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X-CLOWさんのマイリスト感想


◇猫馬が左に佇む音楽会用リスト(X-CLOWさん)
http://www.nicovideo.jp/mylist/57110075


#猫馬が左に佇む音楽会  というタグで、皆さんがやっていた良曲紹介(してもらう)企画を行い、100曲ほど聴かせていただいて好みの作品を選び、そして無事に発表放送が終わった……肩の荷が下りた、と思っていた私は。

ご指摘を受けて、慌てて見落としていたX-CLOWさんのマイリストを巡って。
その際に、マイリスト上のコメントに付されていた文章を何の気なしにググったわけですね。

「ん……これ、別の曲の歌詞だ……!?」

というわけで、以下長文になりますが、マイリストへの収録曲と、コメントで示唆された曲、両方含めての感想です。

よろしくお願いします。



X-CLOWさんのマイリストは、枠組みを空想庭園シリーズから借りて、各作品を「物語」をテーマとして再編成したもの。各作品もそれぞれ同じ作者さんの他作品に、世界観またはイメージ上で繋がっています。

マイリストに付された各作品ごとのコメントで示唆された他作品への導線は、物語世界をジャンプしていく中継地点として機能しています。

うーわー。これは大変でしたでしょう。お疲れ様です。

そして同時に楽しい工程だったのではないでしょうか。聴かせていただくのも、悩みつつも楽しかったですよ。感想を長いことお待たせしてしまったのは切に申し訳ないですが……。

主に歌詞とイメージに対する感想、書き散らしていきます。


まずは「ネコソギマターバップ」。

「ゴーストライト」を下敷きにして聴くと思入れ深くなりますね。位置としては続編になるのかな。サトちゃんの思いを継いだ彼女(?)が座右の銘とする"本当か偽物(ウソ)かなんてどうでもいいんさ"には、出自よりも行動をこそ意味の在り処として選択する意志が読み取れます。「ゴーストライト」の哀しさがあって、その上に「ネコソギマターバップ」の明るさがある。ピンチの時でも途切れない明るいメロディは、彼女(?)の決意。


「世迷言ユニバース」。

同じCD収録の「さよならレトロニューワールド」と裏腹の関係とも取れますね。決定論に満ちた未来世界は現実ゆえ逃げられず、愛おしい仮想空間にはボタン一つでお別れを告げて。曲調も対照的。世界同士の関係は鏡写しではなく、入れ子構造とも捉えられるかも。つまり「世迷言」世界が「さよなら」で語られた仮想空間であったり、あるいは「さよなら」の現実世界が未来へシフトすると「世迷言」世界になるのかもしれない。


「18号のBlue-Gene」。

「センチメンタル・アンドロイド」とともに、<トランジスタの道化団>シリーズでの連作。いやあ、これはずるい。「18号のBlue-Gene」のパワーはこのマイリストの中でも群を抜いています。この曲が入ってるという一点だけでもこのシリーズは素晴らしい。M3で<トランジスタの道化団>CD買っちゃいましたよ。

閑話休題。この二曲で主人公は共通していないのですが、同シリーズだけあってアンドロイドとしての境遇としてはほぼ共通。機械的秩序からはバグとして扱われる自意識の芽生えを描く「センチメンタル」に対して、「18号」はさらに自意識の先、他者と関わる"心"を自覚して"ヒトとして生まれて"出発点とする話を描いています。成長の余地ある少年主人公のイメージゆえにレンの起用なんでしょうか。


「WORLD'S END UMBRELLA」。

「THE WORLD END UMBRELLA」をリテイクした作品。いやあ、アレンジはもちろん違うんですが、歌詞も少しだけ違うんですね。そこはあまり意識してませんでした。全体のイメージはあまり変わらないんですが、南方研究所さんのPVが印象に強く、この作品を回想する際には後者のイメージが前に出てきます。歌詞も、たとえば前者の"いつか見ていた絵本の空を約束にして"は、後者では"二人きりの約束をした「絵本の中に見つけた空を見に行こう」"と変更されていて、より視覚的に分かりやすい。もちろん、前者のハチさん自らによるマウス手描き絵も味がありますし、歌詞もより多義的で解釈の幅があるともいえるのですが。


「添い遂げたアンドロイドへ」。

これと「エターナルミルキーウェイ」のテーマにも、いくつかの対が認められます。前者は、子供同士の閉じた幸福な世界への逃避と、死に際しての関係の成就。晴れ渡る空に、供えられた花。ピンクのファレノプシス(コチョウラン)の花言葉は「あなたを愛しています」。後者は、学生時代から社会に関わる大人への成長、その中でも変わらない距離。見上げるのは夜空の星。"夜の音 時計は 明日を指す"という冒頭の歌詞が、曲想を端的に表しています。私は後者の方が好きですが、どちらを好むかの傾向も、聴き手の歳を反映していそうですね。


「Θ」。

コメントの文言の在り処が分からなかったですが、おそらくcosMoさんのCDもしくは設定資料集の中にあるのではないかと。現実と想像を往還する話なので(最後は帰ってこれませんが)、マイリスト上の折り返し地点に配置してあるのでしょうか。しーたんかわいい(ぉ


「おおかみなんかこわくないッ!」。

同作者の「Guilty Rose」と比べると、前者は世間知らずが噛まれて成長するという性的な暗喩をイメージさせるもので、後者は酸いも甘いも嚙み分けた大人同士が遣り取りするという対比になっています。後者はフルが聴けないので、より詳細なイメージは描きにくいですが……前者であっても単なる教訓譚で終わらせずにオチをつけるのが、OSTERさんらしいといえばらしいです。


「ツギハギシティ・プロトコル」。

歌詞だけでなくPVまで見ないと、そして「計画都市」のイメージを説明したmillstonesさんの解説を見ないと、解釈の仕方などという以前に、双方が同じ世界観であることが分かりませんね。視聴者コメントから類推はできるでしょうが……。前者の投稿者コメントに"知っている女の子に付いて行ってはいけません。"とありますが、私的にはカウボーイビバップのエドの名言"きょーくんきょーくん!知らない人に会ったらついていきましょう~!"を意識したものかとも受け取れました。


「幽霊屋敷の首吊り少女」。

トーマさん作品の中では、私にとっては分かりやすい歌詞で好きです。亡霊となった"ひと夏の噂"の哀愁。「アザレアの亡霊」をどう読むかは難解で多義的ですが、亡霊となった"都市"を主格に据える解釈もあるようです。(私的には、自らを都市にたとえた心象風景とする解釈の方が納得がいくというか、より妥当だと感じられます。)いずれも、放り棄てられた側を"亡霊"と見做し、その視点から描いた二作品とも言えます。群衆が捨てたか、少女が捨てたかの違いはありますが、その違いは多分重要ではない。棄てられた側へ自分を重ね合わせてしまうため、両作品とも多くの支持を得ているのだと思えます。


「flowerless world」。

かめりあさんの曲は一部しか聴けてないので「君が死ぬのを眺めているよ」とともに初見でした。前者は超合金と重金属でできた世界から(我々が住む)金属の花が咲かない世界を想像する話で、後者はもっと難しいですが、無数の世界を経てさえ"誰にも気付かれず、記憶の資材置き場で君を待ち続けているモノ"の視点を描いている話。前者が異世界の手触りを描き出し、後者ではさらに概念的な異存在を主格に据えているのが、凄いとしか言いようがないです。

前者では、まだしも金属世界にいる我々同様の人類を何とか想像できそうですが、後者は想像の埒外ですね……。宇宙に備わった機能としての観察システムとか、あるいは現在という概念そのものを意図しているのか。私には分かりません。なんとなくア・バオ・ア・クゥーという想像上の生き物を思い出しました。ガンダムの要塞ではなく、ボルヘスの幻獣辞典の方です。どんな奴なのかはWikipediaを見てみてください。


「盲目の宇宙飛行士」。

「君と魔法の物語を」と同じく、yukkedoluceさん。両作品とも、貴方の人生そのものが他の人にとっての光であり、また物語であると、力強く伝えてくれる名作です。前者は"「光ならもう 見つけたの」"で涙ぐんでしまいますし、後者の"長くて短い物語"は歳経るごとに実感がつのります(汗)

人生は、盲目のまま手探りで進む宇宙であり、そして、自ら書き綴っていく物語でなおかつ一度しか辿れない旅路でもある。後者は、物語という対象そのものへの讃歌でもあります。映画フィルムの体裁をとったPVは物語の始まりと終わりを示唆し、呪いからの解放は果実をかじるイメージと相まって、ゆっけさんの代表作である「林檎売りの泡沫少女」を連想させます。

(星を貫く巨樹は、サン=テグジュペリ『星の王子さま』のバオバブにそっくりですが、あれは否定的イメージなので違うでしょう。)


こうして、「少女の空想庭園」と「ストーリィ×テラー」がなぜ最初と最後に配置されたか明白になりました。歌詞にすべて書かれています。


真っ白ノート ペンをとって 思うままに 書き連ねる たくさんの 物語の種
何の取り得もない ワタシが唯一したことは スタート地点を書いたことだけ
(「少女の空想庭園」)
同じ時空間に存在できないとしても/「物語」がきっと ワタシたちを結びつけるから!
よろしくお願いします。ワタシ"たち"の空想庭園(ファンタジア)!!!
(「ストーリィ×テラー」)


たくさんの贈り物が届きました。
X-CLOWさん、ありがとうございました。 


※トップ画像は、A★ndedさんから頂いた画像の一部を用いました。一部しか表示できないのが悔やまれます……うまく貼り直したい。

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