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見えない猫

小学生の時のことだったと思う。
父と母と私は、和室で敷布団を敷いて川の字で寝ていた。
私を間に左右に父と母。足元には箪笥と私の学習用机があった気がする。
いつものように電気を消して寝たのだが、夜中にはっと目が覚め身体を起こした。
すると、暗闇の中に何かがいる気配がする。私は瞬時に猫だ!と思った。猫が悠々と歩いている。
呆気に取られながらも、両親を叩き起こした。
真っ暗な視界の中で、私の声に驚いて立ち止まる猫が見えた。猫の方もびっくりしているような感じだった。

両親が起き出して、猫がいる!という私の言葉に不思議がりながらも電気をつけた。
何もいない。
さっきまでそこにいた猫がいない。夜中に叩き起こされた両親は、寝ぼけたんじゃないの?と迷惑そうな声を出して電気を消して布団の中に戻った。
いないものはしょうがないので、私も布団に横になった。

電気を消してしばらくすると、やはり足元に気配を感じる。
見えないながらも、それは私の方を凝視しているのもわかった。
怖い、頭の中は恐怖でいっぱいだった。
その時、かけていた羽毛布団が沈む感覚があった。四つ足歩行で近づいてくる。さっきのやっぱり猫だったんだ、どうしようと私は強く目を閉じた。

私の顔付近まできた猫は立ち止まり、顔を覗き込んだ。覗き込まれてる、そう感じた。

気づくと朝になっていた。今思うと覗き込まれた瞬間に気を失ったのかもしれない。
この話を大人になってから母にすると、そんなことあったけ?と言われた。
あの猫は一体なんだったのか。私が声を出すまで、猫の方も私が見ている見えているとは思ってなかったと思う。

怖い体験はそこまでしたことはないが、鮮明に覚えている記憶の一つである。

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