ということは人口1000人対で医師数3.5人ということですね。

本当に医療費は高すぎて、医師は過剰なのでしょうか。

アメリカの一人当たり国民医療費は11172ドル(2018年)(1ドル百円としても1117200円)、日本の一人当たり国民医療費は343200円(2018年)。アメリカは日本の3倍。2018年のデータを出したのは2018年までしか日本の統計のホームページになかったためですが、アメリカはさらに2022年13493ドルと増大していました。同じ年の対GDP比での保険医療支出は日本10.9%、アメリカ17.6%。G7の中では日本はほぼ平均です。

この資料にもあるし、それからOECDの統計にもありますが、日本の人口あたりの医師の数は世界と比較しても多いわけではありません。実は世界の中ではむしろ一番低いゾーンに入ります。(リンク先では下から6番目ですね。)

このグラフを見たら日本が人口1000人あたりの医師数3.5人になったところで、ようやくフランスと並ぶくらいです。

外国人医師どうしで話したとき、「日本は将来医師過剰になると言われているんだよ」と話すと驚いた顔をして「それは本当なの?これ見て。」と見せられたのがこのOECDの医師数の統計のグラフでした。

リンクを貼った資料の中にもありましたが、人口あたりの病床数は日本はかなり多い方に入ります。また、アメリカでは、開業医も予約して受診します。なのでプライベートクリニックの外来の受診患者数は20人程度、対する日本の開業医の1日あたり受診患者数は40人程度と倍です。低い医師数で多くの患者数をケアしていて医療費をG7の各国と同様に抑えているというのが日本の現状で、世界の統計からみても日本の医師たちはかなり頑張って治療にあたっているような気がします。日本の医師の年収が高い様に言われていますが、世界の医師の年収をみると医師年収/国民年収の比率を見ても決して世界的に見て高いわけではないと思いませんか?各国のまとまった医師の労働時間の表などは見つけきれませんでしたが、労働時間あたりのことを考えたら日本の医師の年収は逆に低いのではと思います。(日本の医師の週あたり労働時間 vs アメリカの医師の週あたり労働時間)こういった資料を眺めると、なぜドイツで医師はワークライフバランスをとりやすいのか納得がいきます。

医師過剰時代というには、医療の進歩による業務の細分化、地方の医師数の不足、緊急の対応の多い過酷な労働を強いられる科では実働部隊として働いている医師が決して足りていない状況、医療費を削減した結果保険外診療へ流れ込むだろう医師の数など、深く考慮に入れられていない要素が多いと個人的には思います。よくこれだけの状況で日本人医師たちは医療の進歩についていき、細やかに患者さんのケアをしながら論文を書いたり学会発表したりして専門医を新専門医制度にのっとって維持する様に頑張っているな、と改めて思いました。医師過剰だと将来医療の質が下がる、などと懸念する声も聞いた声がありますが、あまり医師数を削減し医療費を削減することは異なる方向での質の低下へ繋がる恐れもあります。

1980年代にサッチャー氏が医療費を削減した結果、イギリスでは中近東出身の医師が40%を占める様になり(実際にOETの時に一緒に勉強したIMGたちからの情報では現在も中近東からイギリスへという流れは健在のようです)、入院も1年待ちという状況だったため、ブレア氏が2000年に医学部定員を50%増にしたというのは有名な話です。

コロナ後、グローバルに情報を手に入れやすくなった今、日本でも若い世代では諸外国のライセンスにチャレンジする医師たちがどんどん増えてきています。または海外で働こうとする看護師や他の医療従事者も増えてきています。日本の医学部で学んだ若い世代が海外へ流出し、将来的に日本で働く医師の半数が外国人医師になる可能性もありうるかもしれません。そもそもイギリスのように英語圏の国は参入しやすいでしょうが、日本語以外は使用しないカルチャーの中で、外国人医師が参入するのもかなり大変だと思いますし、現在のように円安が進むとさらに外国人医師も日本で働くことに抵抗を覚えるでしょう。そうすると決して医師過剰になるとは思いづらいのです。

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