令和4年司法試験の再現答案作成を終えての雑感

 先週に再現答案を作り終えていましたが、どうも現実を見たくないという感情に流され、総括から逃げていました。
 しかし、現状の主観的評価を一応しておくと結果発表後のアクションに繋がりやすいことは明白なので、この場で雑感を残しておこうと思います。

1.憲法
 学問の自由と大学の自治との衝突が真正面から問われた内容でした。学問の自由といえば東大ポポロ事件や旭川学テ事件が想起されますが、本問ではこれらのリーディングケースを直接用いることはできない事案だと思いました。一般的な法令審査や、適用審査の類型ではない処分審査の事案であるため、目的手段審査をすぐに使っていいものか数分悩みましたが、現場ではこれを避け、「大学の自治の行使の範囲内か否か」という基準で論証しました。
 論証の中で中心的に検討したのは、①公権力的な立場からの抗議をきっかけに調査し、結果として教授への助成金を認めなかった点が天皇機関説事件や滝川事件と同じような問題を生じさせていること、②大学からの助成はいわば大学側が後見的に当該研究を後押しする外観を呈するため、一定程度内容に着目することは可能である点(政府言論の法理を学問の自由に波及)、③大学における学問共同体の自律権が学問の自由の本質的側面を有していることから、その共同体の中心である大学教授らのピアレビューにより判断された内容は尊重される(公権力により一方的になされる恣意性や不当性はない)点、といったところです。もっとも、今思えば、もっと基本的な内容を事実に即して細かく検討すべきであったなあ…と後悔しています。

2.行政法
 設問1(1)との関係では、小田急判決に従って①「法律上の利益を有する者」の意義、②「処分…の相手方以外の者」の指摘、③処分の根拠規定の趣旨・目的、④関係法令の趣旨・目的、⑤開発許可制度の趣旨・目的、⑥利益の内容・性質の考慮、⑦一般的結論(開発許可制度において第三者の利益は法律上の利益か)、⑧具体的結論(当該原告の原告適格の有無)を書いています。もっとも、会議録でなされていた誘導文の判例を全く参照していない点は勿体無いな、と思いました。ただ、今でも原告適格は基本的に法令の仕組み解釈から導かれるものであり、個別事案の判例を参照させることに何の意味があるのか、と思っています。
 設問1(2)との関係では、訴えの利益の規範が完全に抜け落ちていました。「除去すべき法律効果が残っているか」とかいうなんともいえない規範です。笑ってください。
(追記)あれ、もしかして合ってる…?
 もっとも、ここでは判例を使えたなあ、と思います。具体的に、訴えの利益の消滅に関しては①建築基準法における建築確認、②都市計画法における市街化区域の開発許可、③市街化調整区域の開発許可の事案を軽く抑えていたのが効きました。合っているかはわかりませんが。
 設問2との関係では全て裁量権濫用(裁量基準との関係だったので純粋な判断過程統制ではないです)の中身で書きました。ここらで時間が押していたのでもう何が何やら、という感じです。ノリで書いた感じがします。音声録音の声も半泣き半笑いでした。

3.民法
 設問1(1)では、すぐさま94条2項類推適用+110条類推適用の事案だと思いましたが、契約書の偽造や登記移転手続書の偽造といった行為をAが現認しているか判然としない点が気になりました(ここで真の権利者の帰責性要件の結論を左右し、第三者の信頼へと進めなくなる可能性がありました)。ここで思い出したのが、考査委員である田高教授が法学教室で書かれていた民法の答案の書き方です。わからない事情がある場合には場合分けしましょうという内容があった気がしたので、ひとまず場合分けをして第三者の信頼を書く筋を確保しました。もっとも、普通に否定しても良かったかなあ、という感じです。
 設問1(2)では、請求1に関して、合格思考民法で書いてあった気がしますが、まず転得者の第三者性を検討し、その後に背信的悪意者からの転得者であることが前記第三者性に影響を与えるか、という論述順序にしました。
 設問2では、(ウ)の根拠として、賃貸人たる地位の留保特則を認めて安易に留保を認めてしまいましたが、条文上、特則の合意だけではダメなんですよね。「又は」と「及び」を読み間違えているという法律家としては最悪の過ちを犯しています。これは良くない。金井高志『民法でみる法律学習法』を熟読しなければなりませんね。
また、その関係でいつの時点に賃貸人たる地位が移転するのかに問題が波及してしまいます。仮に留保を認めた場合であっても、譲渡担保権者が担保権実行の意思表示をしなければ賃借人は誰に弁済すれば良いのかわからない以上、その時点まで留保される、と考えるのがいいのでしょうか。私の答案では兎に角合意は最強!合意が終われば原則どおり、みたいなゴリ押し論です。良くないですねえ。
 設問3は、致命的なミスです。これ短答で聞かれているんですよね(H29-25オ、最判S47.5.25)。流石に辛い。

商法
 設問1に関しては割と淡々と書けたと思います。特にいうことはない。
 設問2に関してはフワッと当てはめした気がしてならないので書き負け必至。
 設問3に関しては致命傷を負っています。22条1項直接適用ですって。典型論点すら知らんのかい(条文すら読めんのかい)。民事訴訟法の「「株式会社Mテック」という商号」という事情を見て、冷や汗が止まりませんでした。商号って会社名やん。

民事訴訟法
 設問1の課題1では、どっちかが判例のような実質的表示説、どっちかはなんか他の学説、そして後の設問では被告は「乙」になるらしい。…ということは乙が実質的表示説だな、とかいうメタ思考で乗り越えた感が強いです。ただ対立する立場を知らない。答案では行動説なるものを創出しております。認識を考慮する行動説ってなんやねん、笑かすなや、という感じです。知らなかったものは仕方ない…
 課題2…裁判上の自白の意義をド忘れする。答案構成用紙にいろんな書き方をしていて笑ってしまいそうです。どうも擬制自白がチラついて、単に請求原因事実に対して○をつけることだってことが飛んでいました。奇跡的に近い内容の定義を書けていましたが、定義がアヤフヤであれば当てはめもあーだこーだ、という感じです。自白の撤回に関しては過去問でやったなあ…という感じで自白の不要証効+裁判所拘束力=当事者拘束力を書きました。論パです。反真実ならば錯誤が推定される、推定は覆るといった内容を書いてます。司法試験なのでおそらく錯誤がなくてもなんらかの要因で撤回可能、という内容を書かせたかったのでしょうか。知らんわそんなもん。
 設問2はもはや感想文でした。詰んでる。兎に角法人格を濫用しているとも評価できるから悪いやつなんだ、一括処理すべきなんだ的な内容をクドクド書いてます。いや、中身はない。
 設問3では、ようわからん定義を書きました。「情報を紙媒体に固定されたもの」みたいな。時間が余っていたので現場で閃いたことを書いた気がします。編集履歴が残って最良証拠じゃん!みたいな。現場のひらめきって怖いですよね。もっと法律論をだな…。

刑法
 設問1で2頁使うという暴挙を犯さなければまあマシな答案だった気がします。「簡潔に」という言葉を知らんのか君は。書けるだけ書く、ただそれだけだった。
 設問2では、「急迫」の要件を誰基準で検討するか、という問題意識が聞かれました。私は普通に客観的に「急迫」性があるか否かをみる基準で書きましたが、大学院の子に聞いたところ、以前に教授と議論した際に“正当防衛の制度趣旨を考えると防衛行為者を基準にしたほうが素直”と聞いたようです。ただし、その際に、判例はないので立場の相違にすぎない、とも仰っていたようで、なんとなく救われた気がします。他には、典型論点の過剰性を認識していた場合の36条2項準用の可否をすっ飛ばしていますが、時間が無かったのと、犯罪は成立するしなあ、刑の減刑にそこまで点数あるのかなあ、と試験終了直後に思っていた記憶が今でもあります。書けるなら書けマヌケ。
(追記6.3)他の大学院の子からは「急迫」でH29年判例を大展開する人を落とす問題、と言われてとても悲しくなっています。私の答案はH29を使っていない、S50を使っている、とも言われました。私が認識していたH29年判例とはなんだったのか…。
橋爪隆「刑法総論の悩みどころ」ではS50では「急迫」を否定するための“要件”として①侵害の予期、②積極的加害意思が必要であり、H29ではその規範を36条の趣旨に照らして許容されない場合、その判断資料が全体的な状況、考慮要素が①ないし⑨とのこと。別に大展開しても大して問題ないのでは?とまだ考えています。

刑事訴訟法
 設問1ではおとり捜査からの出題でした。これはもう多和田調査官解説にベタ寄りして規範を書きました。捜査の公正さは素朴な道義観念に過ぎず、これを考量の片方に据えるのは疑問である、的な内容を読んで「ふーん、おもしれえ奴じゃん」と思った記憶が蘇りました。
 設問2では訴因変更の要否からの出題です。ここでも規範ド忘れですよ、年かな…。どうしようもないので訴因の設定権者、裁判所拘束、訴因の機能、争点明確化といったキーワードを繋げてそれっぽい規範を書いてます。良く見たらバレる、こいつ忘れたな、と。
 設問2後段はもうわけわかめんたいコアラのマーチ状態。共謀の日時は公訴事実に顕出されない任意的記載事項だから求釈明を受けて釈明しても訴因の対象にならない、という知識からなんとかしようとしました。アリバイの立証できてないよ!不意打ちだよ!って書いてます。だから法律論を書け。

総括
 以上が、令和4年司法試験の現在(6月1日)の雑感です。落ちてる匂いがプンプンしますね。結構落としてはいけない内容を落としている気がします。条文の読み方然り、典型論点然り。
 ほとんど閲覧されることはないと思いますが、これは自分のため、来年の準備のため、と言い聞かせ、だだーッと書き連ねました。司法試験に既に2回落ちている経験からして、受験生のレベルは私の中で高いです。どんなに簡単になったと評価されようと、私には難しい試験でした。
 来年の司法試験は7月、まだ1年以上ありますので、来年度は論証をしっかり吐き出せるように短文事例問題集の反復と、短答の強化に注力したいと思います。

               以上

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