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瞳の奥に見えるもの

TBSドラマ「最愛」に激ハマりしております。
梨央と大輝が離れていた15年の間にこんな事もあったのでは…
そんな事を思って書きました。

彼と初めて会ったのは友達に誘われて行った飲み会の席だった。

仕事の忙しさから元カレと徐々にすれ違って別れて1年。1人の週末、1人で食べるご飯にも慣れて「こんな生活も気楽でいいかなぁ」と思い始めた今日この頃。
本当は誘われた飲み会もめんどくさいから…と断るつもりだったけど、学生時代からの友人に「お願い!誘った子が急に仕事で来れなくなって…
ただいてくれるだけでいいから!」と頼まれて仕方なく顔を出すことにしたのだった。

「里穂こっち、こっち!」と手を振る友人を週末で賑わう店内に見つけて歩み寄る。
「お待たせしてすみません…」と挨拶もそこそこにテーブルにつくと、「飲み物何にします?」とそっとメニューを差し出したのが彼だった。

「えっと…とりあえずビールお願いします。」と言うと、彼は店員さんを呼び止めて注文してくれた。
彼と、彼の先輩らしき人、私の友人、私の4人で乾杯する。
今日の飲み会は、私の友人と最近知り合ったという彼の先輩が企画したらしく、グラスを重ねるうちにその2人の会話が盛り上がっていく。

私は2人の会話に適度に相槌をうちながら、運ばれてきた料理をどんどん食べお酒を飲んでいた。
ひとしきり食べて飲んで、少し落ち着いてからようやく目の前に座っている彼に目が止まった。
積極的に話に参加するわけでもなく、でも退屈そうにするわけでもなく時々小さな笑い声をあげながら、会話が弾む2人を見つめる優しい眼差し。

運ばれてきたピザを皿に取ろうとしていると、突然彼の先輩に「ねぇ、ちょっと聞いてよ!」と話しかけられた。

「こいつさ結構モテるのに、学生時代に好きだった子をずっと忘れられなくて、彼女が出来ても最後は結局フラれちゃうんだよ。
今どき昔好きだった子をずっと思い続けてるとか珍しくない?」
少し酔っ払った先輩は遠慮がない。

そんな先輩の話に少し苦笑しながら
「俺はモテませんよ。それに忘れられないって…それはもう終わった話です。」そう言いながら彼はグラスに残ったビールを飲み干した。

「もう終わった話」彼はそう言ったけど、少し寂しそうに見える彼の目がまだ終わってない事を物語っている。
その彼の目を見た瞬間、チクッと胸が痛んだ気がした。
何だか彼が気になる…。
その気持ちを隠すように里穂は
黙って箸を運びグラスを傾ける。

「もうっ!里穂!食べてばっかりじゃなくて、少しは里穂も何か話したら?
この子、彼と別れて1年になるのに全然男っけなくて」と少し呆れて友人は先輩に嘆く。

「えっ、里穂ちゃん今フリーなの?」先輩が興味を示した。
気のせいかもしれないけど「里穂」と呼ばれる度に、彼がチラッとこちらを見ている気がする。

「いや、私は恋愛はしばらくいいです。今の生活が気楽なんで。」
そう断言すると先輩は「里穂ちゃん可愛いのになぁ」と残念そうにビールを飲み干し、友人と話し始めた。

友人と先輩の話は益々盛り上がり、私と私の目の前に座る彼は会話から取り残されてしまった。
気まずい空気を誤魔化すように、私は誰も手をつけてない皿から料理を取り分け黙々と食べる。
ふと視線を感じて顔を上げると彼と目が合った。

「あっ、すみません…。私一人で食べちゃって。これ美味しいですよ。食べませんか?」慌てて彼に料理を勧める。

「あっ…ごめん。美味しそうに食べるなぁと思って、ついつい見ちゃって。俺は大丈夫。もうお腹いっぱい。」
そう言うと彼は微笑んだ。

彼の笑顔が私の心にフワッと広がる。
それをきっかけに、私と彼は好きな食べ物とか美味しいお店の話を少し話した。
と言っても、話していたのは殆ど私だったけど。

「それじゃ、そろそろ…」先輩の言葉に時計を見ると21時過ぎだった。
その時気が付いた。
最初は飲み会なんて面倒くさくて断ろうと思っていたのに、何だか名残惜しい気持ちになっている事を。
もう少し彼と話をしてみたい。
彼の話しを聞いてみたい…。

そんな私の気持ちに気付くはずもなく、先輩は会計を済ませて席へ戻ってきた。
「よしっ、それじゃ皆んなで連絡先交換しよう!」店先へ向かいながら友人が携帯を取り出し、彼にアドレスを聞いている。
えっ…どうしよう…と躊躇っていると、
彼の先輩が「里穂ちゃん、連絡先聞いてもいい?」と携帯を差し出してきた。

「えっと…あっ、はい」と自分の連絡先を伝え、携帯を手にしたまま彼の方をチラッと見る。
彼と連絡先の交換をしたい…
そんな気持ちが伝わったのか、彼の先輩が「宮崎!お前も里穂ちゃんと連絡先の交換するだろ?」と彼に声をかけた。

「えっ⁈ あっ…はい。」
彼は斜めがけしたバッグから携帯を取り出し、「えっと…あれっ?…自分のアドレスってどうやって表示するんだっけ?」と携帯の画面を私に見せてきた。

「えっと…それじゃ私の連絡先を登録しますね。」彼の携帯を操作して電話番号とアドレスを登録し、自分の携帯に送信する。

その様子を見届けた彼の先輩が、「俺たちこの後2件目行くけどどうする?」と近づいてきた。

私と彼が「あっ…いや私は…」「俺は…」と答えに困っていると、「それじゃ宮崎、里穂ちゃん駅まで送ってやれよ」と言い、私の友人に「それじゃ行こうか?」と声をかけて先に行ってしまった。

「えっ!先輩!」と彼は少し慌てていたけど「駅まで送るよ」と少しぶっきらぼうに言うと歩き始めた。

彼の後を慌てて追いかける。
彼は歩くスピードを少し緩めて私が追いつくのを待ち、2人並んで無言で歩く。
もう少し彼と話したい…。
そう思っていたのに、いざとなると言葉が見つからない。

駅まで10分ちょっとの道を2人で黙って歩いていると、ポツポツと雨が降り始めた。
「うわっ!雨降ってきた!急ごう。」
彼は歩くスピードを上げる。
私は少し小走りで彼について行くが、雨は本格的に降り始めてしまった。

駅まではまだ5分以上かかる。
彼は私を振り返り、「ちょっと雨が止むのを待とうか?」そう言って店の軒先で立ち止まった。

「大丈夫?結構濡れたよね?」
彼は私の顔を覗き込む。
「あっ、でもこれくらいだったらすぐ乾くと思うから…」
ハンカチで濡れた体を拭きながら答える。

「これはしばらく止みそうにないな…」彼は呟くと「そこのお店でコーヒーでも飲みながら雨宿りしよっか?」
斜め前にある喫茶店を指差した。

「大丈夫?少しは温まった?」
彼は一口飲むとコーヒーカップをテーブルに置いた。

近くにチェーンのコーヒーショップがあるせいか、店には私たちともう一組しか客はいない。

「うん、もう殆ど乾いたし。コーヒー飲んで温まりました。」
「良かった。濡れたまま電車に乗せるわけにもいかないし、風邪ひかせたら悪いしね。」
彼は微笑んだ。

喫茶店に入って雨が止むのを待ちながら私たちはお互いのことをポツリポツリと話した。
彼が岐阜の出身で東京に来て5年ほどになる事。
学生時代は陸上部で駅伝の選手だった事。
上京して5年経つのに時々訛りが出てしまう事。
そんな事をコーヒーを飲みながら彼は話してくれた。

「あの…学生時代の彼女ってどんな人だったんですか?」
私は思い切って聞いてみた。

「えっ?彼女?
あぁ…さっきの先輩の話?彼女じゃないよ。
付き合ってないし…。」

「えっ?」
私が、どういう事?と目で問いかけると、

「参ったな…
付き合ってもないのに忘れられないって…
こういうの変?」

私が何も言えずにいると
「俺、何言ってるんだろう…。
ごめん。今の話忘れて。」
彼はコーヒーを一口飲んで腕時計を見た。

彼の目に一瞬灯った優しい光。
そしてその奥に見える陰。
私の胸がチクっと痛む。

外を見ると雨はさっきより小降りになっていた。
「ちょっと待ってて。俺、そこのコンビニで傘買ってくるから。」
そう言うと彼は店を出て近くのコンビニでビニール傘を買ってきた。

「そろそろ出ようか?遅くなっちゃうし、雨も小降りになったから。」
店を出ると彼は私に傘を差し掛けてきた。
「ごめん。傘1本しか残ってなくて。肩濡れてない?」駅まで相合傘で彼と歩く。
駅までの5分ちょっとの道はあっという間だった。

「この傘使って。」
彼は傘を畳むと私に渡す。

「えっ、でも宮崎さん濡れちゃうじゃないですか?」
「俺はいいから。ここからそんなに遠くないし。雨も小降りになったから大丈夫。」

「それじゃ…ありがとうございます。」

私がお礼を言うと、「気をつけて帰ってね。」
彼は改札の前で手を振って帰っていった。

自宅に戻りシャワーを浴びて髪をドライヤーで乾かしながら彼を思い出す。

少しぶっきらぼうだけど優しくて穏やかな話し方。目の奥に灯る優しい光…そしてよぎる陰。
私が濡れないようにと傘を差し掛け歩く彼の横顔。別れ際に微笑んで手を振って去って行く後ろ姿。

テーブルに置いた携帯には、友人から「今日は来てくれてありがとう」というメールと、彼の先輩から「今日は楽しかったよ、ありがとう」というメールが届いていた。

彼からメールは来ていない。
でも、彼の目によぎった影を思い出すとメールは来ないような気がした。

私は携帯のメールを立ち上げて「今日はありがとうございました。今日の傘のお礼に、良かったら今度ランチに行きませんか?」
そこまで打つとメールを送信した。

ふと思いついた話しを軽く書いたつもりが長くなってしまいました…。
大輝自身は、ずっと梨央の事が心の中にいたけど出会いはあって、想いを寄せられる事もあったのかなぁ…
そんな事を妄想して書いた話です。

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