フラーハウスとフルハウス

  フラーハウスをシーズン3まで観終わった。ソファでぐだっとしながら、或いは洗濯物を畳みながら、楽しませてもらった。どのエピソードもいい。フラーハウスというだけで、いい。

  フラーハウスの前作「フルハウス」とは、小学生のときに出会った。フルハウスだけでなく、天才てれびくんの後に放送されていた海外のシットコムがたまらなく好きだった。「サブリナ」「パパにはひみつ」「恋するマンハッタン」どれもドキドキしながら観たのを思い出す。深夜に放送されていた「ウィル&グレイス」も好きだったな。海外への、英語という言語への、漠然とした憧れを芽生えさせたのは、そのシットコムたちだった。

  英会話教室に行きたいと母に言ったことがあった。小学三年か、四年の頃だ。母はダメだと言った。わたしより一つ年下の子を引き合いに出してスイミングスクールへの入会を誘導したのに、ピアノやお習字に通うことは母が勝手に決めたのに、わたしが自発的にやりたいと言ったことは、問答無用で却下されてしまった。幼稚園のときに「体操教室じゃなくて、新体操がやりたい」と言ったときにも「みんな(同じバスの子たち)体操教室なんだからダメ!」と叱られた。理不尽だな。それはさておき、英会話教室へは入れてもらえなかったので、父の英和辞典と和英辞典を借りて、ノートに単語を書き写すということを一人でしていた。辞書を眺めているだけで興奮した。ノートにアルファベットが並ぶ。それだけで、胸が高鳴った。

  中学の頃には、海外に留学してみたいと思っていた。ブリトニー・スピアーズを初めて知ったとき、この世の中に、こんなにも美しい顔立ちをした人がいるなんてと衝撃を受けて、CDを買って曲を聞いた。「I'm not a girl,not yet a woman」の歌詞は自分と重なる部分があって、一番好きな曲だった。本当は、彼女じゃなくても誰でも良かったのかもしれない。海外に、英語に憧れる理由が欲しかった。「キューティ・ブロンド」「ブリジット・ジョーンズの日記」「プラダを着た悪魔」「The OC」「Sex and the city」「デスパレートな妻たち」「gossip girl」それからもラブコメを中心に、海外の映画やドラマがずっと好きだった。好きだったんだ。

  大人になって知り合った友人が、英語を使った仕事をしている。彼女は二十代の始めの二年間、アメリカに留学していたのだそうだ。「今だったら、とても無理。自分でもよく行ったなって思う」そう語る彼女が眩しくて、羨ましかった。わたしも飛び出していたら、なんて意味のないことを思ってしまう。

  フラー家のソファと同じ形の我が家のソファに座り、わたしは画面の中の憧れをただ見つめていることしかできない。

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