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会いたい人

私の育った小さな家は
目の前に川が流れていて
夜は澄み渡った空に星が瞬
いている
そして静寂な闇の中に
波の音がかすかに聞こえてくる
屋根に登ると
川の向こうに松林が見え
その奥に続く
海を
いつも近くに感じていた
波の音は同じではない 
時には
大地を叩きつけるような轟音の日もある
でも
大抵は
穏やかなのだ

切なくて物思いにふけいったある夜
ふらふらと土手を歩き
墓地を通り抜け
暗い松林の奥にある
海を見に行ったことがある

恐ろしさも何も感じない
ただ穏やかな静かな海に
包みこんでもらいたかった
そこには
海と
私だけ

あるときは
いつも心の中を見せ合える
気の合う友人がいた

登下校も同じ
交換日記をし
帰宅してからも電話
(もちろん家電)で話す
笑い合うときもあれば
悩みを共有し
2人で考え込む日もあった
そんな姿を見せ合える
唯一無二の友だった

私たちは
大人になったら
どんな話をするのかな

そういいながら
また海へ向かった

水平線がくっきりと見えている
その向こう側には
一体どんな世界が広がっているのだろう
どれくらいの時間をかければ
辿り着くことができるのだろう
想像をめぐらせていた

それから
何十年もの時を経て
再びその海の近くに住んでいる

私は水平線の向こう側へ
飛び立てたのだろうか

思い描いていた世界を
見ることができたのだろうか

相変わらず松林は
鬱蒼としている
その中にある小道は
小4の時に整備されたもの
その時なぜか
小道を走り回りながら
何とも言えない感動と喜びを感じたのだ
数十年の間
多くの人に踏み固められてきた
蓄積された落ち葉や砂に
歴史を感じる

その先には
昔と変わらないままの
きらきら輝く海がある

私には
会いたい人がいる

なので
いつかこの思いを
もしかしたら目につくかもしれない場所に
綴ってみたいと思ってきた

一人は兄のような人
もう一人は恩師

どんな姿であれば
喜んでもらえるだろう

希望に満ち溢れていた私のまま
できれば心の隅に残っていてほしいと願っている

恩師との再会

恩師との思い出もまた
この海にある

懐中電灯を片手に
夜の浜辺にワクワクしながら集まった
星の観察会や
クラス全員教室を抜け出して
海に向かって
1人ずつ
大声で叫んだ
バカヤロー大会

苦悩する青春の輝きが
ここに重なり合っている

随分と時を経て
当時恩師に語っていた夢も
約束も忘れてしまっていた

恩師は覚えていてくださったのだ!

恩師との再会で
強く感じたことは
もう一度
ありのままの自分として
生きていきたい
私は私なのだから
ということだった

どんなに苦悩しても
希望に満ち溢れて輝いていたはず

輝きが薄れてしまったとしても
あのときのまま
未完成な人間に変わりはない

歩みを続けなければいけない

まだ見ぬ世界が
水平線の彼方に
広がっているはず











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